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2017.02.14

9.11以降の中東を中心とする問題について最近明らかになった驚くべき事実(英国議会の「チリコット報告」など)

  • 小手川 大助
  • 研究主幹
    小手川 大助
  • [研究分野]
    海外情報・ネットワーク

 昨年の7月以降、9.11及びその後のイラク侵攻、リビアの政権転覆の関係で、極めて重要な事実の解明や発表が、英米の議会を中心にあったので、それを整理してみたい。これは、その後、世界平和を脅かす最大の事件となった、シリアの内戦についても、大きな示唆を与えるものとなっている。


1. 2016年7月6日 チリコット報告の公表

 イラク調査、即ち2003年3月の英米のイラク侵攻に導いた一連の国家の役割に関する英国の公開調査(議長であるチリコット卿の名をとってチリコット報告とも称されている)が、7年間の聴聞、調査、証言を経て6000ページの報告として最終公表された。


(1)この報告によって明らかにされた点は以下のとおりである。

  • ① 9.11にサダム・フセインが関与したとの証拠は存在しない。
  • ② サダム・フセインは英米の利益に対し全く脅威を与えていなかった。
  • ③ 大量破壊兵器に関する情報はメリットのないもの(筆者注:即ち偽り)だった。
  • ④ 英国と米国は国連安保理事会の権限を計画的に失わせた。
  • ⑤ 2003年のイラク侵攻には法的根拠がなかった。

  • (2)報告では英国首相トニー・ブレアと米国大統領ジョージ・ブッシュの間に交わされた秘密の手紙が明らかにされ、米国大統領を操作し挑発した、トニー・ブレアの役割が明らかにされている。 ブレアの手紙の中には次のような表現が含まれている。 「今こそが次世代のための国際政治、即ち冷戦後の国際秩序をあなたが規定できる時である。」

    (3)報告では英米の指導者による偽りの情報の発出の証拠が明らかにされている。

    (4)報告公表後、トニー・ブレアは声明を出し、「誤りを認め」たものの、同時に、「嘘はついていないし、ごまかしもしていない」という主張を行っている。これに対し、英国の「戦争に反対する軍人の家族」の創始者であるレジナルド・キーズは、ブレアの声明を「気のふれた人のたわごと」と非難している。

    (5)チリコット報告は、イラク戦争はブッシュ/チェイニーの米国政府と英国首相トニー・ブレアによる、誤った情報に基くものであり、彼らが英国及び米国国民を意図的に間違った方向に導いたという証拠を収集し、それを公表した。イラク、リビア、シリアそしてその他すべての地域にその後に起こった大量の殺人と破壊は、2003年のこの偽りの情報が原因となっている。



    2. 2016年7月15日 28ページの公表

    (1)2002年に米国の上院情報特別委員会と下院の常設情報特別委員会は2001年9月11日のテロリスト攻撃に関する、議会による合同調査の結果を422ページの報告の形で公表した。しかしながら、ブッシュ政権の命令により、このうちの28ページについては対外秘とされ、大衆の目には曝されないこととされた。その後のブッシュ政権での7年間とそれに続くオバマ政権での7年間、米国大統領府は28ページの内容を米国国民に公表することをずっと拒否してきた。このたび、9.11の遺族を中心に、前上院議員ボブ・グラハム、下院議員ウオルター・ジョーンズ、下院議員スティーブン・リンチ等の要求を受けて、問題の28ページが7月15日に公表された。

    (2)公表により明らかになったのは、9月11日に世界貿易センターを攻撃したハイジャッカーに対する財政支援に関する、当時の駐米サウジアラビア大使バンダル・ビン・スルタン王子を始めとするサウジアラビア政府の直接の役割である。CIAとFBIから漏洩された文書は、ワシントンのサウジアラビア大使館やロスアンジェルスの同領事館を始めとして、サウジアラビア政府の役人がハイジャッカーに対し財政的そして物流移動上の支援を行ったことが述べられている。名前が挙がっているのは、バンダル王子、認定外交官シェイク・アル・トマイリー、明らかにサウジの情報機関のエージェントである、オサマ・バスナン、オマル・アル・バイユーミ、そしてファウド国王の甥のアドバイザーであるエサム・ガザミである。



    3. 2016年9月9日 テロ支援者に対する正義法(JASTA)の下院通過

     この法律は5月には上院を通過しており、下院でも全会一致で通過した。この法律は外国政府免責法と反テロリスト法を改正し、2001年9月11日の攻撃の犠牲者、その家族、負傷者がサウジアラビア政府、その役人などを相手として連邦法上の民事訴訟を可能とするものである。

     著名な英国下院議員は最近デーリーテレグラフ紙に9.11の背後にいるテロリスト達にロンドンが長期間活動の拠点を与えるなどの支援をしていたことから、サウジと並んで英国もJASTA法により訴えられる可能性があると論じている。



    4. 2016年9月13日 リビア戦争に関する英国下院外務特別委員会の報告の公表

     チリコット2とも呼ばれているこの報告は、リビア大統領ムアンマー・カダフィの殺害とリビア国家の破壊につながった2011年3月のNATOの行動に関する調査を公表した。

    (1)この英国下院の報告は、チリコット報告と同じく、リビアに対する英米の軍事介入は、偽りの情報と隠された動機に基づいたものであることを明確にしている。報告によれば、最初から目的はリビアの「体制の変更(レジーム・チェインジ)」であった。

    (2)報告は英国のデビッド・キャメロン首相がその後リビアに起こったことに「究極の責任がある」ことを激しく非難している。報告公表の1日前にキャメロンは議員を辞職した。

    (3)本報告はキャメロンの行動を詳らかにしたが、更に、リビアにおいて出現した混沌、ISISの出現を可能とした混沌について実際の責任を有する者としてバラク・オバマを名指ししている。そしてこの混沌が、2012年9月11日にベンガジで米国大使スティーブンスを殺害し、リビアの大量の兵器をシリアとイラクに運んだ過激派の手にリビアを手渡すことになったのである。報告は以下の通り述べている。

      「国連決議1973の文言を飛行禁止区域の設定を越えて、市民の保護に必要なあらゆる措置、に広げることを米国は助けた。現実問題として、これが飛行禁止区域の設置そしてリビア政府のすべての命令及び通信ネットワークを攻撃する権限を得ることにつながった。」

     2011年に外務大臣だったウイリアム・ヘイグ卿は委員会における証言で、キャメロンと英国が推した国連決議を「飛行禁止区域」から「あらゆる必要な措置」に変更したのはオバマ政権であったと述べている。



    5. 2016年9月23日 テロ支援者に対する正義法(JASTA)に対する大統領の拒否権発動と9月29日の米国上下両院による拒否権の無効化

    (1)テロ支援者に対する正義法(JASTA)に対し、オバマ大統領は9月23日に拒否権を発動した。

    (2)9月29日に、米国上下両院は圧倒的多数で大統領の拒否権を覆した。上院は97対1、下院は348対77の大差だった。サウジアラビアは議会に対し940万ドルと伝えられる資金を注ぎ込んで拒否権を維持しようとしたし、オバマ大統領自身が声明を両院の議長に対し発出した。結果はサウジアラビアとホワイトハウスの惨敗となった。

    (3)これにより、9.11の遺族はサウジアラビア政府を訴えることができるようになり、現在訴訟の準備が行われている。裁判を通じて、9.11の全容が更に解明されることが予想されている。



    6. 以上の進展が示唆するものは何であろうか。

    (1)9.11後のアフガン侵攻は別として、その後のイラク侵攻を正当化する理由はなく、9.11に関係する国があったとすれば、むしろサウジアラビアの方の可能性が高かったことになる。英米のイラク侵攻は、結果としてみれば、英米によるイラクの侵略ということになり、その結果フセイン政権が転覆され、イラクは混迷し、それに続くシリアの内戦とともに、2014年のISISの出現につながり、これが欧州への難民の増加の一因となった。

    (2)更に、2011年のリビアへの侵攻の結果、リビアはいくつもの過激派が権力争いを繰り広げる無法地帯となり、カダフィが集めた武器が他の地域での抗争に使われるとともに、欧州への難民を生み出すもととなったのである。

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