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2016.06.13

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第86号(2016年6月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 熊本地震の報道に接して、心を動かされぬ人などいないであろう。その証左として、「自らも行動を」とボランティアに参加する人々、また「間接的に応援を」と銀座の熊本館で特産品を購入する人々を見る事が出来る。こうした人々--特に若者達--の姿に、日本の明るい将来を感じると共に自らの責任を問い直している。この点に関連して近代経済学の学祖アダム・スミス先生は、次のように教えて下さっている。

 「親切の生みの親は親切(Kindness is the parent of kindness)」であり、そして「同胞から愛されること(to be beloved by our brethren)」のための「最も確実な方法とは、我々が本当に同胞を愛しているということを行動で示すことである(the surest way of obtaining it is, by our conduct to show that we really love them)」 (The Theory of Moral Sentiments)

 また人々の献身的な行動に関し、「社会的共同責任とは、社会という鏡に反映した個人的責任でなくて何であろう (For what is collective responsibility but personal responsibilities reflected in the social mirror?)」という言葉を思い出した(John Bates Clark, "The Changing Basis of Economic Responsibility")。現在のような厳しい情勢下にあっても「同胞愛と社会的責任感を内包する共同体」という価値観を抱く社会を形成・維持することが肝要だ。従って熊本や福島の方々をはじめ厳しい生活を強いられている人に対する社会的共同責任を問い続ける必要がある。

 そして、「福島第一原発事故は終わっていない」状況を強調され、"変れない日本人"という殻からの脱却を試みる若者達を激励されている元国会事故調委員長の黒川清先生の新刊書(『規制の虜』 講談社 2016年3月)や先月に公表された米国の報告書(Lessons Learned from the Fukushima Accident for Improving Safety and Security of U.S. Nuclear Plants: Phase 2, 次の2を参照)を読んでいる。因みに経済学を学んだ方はご存知の通り、"John Bates Clark Medal"の受賞者には、最近訪日されたスティグリッツ、クルーグマン、ジョルゲンソンの3教授が含まれている。そして上記クラーク先生の言葉は、筆者が企業の社会的責任(CSR)に関し、東京電力の故木川田一隆社長の著作を読んだ時に初めて発見した(『木川田一隆論文集』)。また企業の公共的責任を熱心に唱えた木川田社長が福島の原子力発電所にかかわる経緯は、若き日の田原総一朗氏による著書に詳しい(『生存への契約』 1981年)。

 さて先月下旬、ハーバード大学・香港大学共催の国際会議(Asia Vision21 (AV21))に昨年に引き続き出席した(小誌No. 75 (昨年7月号)を参照)。初対面の方もいたが殆どが旧知の間柄で、またオフレコ(the Chatham House Rule)で行う討議なので単刀直入かつ簡潔に語り合うことが出来た。今回印象的だったのは、会議の直前に北京における国際会議に参加した米中の友人達の話だった。彼等に依ると「中国の高官・識者までもが、中国国内で得られる中国語情報だけを信じている」とのこと。中国の友人が「ジュンなら"禍棗災梨(カソウサイリ)"が分かるだろ?」と言ったので思わず噴き出した--低俗な書籍が大量に出版され、印刷用版木の材料(棗(なつめ)や梨(なし))が災禍に遭うという意味。中国の友人は「偏った情報に基づく書籍・報道が充満する過程で、言葉だけが見事な程に洗練され、現実と乖離した"虚構"が純粋無垢な人々の間に深く浸透している」と語り、また米国の友人も「米国でもcoffee shop philosophers (喫茶店等で中途半端な知識を自信満々に語る人達)が蔓延している」と語ったが、それに対し筆者は次のように応えた。

 「Internet時代の到来で印刷関連資源の浪費は減少したはず。でも国家情報会議(NIC)にいたマシュー・バローズ氏に依ると、海外情報を知らない中国の8割のnet usersは、国内情報を妄信して中華思想を強めているらしい(The Future, Declassified, 2014)。ただ問題は、程度の差こそあれ何処も同じで、この点に留意しつつ我々は情報発信しなくてはならない」、と。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第86号(2016年6月)PDF:351.4 KB

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