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2016.05.10

2020年代の中国経済リスクと日中関係の展望-遣唐使の文化交流から日中経済ウィンウィン関係の新時代へ-

JBpressに掲載(2016年4月28日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係
古都長安の地、西安を訪問

 4月7日から12日まで陝西省の西安市を訪問した。

 普段の経済調査目的の出張では中国の中央・地方政府関係者や日本企業との面談、経済開発区などの視察だけで観光地を訪問することはないが、今回の出張は日本企業の役員・部長級の研修への随行だったため、久しぶりに古都長安のいくつかの名所旧跡を訪問する機会を得た。

 西安には1992年10月の天皇皇后両陛下のご訪中(北京・西安・上海の3都市をご訪問)の際に北京大使館員として随行したため、現場の事前確認なども含めて何度か市内を歩き回ったことがあった。

 それ以後数回西安に出張したが、空海が修業した青龍寺、阿倍仲麻呂の記念碑のある興慶宮公園を訪れたのは24年ぶりだった。

 24年前には中国がこれほど急速な経済発展を遂げるとは全く予想していなかった。まして鄙びた地方都市だった西安が中国の経済発展をリードする主要都市になるとは想像もつかなかったことである。

 その西安の地で久しぶりに文化交流の旧跡を再訪し、2人の遣唐使の偉大な貢献に思いを馳せた。2人とは比較にならないにせよ、日中関係の改善と両国のウィンウィン関係の構築促進を目標として自分自身の努力を継続する思いを新たにした。

 今回の西安訪問時に面談したある政府関係者が、「日中関係はこの20年ほど難しい状況にある。しかし、その前の2000年は一時期を除いて基本的にはいい関係がずっと続いていた。遠くない将来に元の状態に戻るはずだ」と語ってくれた。私も期待を込めて、その見方に賛成したいと思った。



データから見る日中新時代

 経済データで日中関係を展望してみたい。

 IMF世界経済見通しのデータベースによれば、2009年、中国のGDP(国内総生産)は日本に追いついた。1960年に日本のGDPが中国に追いついて以来、約50年ぶりに再逆転した。

 その後、中国経済は高度成長を続け、昨年2015年には日本の2.7倍に達した。2020年には3.4倍になると予測されている。過去2000年の日中関係を考えれば、これが正常な状態である。

 2020年代に中国が徐々にスローダウンし、日本が安定成長を保持すると仮定すると、2025年前後には中国のGDPは日本の約5倍に達する見通しである。

 その頃には中国も1人当たりGDPが1万5000ドルに達して、先進国の仲間入りをしていると考えられる。そうなれば、日中韓3国の経済関係は、現在のEU主要国間の関係に近づき、貿易・投資の相互依存関係は今よりさらに緊密化する。

 中国から日本を訪問する旅行客も毎年2000万~3000万人、あるいはそれ以上に増加する。

 日中韓3国の東アジア経済圏は一体化が進み、経済の連動性が高まり、どこか1国だけの景気が他の2国と関係なく良くなったり悪くなったりすることはなくなっていく。

 それのみならず、この3国の経済がアジア経済の発展をリードし、グローバル経済全体をアジアが牽引するようになる。

 1月の拙稿で述べたように、今年の米国の金融政策が中国を中心とする海外経済の影響を受けて、利上げの計画を見直さざるを得なくなっている状況からもそうした将来を推測することができる。



2020年代の中国経済のリスク

 このように東アジア3国はグローバル経済の中でますますプレゼンスが拡大していく。その中核は中国であり、それを日本と韓国が支える構図である。

 しかし、その中国経済がいつまでも経済の安定を保持し続けられる保証はない。むしろ、他国と同じように高度成長時代の終焉とともに、経済の回復力が低下し、これまで見えていなかった様々な問題が表面化してくるのが普通である。

 比較的蓋然性の高い見通しとして、国有企業改革が期待通りに進展せず、主要企業の経営の非効率性や競争力低下が目立ち始め、中国全体の産業競争力が低下する可能性がある。

 そうなると、輸出が伸び悩み、経常収支が悪化し、人民元レートが元安に振れ、輸入インフレ圧力が高まり、内需抑制のために金融引き締めを実施せざるを得なくなり、失業率が高まる、というミドルインカムトラップ(中所得国の罠)に陥るリスクが懸念される。

 中国経済がそこまで深刻な状況に陥れば、当然日韓両国も景気が失速し、アジア経済全体も停滞する。

 新興国の台頭に伴ってグローバル経済の多極化が進展すれば、米国経済は相対的な地位が低下していく可能性が高く、米国一国の力でグローバル経済を回復させるほどの影響力を維持しているとは考えにくい。

 したがって、中国の失速はアジアの停滞を通じてグローバル経済の悪化を招き、経済基盤がぜい弱な国の通貨危機や金融・財政危機を招く可能性が高い。

 それが広範な国に悪影響を及ぼすと、世界経済は長期停滞に陥る。これが2020年代後半以降のグローバル経済の1つの展望である。



日本の役割

 以上の将来リスクを展望すれば、世界の中で日本が果たすべき重要な役割が見える。

 日本一国の経済の安定を考えるのではなく、中国、韓国を含む東アジア経済圏の安定保持に貢献し、アジア経済の安定を通じてグローバル経済の持続的発展に寄与するという役割である。

 幸い中国は従来から開放体制に基礎を置き、外資企業の誘致に積極的である。中でも日本企業の対中直接投資累計額は、海外主要国の中で唯一1000億ドルを超えている。

 2位の米国、3位の韓国は700億ドル前後、4位の台湾は600億ドル前後、5位のドイツは300億ドル以下である。

 しかも、日本企業は従来から中国企業とともに発展する傾向が強く、中国各地の技術力の向上、雇用の増大、税収の拡大など広範にわたり特に大きな貢献を果たしてきた。

 つい最近も、日本の自動車メーカーが中国の生産拠点から海外拠点向けの部品輸出を拡大する計画を発表した。また、最近の中国のインフラ関係輸出の増大の背景には、日本企業の技術協力による中国地場企業の技術レベル向上が寄与していると言われている。

 今後も日本企業が引き続き、中国国内で販路を拡大し、現地生産を増加させ、適度な技術移転を継続すれば、中国経済の8割を占める民間企業を中心に産業競争力の持続的向上を促し、中国がミドルインカムトラップに陥るリスクを軽減することが可能である。

 これは日本経済のリスク軽減につながるのみならず、グローバル経済に対する大きな貢献でもある。



新時代の日中関係の展望

 先日西安を訪問した際に、陝西省政府上層部のリーダーが、「歴代王朝が置かれ、中国最大の国際都市として繁栄した古都長安を引き継ぐ西安を「新長安」として発展させることを目指す」といった思いを語った。

 唐代に絶頂期を迎えた長安では、空海や阿倍仲麻呂が、日本を代表するエリートである遣唐使として留学し、中国から多くを学び、日本に伝えた。

 現在、日中間交流を代表するのは日本企業の対中進出と日本を訪問する中国人旅行客の急増である。交流の中身はエリート層の一方通行型交流から中間層の双方向型交流へと変化した。

 今回西安を一緒に訪問した日本の一流企業29社の幹部の多くが、古都長安時代の日中交流のみならず、「新長安」を目指す今の西安の経済発展の実態に目を見張り、巨大な投資チャンスの存在に気づいたと話してくれた。

 今後の日中関係を担う日本企業の幹部が中国内陸部市場の潜在的な成長力に気付いた意義は大きい。

 私から陝西省および西安市の幹部に対して、日本企業誘致促進のカギは、ジェトロの事務所、3メガバンクの支店、そして総領事館の誘致が突破口となるとアドバイスをした。

 今後、「新長安」が象徴する日中新時代において、日本企業や中国人旅行客などの中間層が主役となって、日中ウィンウィン関係の構築が加速することを期待したい。

 それは日中関係の安定化に寄与し、東アジア経済の長期安定的発展を促し、グローバル経済の持続的成長への貢献につながる。

 日本一国だけの力では世界経済を支えることはできないが、日中韓3国の協調発展を実現すれば、世界経済を支えることも可能である。日中新時代において世界の中で日本が果たすべき役割は大きい。


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