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2017.01.10

人工知能とロボティクスの政治:思わぬ米国の弱点と日本の強みの可能性 〜補完関係に向かって〜(上)

  • 櫛田 健児
  • International Research Fellow
    櫛田 健児
  • [研究分野]
    Political Economy, Information Technology, Politics

 12月の上旬に、米国ワシントンDCにあるNational Academy of Sciencesで「人工知能(AI)とロボティクス、政策への課題」というカンファレンスに出席してきた。そこには大学の人工知能の研究者、ホワイトハウスで経済政策を担当している人、米国の法律が専門の教授、並びに米国以外の国の有識者などが集まっていた。



(1)日本を「アウトサイダーの感覚」で評価することで強みが見える

 この会議はいくつかのパネルに分かれていたが、私は「インターナショナル」をテーマとしてパネルで日本についての話をした。その内容は、日本国内では当たり前のものだったが、日本を知らないアメリカの研究者たちからは驚きと期待の声が集まってきた。その内容については後程述べるが、重要なポイントとしては、ある程度アメリカでの議論を理解した上で、日本の状況のどこが面白そうなのかということの選別を行い、その話題を中心にとりあげた、ということである。

 これは一般的に重要なことだが、「インサイダーのみの視座では気づかないことがアウトサイダーの視座から見ると非常に重要に見えることがある」という、日米の架け橋を色々行なっている立場から見えてくるパターンである。日本の競争力を見出すことや、国としての魅力をどうやって見つけ、アピールするのか、といったことにも大きく関わってくる。例えば、コンテンツでもスタートアップでも、日本国内のものを国際展開させようと思う場合、どうやって国内のものを選別して国際展開させようと思うのか、というところが重要である。

 例えばスタートアップのピッチでも、「国内のコンテストで優勝したスタートアップにシリコンバレーでピッチの機会を与える」というスキームを作った場合、国内での審査員が評価するところと、シリコンバレーで評価されるところが一致しているとは限らない。もし最終目標がシリコンバレーで成功しそうなスタートアップの発掘だったら、シリコンバレーでの体験があるとは限らない国内の著名な審査員よりも、シリコンバレーで勝負したことがある人で、できれば日本のことにあまり詳しくない人がいいのではなかろうか、ということである。日本の「インサイダー」感覚ではなく、日本を「アウトサイダー」の感覚で捉え、目標であるシリコンバレーの「インサイダー感覚」を持った人の方がいいわけである。実はこの考え方を用いた取り組みを2015年12月に行った。シリコンバレーのインサイダーを数人、日本のスタートアップピッチコンテストやミーティングに参加させるというJapan Tripの企画だったが、それに同行させてもらったら非常に興味深かった。スタートアップのピッチコンテストにも参加したが、やはりシリコンバレーからの訪問者が選んだベストスタートアップは優勝したものとは異なっていた。しかし、シリコンバレーの投資家やアントプレナーは科学技術ベースの日本のスタートアップのレベルの高さには非常に感心していた。ただ、成長路線がシリコンバレーの水準のものほど描けていなかったのである。それはそれでいいのかもしれない。あえてシリコンバレーのベンチャーキャピタルが必要とする成長のスピードではなくても、日本市場でしっかりとした科学技術ベースのスタートアップエコシステムがシリコンバレーのものと共存し、日本で多少熟成してから一気に国際展開するという手もあるかもしれない。(もちろん、スピードが遅すぎると先を越されるだけなのでバランスが必要だが。)

 AIとロボティクスの話に戻すと、日米での今後の展開を理解するにあたってまず重要なのは、日本を「アウトサイダーの感覚」から見てこそ国際的な強みのポテンシャルが見える可能性が高いということである。



(2)どんな技術でも「インプリメンテーション」された時のインパクトが最重要

 私の研究パートナーにはIBMとグーグルのトップ研究者を務めたコンピューターサイエンスの分野では多大な功績を残している共著者がいるが、彼の印象的な発言には、「どんな技術でも、発明者にそのインパクトを聞いてはいけない」というものがある。原子を分裂させる技術やレーザー、インターネットを始め、ほとんどの科学技術や人類の発展に繋がった発明は、ユーザー(個人、企業、政府など)がどのように使うかということや、どういうビジネスロジックで社会に浸透するのかということが社会的なインパクトにつながってきた。研究者は色々な発明を世に出し、「これで問題A、問題Bが解決する」と主張するが、実際にそれがビジネス(や政府機関)に取り入れられて使われると、発明者の想定とはかなり異なる結果になることが多いのである。AIとロボティクスはここ短期間で急速な進展が見られてきたが、これらの技術もこの力学が当てはまると考えてもいいはずである。

 そしてインプリメンテーションのプロセスでは政府の政策や、各業界の独特な競争の仕組みを作りあげる制度、そして政治的な力学が働くことが多い。例えばインターネットの場合、基礎技術は米軍が出資した形の、アメリカ本土が核攻撃にあっても耐えうる分散化されたデータネットワークの構想から実用化が始まった。そして1990年代前半に冷戦が終わり、軍の予算がカットされる中で維持費を科学技術振興のための政府機関、National Science Foundation (NSF)に移行し、科学者のコミュニティーにガバナンスを任せようということになった。当初はアメリカ国内の接続に限定し、商業的な用途には使用できないことになっていた。America OnlineやCompuserveといった巨大な商用ネットワークサービスの提供者はインターネットに自社のサービスをつなぐことを許されず、それぞれクローズドなネットワークで、コンテンツも独自のものを提供していた。そして1990年代半ばに、NSFから民間の非営利団体にインターネットのガバナンスとバックボーンのメンテナンスが移行された。このタイミングでインターネットはグローバルなオープンネットワークとなり、爆発的に伸びた。しかし、もっとも恩恵を受けたのはネットワークを展開するインターネットサービスプロバイダーなどではなく、インターネットの上で付加価値を生み出したグーグル(世界でもっとも市場価値も現金預金も多い企業の一つ)などの企業である。

 AIとロボティクスは、どこまでが「発明」の付加価値になり、どこからが「インプリメンテーションの形による付加価値」になるのかというと、長期的には後者である可能性は否定できない。今、ゴールドラッシュのごとくシリコンバレーでは世界中から集まる資金をバックにAIのトップ研究者が次々に高額な市場価値で一本釣りされているが、これはまだ技術が初期段階だからだという可能性が高い。(トヨタがスタンフォード大学に25億円ほどで作った自動運転の共同研究所も、主任教授が先月グーグルに移ってしまった。)あらゆるビジネスがこぞって「発明者を揃えればいち早くインプリメンテーションにすることで莫大な収益になるはずである」という考えで動いているが、その多くはこのシナリオ通りにはならない可能性もある。例えばグーグルのAIエンジンであるDeep Mindが一般向けに、低い月額のサブスクリプション制度でオファーされた場合、上手にインプリメンテーションができた方が勝ちとなる。Deep Mindほど優れたアルゴリズムとデータ、プロセシングパワーを揃えられる作り手はそう数は多くなく、いったん「シロモノAI」の時代になったら開発者を巡るゴールドラッシュは落ち着くかもしれない。しかし、AIの大きなインパクトは、そういった技術が普及し、当初開発者が想定しない形でのインプリメンテーションがより容易になった時に来る可能性が高い。そこで政治と政策の話になるのだ。



(3)雇用と人工知能の関係と政治的力学

 アメリカでのAIの政策議論は、雇用の問題を中心に論じられている。特に、雇用が失われる可能性は政治的に非常に敏感なトピックである。次期大統領のトランプ氏も、大統領選挙では300万票ほど得票数が上回ったクリントン氏も、グローバル化によって失われた職に対しての対策を前面に出していたので、AIやロボティクスの研究者は自らの研究開発の結果が職を奪うというラベルを貼られると、次期政権での研究予算や様々なルールを通して迫害を受ける可能性を危惧している。ホワイトハウスの経済政策担当者は雇用の問題のみならず、所得の格差を広げ得る可能性に対しても警鐘を鳴らしていた。次期政権においてAIとロボティクスは政治的な向かい風によってアメリカ社会でのインプリメンテーションが遅れることを研究者たちは危惧しているのである。



(4)政治的要因で技術の難易度とは逆の順番で進むアメリカの自動運転

 AIの研究者の指摘には、そもそもアメリカではAIの社会的な導入が、政治的な力学で技術的な難易度とは逆の順番でインプリメントされている、というものがあった。電車、ドローン、そして自動車を並べると、どう考えても電車が一番簡単なのだが、アメリカの電車は多くの発展途上国以下の水準でインフラ整備がショッキングなほど遅れている。

 例えばニューヨークからフィラデルフィアへの電車は、時刻表を見ると、1960年代よりも現在の方が45分ほど時間がかかっていることがうかがえる。その理由は駅の数が増えたのではなく、橋などのインフラの老朽化で、50年前に比べて速度を落とさないといけないからだという。しかもシリコンバレーの大動脈であるサンフランシスコからサンノゼの間を走る電車はラッシュ時以外と週末は1時間に1本しか走っていないし、快速もない。その大きな理由はコストで、車体が重いディーゼル車なのでラッシュ時以外は走らせる度に相当な赤字になるらしい。(そもそも本数が少ないからラッシュ時以外の乗車率が低いというのは言うまでもない。)しかもラッシュ時に本数を増やせないのは信号がデジタル制御になっていないためで、これ以上電車の間隔を縮めることができないというのである。なぜこんなことになったかということの元をたどれば、政治的に車とフリーウェイを公共交通機関より優先させ、鉄道運営機構の資金源を限定させていたことにある。その背景にはソビエトとの冷戦のさなか、アメリカの東海岸にも西海岸にも素早く軍備を展開できるようにする国立ハイウェイネットワークの構築という政治判断による資金投入だけではなく、車社会の普及からの恩恵を受けようと考えていた石油会社からの政治的な働きかけがあったという歴史的政治背景がある。アメリカのエネルギー関連の技術開発の方向性とそのインプリメンテーションにもオイルマネーの影響は大きかった。ブッシュ政権はオイルマネーとの関係が深く、ソーラーや水素といった気候変動に太刀打ちするための技術開発は根こそぎサポートを減らされたという背景がある。そしてオバマ政権になったら、公害規制の名の下に、かなり大胆な規制が自動車にかけられることになり、世界の自動車メーカーはこぞって電気自動車や低燃費の車に対する取り組みを大幅に強化する方向に動いた。

 政治的な力学は技術開発とインプリメンテーションを大きく左右するのだ。AIも例外ではない。

 ちなみにアメリカではドローンへのAI制御の導入は自動車よりもずっと後になる可能性が高いという研究者の見解がある。その理由はドローンが三次元の空間移動をするということで、一見難しそうに見えるという一般的なイメージが先行してしまうからである。ところが実際にはドローンが直面するほとんどの障害物は動くものではないので、技術的には案外簡単なのである、という主張だった。バッテリー不具合の時の不時着の制御など、そういったこと以外、比較的楽なのである。

 実はその教授は何年も前に米軍で戦闘機を操縦するパイロットだったのだが(セカンドキャリアとして軍人から大学院の博士課程に入学し、そこからトップ教授になるというキャリアパスの可能性自体、アメリカの強みである)、90年代の最新鋭の戦闘機はすでに離陸などは完全に自動運転となっていたというのだ。空母から直接飛び立つ手順は、パイロット操作は逆に邪魔になるので、完全に機械に任せないといけないという規定になっていたのである。したがって皮肉にも、パイロットとしての技術が「トップのトップ」であり、そこを目指して厳しいトレーニングと競争から上がってきたエースパイロットは、トップに登り詰めて空母を発着する最新鋭の戦闘機パイロットになった途端、自分のすることが劇的に減るのである。しかも軍の戦闘機の場合、機械の方が圧倒的に反射神経が早いので、「ドッグファイト」などの戦闘状態に入ったら機械の方が強いわけである。その教授の経験から20年近く経っているが、今では民間のエアバスの最新鋭の航空機のパイロットは平均3分ほどしか操縦桿に触れていないというのである。

 つまり、ドローンの自動運転は空を飛ぶマシンということで社会的に受け入れにくい側面があるので、規制による完全自動化はもう少し先になりそうだという話だった。

 しかし、自動車は技術的には非常に難しいのに、実用化に向けて今、猛烈な開発ラッシュが起こっている。グーグルの完全自動運転の車が発表され、大手自動車メーカーがこぞってシリコンバレーに拠点を作ったり提携をしたり、出資をして自動運転に取り組み、自動運転に向けてプロジェクトを進める開発者たちの市場価値が爆発的に伸びた。グーグルの自動運転のチームが独立し、長距離トラックの自動運転システムを開発するスタートアップが数カ月後に700億円ほどの価格でウーバーに買収されたり、カーネギーメロン大学のAIとロボティクスのラボの教授と研究者と研究スタッフが40人ほど一気にウーバーに引き抜かれたりしている状況は日常茶飯事となっている。

 ワシントンでの会議の2日後、12月14日にウーバーはサンフランシスコで自動運転タクシーのサービスを開始した。ワシントンの会議に出席した人工知能の教授は、技術的には難しい完全自動運転が実用化され、技術が未熟なまま人身事故を起こして自動運転の普及そのものを遅らせることに対して警鐘を鳴らしていたが、その直後のことだった。しかもウーバーはサンフランシスコでの自動車の規制当局、Department of Motor Vehicles (DMV) に認可を取っていなかった。そして数日後、DMVが自動運転を行っていた車そのものの登録を取り消し、自動運転の実験を停止せざるを得なかった。しかし、ピッツバーグでは認可の制度が異なっていたため、数カ月前から自動運転タクシーが運転されていて、それは普通に続行できるということだった。

 これはウーバーが規制の重要性を読み違えたのではなく、あえて無視して注目を集め、安全であるということをアピールしたという戦略に見える。アメリカは州によって規制が異なるので、もしこれが巨大市場であるカリフォルニアの州政府を動かすための工作だったとしたら、注目を浴びたことは大成功と言える。しかし、ウーバーがそこまでして規制当局にプレッシャーをかけるようなことをしようと考えた背景には、やはり規制の重要性と、それを動かし得る政治の影響が見える。新しい政権での政策はまだ未知数な側面が多いので、まずは色々な州を競争させて自動運転に対する好意的な規制を作ってもらおうという作戦なのかもしれない。実際にサンフランシスコで使われたウーバーの自動運転車は、アリゾナ州の方に移送されていったという。アリゾナ州はカリフォルニアほど規制がなく、州知事も「是非うちに来てください」とアピールしていたのである。

 大勢の職を奪いうるAIとロボティクスのインプリメンテーションには政治の力が関わってくるのがよく分かる例である。




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