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2016.09.06

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第89号(2016年9月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 かつてほどの輝きは消えて次第に翳りが見え始めたとはいえ、今なおグローバルな形で影響力を強める中国の将来に関しては楽観と悲観が併存し、世界中の実務家や研究者の頭を悩ませている。これに関して、米Wall Street Journal紙も透明性に欠ける中国資本の対外進出に対し、"How to Balance Security and Openness"との疑問を提起している(次の2を参照)。相対的国力の差が米中間で縮まるなか、米国はinnovationを通じ中長期的な優位性を維持・改善しようとしている。こうした政策の1つ、国防総省(DoD)が昨年創設したinnovation推進組織(Defense Innovation Unity-eXperimental (DIUx))に関しては小誌4月号で簡単に触れたが、そのSilicon Valley Officeに続き7月末に創設されたBoston Officeに注目している。Boston DIUx開設に際して、アシュトン・カーター国防長官が7月26日に行った演説は興味深い。

 冷戦時代の軍事技術は"bigger and better"を目指したが、現在は、"speed and agility"を念頭に、"a culture of innovation"が重要であると述べている。また長官は、中露両国が米国との技術的ギャップを埋めるため、軍隊の近代化に注力しているが、これに対してDoDは来年度の国防関連R&D予算として720億ドルを投入すると述べている。

 中国同様、ロシアの動きも目が離せない。昨年夏に英米のシンクタンク(Chatham House and Brookings Institution)が出版した研究書(Russia and the New World Disorder)は、中国の抬頭と同時に"the Axis of Convenience"から進化し緊密になった中露関係により、国際関係が一層複雑化したことを強調している。

 そして今、ロシアが6月に本格的調査を実施した千島列島の松輪島(Матуа; Matua)における海軍基地建設の計画の情報に注目している。例えばロシアの通信社(Спутник; Sputnik)は露海軍の新たな動きを想定し、モスクワのシンクタンク(Центр стратегической конъюнктуры (ЦСК))の見解を伝えている("США могут создать в АТР новый военный альянс", 7月1日)。

 暗雲が立ち込め始めた太平洋の平和と繁栄に関し、米国のシンクタンク(RAND Corporation)が刺激的な標題を付けて、7月中旬に発表した報告書("War with China: Thinking through the Unthinkable," 次の2参照)は、中国«環球時報»も注目して、ドイツの中国専門家、ヴェルナー・マイスナー教授のコメントを引用しつつ報じている("中美两国是战略对手 并非现实敌人" 8月1日)。こうしたなか筆者は、内外の友人達とこの報告書に関して意見交換を行っている。ただ、この報告書に関して心休まる点は、冷静な見解を導きだしている結論部分だ。

 即ち、米中の軍事対立は双方において政治経済的損失が甚大となる恐れがある。このため米国は軍備をおろそかにしないと同時に、「如何なる時にも対中コミュニケーション能力(ability to communicate with China in peace, crisis, and war)」を重視すべきであると述べている。また中国に対してはフリードリヒ大王の言葉を引用しつつ、「如何にして(米国に)勝つか(how to win)」よりも「如何に(米中対立による)損失を制限するか(how to limit the harm)」について熟慮すべきと述べている。

 カーター長官は前述の演説の中で、Harvardのサンスティーンやアリソン両教授、またMITのヒリス氏やランダー教授に言及し、ケンブリッジをはじめとする米国東部海岸の重要性を強調している。こうした状況下で、我が国は、米国を筆頭に中国、更にはロシアや韓国、そして欧州の友人達との知的対話を深めてゆく必要に迫られている。

 筆者はケンブリッジで初めてサンスティーン教授の講演を聴いた時、緻密な論理を淡々と語る教授の態度に感動したことを今も鮮明に覚えている。優れたケンブリッジの人々が米国の相対的衰微に終止符を打つことを願っているのは筆者だけではあるまい。これに関し、弊研究所(CIGS)は本年7月から年末まで、ハーバード大学のアンソニー・セイチ教授を、Distinguished Visiting Scholarとして迎え、日米中3国間対話に関する質的向上を高めてゆく計画である。



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