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2016.02.04

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第82号(2016年2月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 弊研究所は1月末にスタンフォード大学の櫛田健児氏を招き、講演会「シリコンバレーの本質と日本の底力と課題に迫る」を開催した。米国西海岸の産業集積に関する資料--例えば"The Culture of Innovation: What Makes San Francisco Bay Area Companies Different?" (Bay Area Council Economic Institute, March 2012)や"Why Silicon Valley's Success Is So Hard to Replicate" (Scientific American, March 2014)等--を思い出しつつ、同氏が語る最新情報に感心した次第だ。

 印象に残ったのは①パロアルトの高級ショッピングセンター(Stanford Shopping Center)内に在るSONYの店舗が閉鎖されたが、昨年11月、その跡地にテスラモーターズが出店し、西海岸でのflagship shopの主役が交代した事と、②「米国では、"理系か文系か"という意識は余りない」と、学問の専門的細分化に関する日米間の差を櫛田氏が指摘した事の2点だ。

 ②に関し、丸山眞男先生が『日本の思想』の中で指摘された欧米と日本との学問体系の差を思い出した。即ち、欧米の学問は共通の哲学思想が"大木の根"となり、その"根"の先端が分化して個々の専門分野が発展した"ササラ型"を形成する。他方、日本は明治維新後に個別化・専門化された形で近代的学問が入って来たため、日本の学問は、共通の思想・文化から独立して個別の学問が進化し、その枠の中にスッポリはまって"蛸壺化"し、専門家に連帯意識と知的交流が欠けている、と。確かに、カントを愛読したアインシュタイン先生やハーバード時代には文学・哲学を学んだオッペンハイマー氏を想起すると、先生のご指摘に対して納得するであろう。しかし、西田哲学、更には近松やドストエフスキーを愛読した湯川秀樹先生を想起し、「優れた人は世界中何処でも同じなのでは?」と疑問を抱くのは筆者だけではあるまい。今は、グローバル時代の世界観を抱く櫛田氏をはじめ優れた若者が日本と世界とをつないでくれることを願っている。そして彼等を応援するため、自らが安逸を貪らないよう自戒の念を強めている。更には①昨年末、英国のケンブリッジに新設されたAI専門の研究所の所長が哲学者ヒュー・プライス教授である事(小誌前号参照)、また②昨年末のベルリン出張で友人達と面談した際、"IoT (the "Internet of Things"; das „Internet der Dinge")"の最新動向に関して「技術進歩により、古代ギリシアのプラトン大先生が語った"この世に存在する全てのモノが連帯して生きる(ὥστε τὸ πᾶν αὐτὸ αὑτῷ ξυνδεδέσθαι)"世界が現実に近づいた」と皆で喜んだ事等を、内外の友人達に伝えている。

 フィリピンを訪問されて平和の大切さを強調された天皇皇后両陛下のお姿に多くの友人達と共に改めて感激した。驚いた事に、「アジアの植民地を解放したのが日本」という単純化された歴史観が今なお存在する。これに関し、多くの優れた日本の外交官が学んだ米国の少数精鋭主義的名門校スワースモア大学の元学長、セオドア・フレンド教授が著した本(The Blue-Eyed Enemy: Japan against the West in Java and Luzon, 1942-1945, Princeton University Press, 1988)は必読書だ。同書は次の点を客観的かつ冷静に記している--①アジア解放を標榜した日本帝国が実は侵略者として見做されて憎悪の対象となり、②インドネシアは戦後に進駐を再開したオランダを日本と同様に侵略者と見做し、フィリピンは1945年1月に戻った米国を日本からの解放者として歓迎した(同書は2014年7月に再刊されている)。昔も今も、可能な限り歴史を正確に理解する努力、また異なる歴史観を冷静に語り合う機会が必要である。


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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第82号(2016年2月)PDF:290.0 KB

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