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2016.07.26

アベノミクスに決定打、空のインフラ建設構想ー日中韓3国間の航空網を国内線並みにすれば莫大な経済効果ー

JBpressに掲載(2016年7月21日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係
インバウンド客急増の震源地は中国における中間層拡大

 今年に入って中国人を中心とする外国人旅行者の「爆買い」の勢いが衰えていることが懸念されている。しかし、インバウンド旅行客の勢いが衰えたわけではない。

 中国人を中心とする外国人旅行客の急増、円安、中国関連の運び屋による大量買い付けなど様々な要因から去年の「爆買い」が異常だっただけである。

 日本政府観光局(JNTO)の統計によれば、今年の1~5月のインバウンド旅行客はすでに972万人に達し、前年比+29%増と相変わらず高い伸びが続いている。

 トップ3の国・地域は、1位が中国で249万人、前年比+45%増、2位が韓国で204万人、同+30%増、3位が台湾で、176万人、同+22%増。距離が近くて比較的気軽に行けるのがこれらの国・地域の旅行者が日本を選んだ理由の1つであることは明らかだ。

 日本を訪れる旅行客の多くがリピーターであるため、1回目に来た時のような「爆買い」型消費行動は取らなくなっている。リピーター旅行客の日本旅行の主目的はモノの消費ではなく、コトの消費である。

 インバウンド客のコトの消費の主役である中国人旅行客は沖縄から北海道に至るまで、全国各地の日本企業にとって極めて重要なビジネスのターゲットである。その母集団は中国国内で急速な拡大が続いている中間層だ。この中間層こそ日本企業にとって最も重要な顧客層である。

 本年入り後、中国国内では日本車販売の好調が続き、中国各地の地方政府や中国企業の日本企業に対する誘致・提携姿勢が積極化していることから、多くの日本企業は、今年は昨年より商売がやりやすくなっていると受け止めている。

 その背景は中間層の拡大に伴う日本製品・サービスの潜在需要の増大基調である。

 先日発表された中国の第2四半期のGDP(国内総生産)成長率は6.7%と、以前の2ケタ成長の勢いはない。中長期的にはGDP成長率は緩やかな低下傾向を辿っている。

 しかし、日本企業の顧客層となる中間層の都市人口は、現在の4億~5億人から2020年には8億~9億人に達する見通しで、今後も2ケタの伸びが続くと推計される。この拡大を続ける中間層が日本旅行へのインバウンド客急増の震源地である。

 足許の中国経済の国際収支、財政および物価の安定性から見て、中間層の拡大が2020年まで続くのはほぼ確実である。

 したがって、中国からのインバウンド客増大の勢いは少なくとも2020年までは衰えないと見るべきである。これは日本企業にとって需要の大きな伸びが期待できる、国内においては数少ないビジネスチャンスである。



欧州は英国がEU離脱、米国景気は足踏み

 世界経済を見回せば、英国のEU離脱で欧州経済は不透明感が強まっているため、当面積極的な投資拡大を検討するのは難しい状況だろう。

 米国は欧州の影響を受けやすく、バラク・オバマ政権は最近、今年の成長率見通しを0.7%ポイント下方修正して1.9%とするなど、景気回復は足踏み状態であり、FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを実施することはますます難しくなりつつある。

 株だけは盛り上がっているが、日本企業にとって魅力的な投資環境とは言えない。

 こうして世界中を見回してみると、消去法で残る投資先は中国であるように見える。もちろん、過剰設備の削減に取り組んでいる重化学工業関連は今後も厳しい状況が続く。

 しかし、それとは対照的に、サービス産業は中国経済の牽引車として今も高い伸びを保っている。重化学工業が大量の失業者を生み出しているにもかかわらず、その失業者を次から次へと吸収しているのは、eコマース、レジャー、医療・介護、物流などのサービス産業である。このため、依然として労働需給バランスはしっかりしている。

 まだら模様の中国経済の暗い部分ではなく、明るい部分の需要をどう捉えるかがマーケティングの勝負である。販売、研究開発、生産の各部門が緊密に協力して短期間の間に商品を改良して顧客ニーズに応じた商品を生み出し、タイムリーに需要をつかむことができる企業が中国ビジネスで成功する。



空のインフラ建設をアベノミクス次の一手に

 7月の参院選は自民・公明の与党陣営が大勝した。国民が与党を支持した理由は経済政策への期待である。もし憲法改正、防衛力強化を前面に出して戦っていれば、これほど高い支持率は得られなかったはずだ。

 しかし、最近はアベノミクスも以前のような勢いがない。

 元々のアベノミクスは第3の矢として提示された構造改革に大きな期待が寄せられていたが、いずれも日本経済を復活させるには不十分だった。国民が安倍政権に期待するのはアベノミクスの次の一手の施策を企画し実践することである。

 安倍晋三総理は今月中にデフレ脱却・経済再生に向けた経済対策の検討を指示したと報じられている。そこで、日本企業のみならず世界中の企業が注目する施策を提案したい。それは東アジアを一体化する空のインフラ建設構想である。

 高度成長期の日本経済において最も経済誘発効果が大きかった投資は東海道新幹線と東名高速道路だった。グローバル化、とくに東アジア経済圏の一体化が進みつつある現在において、かつての新幹線に当たるのが航空網である。

 空の移動時間を大幅に短縮することによって、東アジア域内の移動が国内並みに便利になれば、巨大な経済誘発効果をもたらす。EUが経済共同体として享受した大きなメリットは域内交通の高い利便性である。

 これを東アジアに持ち込めば、その経済効果の大きさは明らかである。ほんの数年前までは日中韓3国の経済格差が大きかったため、そのメリットが小さかった。しかし、インバウンド旅行客が日本経済を支える時代となった今、その経済誘発効果は計り知れない。



空の移動時間短縮のための具体策

 東アジア域内移動時間の短縮と言っても、超音速旅客機を就航させるわけではない。現在の航空網を前提に、空港周りのインフラを改善することによって、移動時間を大幅に短縮するのである。そのための施策は以下のとおりである。

 (1)空港の安全検査と出国審査の手続きを10分以内に終わらせる

 国内線に乗るときは離陸の30分前に空港に着いていれば十分間に合う。それに対して国際線は通常、離陸の2時間前に空港に到着するのが一般的である。

 この1時間半の違いの主な要因は、国際線の安全検査と出国審査にかかる時間である。欧米までの移動にはフライト時間だけで10時間以上かかるため、国内線との1時間半の差は大して気にならない。

 しかし、フライト時間が2~4時間の日中韓台東アジア域内移動ではこの1時間半の差はいかにも非効率である。

 そこで、東アジア域内向けのフライトについてのみ安全検査と出国審査を他の行き先と区分し、窓口の数を大幅に増やすことによって両方の手続きを10分以内に終われるよう迅速化を図る。世界中が注目する日本のサービスの力をもってすれば実現は可能なはずである。

 (2)東京駅から羽田まで10分、成田まで20分

 東京、名古屋、大阪、福岡の主要ターミナル駅と最寄りの国際空港(羽田、成田、中部、関西、福岡各空港)との間を空港専用高速地下鉄で直結し、移動時間を10~20分に短縮する。

 加えて、高速地下鉄の発車間隔を10分以内に頻度を上げ、待ち時間を短縮し、利便性を大幅に向上させる。

 (3)羽田・成田と上海・北京・金浦・仁川など主要空港間のシャトル便化

 主要空港間については、空席さえあれば、事前予約なしでどの便でも自由に乗り換えられるようにする。これによってフライト遅延リスクが軽減されるため、ビジネス上のメリットは大きい。

 (4)外国人旅行客の受け入れ能力ボトルネックの解消

 外国人旅行客の急増に伴い、ホテル、観光バス、バス運転手、通訳ガイドなどの不足が昨年から問題視されている。

 この状況が続くと、日本旅行のサービス水準が低下し、旅行の魅力が半減してしまう。現在のインバウンド客の増勢を維持するためにも、これらのボトルネック解消は喫緊の課題である。

 (5)治安維持のための警察の治安能力の強化

 外国人旅行客の急増に伴い、外国人が引き起こす犯罪・トラブルなどが増えていることから、そうした問題に迅速かつ的確に対処できるよう、警察能力の強化も併せて必要である。

 (6)法人税25%の実現

 以上のような具体策によって、東アジア域内移動の大幅時間短縮が実現すれば、そこにもう1つの重要な条件を加えると、経済誘発効果が格段に高まる。

 それは法人税率を中国、韓国並みの25%まで引き下げることである。

 域内移動が便利になっても、日本に拠点を移せば高い税金を払わされるという状況では、経営者は日本への投資に躊躇する。税制上の障害を取り除くことは、上記の一連の具体策の仕上げとして、極めて重要な施策である。



期待される効果

 以上の具体策によって、東アジア経済圏の域内移動が大幅に短縮され、日中韓3国の経済効率が大幅に向上し、経済の一体化が促進される。

 グローバル経済を牽引しているのはアジア経済であり、その中核が日中韓3国である。その3国の経済の活性化は、確実にグローバル経済への貢献をもたらす。

 それと同時に、日本の主要都市が東アジアのハブとして機能するようになることも期待できる。海外の観光客、ビジネス客にとって日本への移動の利便性が格段に向上し、気軽に立ち寄ることが可能となるからだ。

 そうなれば、アジアでビジネスを展開する世界中の企業が、環境がよく、サービス水準が高く、生活も便利な東京、大阪、名古屋、福岡などの主要都市に拠点を設けるインセンティブが格段に高まるのは明らかである。

 旅行客、ビジネス客の増加は、ホテル、レストラン、小売り、サービス需要の拡大につながる。それにともなって、日本の主要都市への投資が拡大し、その波及効果は周辺の中小都市にも及ぶため、地方再生にも寄与する。

 各地方が外国人旅行客受け入れのためのサービス改善を目指して、独自のアイデアを実践して互いに競争すれば、地方も活性化する。

 とくに訪日客の中心が、中韓両国であることを考慮すれば、日中韓3国間の民間直接交流の拡大を通じた相互理解の促進も期待できる。もしこれが東京オリンピック前に実現すれば、その効果は絶大である。

 アベノミクスの次の一手として、以上の施策の採用を大いに期待したい。


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