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2016.07.26

アディダス"本国回帰"に注目

電気新聞「グローバルアイ」2016年7月20日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 およそ人間の予測能力には限界があって、国民投票前にEU離脱に反対していた英国の若者しかり、欧州のサッカー選手権で優勝を確信していた独仏両国のファンしかり、人々の期待と現実が異なる場合が実に多い。現在、欧州出張中の筆者は現地で本稿を書き上げたが、優勝を逃して落胆したドイツの友人とスポーツや政治・経済、さらには技術を予測することの難しさをかみ締めている。

 当初の予定では、友人たちとミュンヘンで10日の選手権の決勝を眺めつつ最新情報を聴き取り、それを基に本稿を完成させる積もりであった。だが、幸運(?)にもドイツ敗北のおかげで冷静に戻った彼らから楽観と悲観の両論をあわせて聞くことができた。

 現在、ロボットやICTに関して"バラ色"の報道があふれ、期待に胸膨らむ思いだ。だが、冷静な観察や議論、またグローバルな視点に立脚した大胆な意識改革、さらには継続的な努力が不可欠であると、多くの専門家が強調する。例えば、経済産業研究所上席研究員の岩本晃一氏は「外国が第4次産業革命の波に乗って大きく羽ばたく中で、日本のみ現状維持を続ければ、世界との格差はますます広がる」と先月発表した報告書で警鐘を鳴らしている。

 確かにドイツの動きは速い。アディダスが四半世紀ぶりの"本国回帰"を5月末に公表したことが日本で報じられたが、以前から専門家の多くは同社の動きに注目していた。筆者の現地訪問も、昨年末に同社が"スピード・ファクトリー"を試験的に稼働させたことを知ったからだ。来年にはドイツ国内の工場が本格的に、また再来年には世界最大の消費地、米国で工場が始動する。この産業技術は、ジョンソン・コントロールズ等のロボット関連企業に加えてミュンヘン工科大学(TUM)やアーヘン工科大学、さらには政府が参画して、産官学で推進されているのだとTUMの友人は語る。

 もちろん、すべてが順調であるはずがない。第一の課題はロボット技術だ。生産性を飛躍的に向上させるとはいえ、依然として"モノマニアカル(単一作業に特化した)"な作業が大半で、資本効率の視点から考えると、多様な作業を行うロボット開発や効率を高める人間との協業ないし分業体制の確立が未解決の問題だ。

 第二の課題は"国内回帰"を念頭にしたサプライ・チェーンのIoT化だ。現在、アディダスの関連会社は世界各地に広がる。その内訳を見ると約6割が中国、ベトナム、インドネシアなどアジア諸国。そして約3割がブラジル、アルゼンチン、メキシコをはじめとする中南米諸国。残りがスペイン、トルコ、南アフリカといった諸国だ。

 多数の企業群と共に効率的でセキュリティー上安全なネットワークを確立し、ファッション感覚豊かな顧客に素早く対応出来るかどうか。またいかなる形でネットワーク全体を集約・制御するのか、そしていかなる形でサブ・システムとして管理するのか。課題は山積していると情報工学の専門家である友人は語る。

 同時に彼らは想定外の分野や人々の知見で将来の方向性が大きく変わる点を強調する。彼は「ジュン、安全保障で重要なステルス技術を知っているだろう。この技術はソ連の科学者が60年代に発案したが、難解過ぎてソ連では理解されなかった。それを理解し、開発したのは70年代の米国さ。本当に将来の予測は難しいよ」と述べ、将来の日独協力について語り出した。帰国を前にして、筆者はグローバルな対応策を日本の友人たちと考えてみようとしている。


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