本文へスキップ

2015.11.25

中国ビジネス好機拡大にも、依然消極的な日本企業 -メディアの悲観報道に頼る本社経営層の慎重論が障害に-

JBpressに掲載(2015年11月19日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係
1.日中関係改善を背景に中国で高まる日本企業との提携意欲

 今年は年初から終戦70年総理談話(8月15日)と抗日戦争勝利70周年記念軍事パレード(9月3日)が日中関係改善にとっての最大の難関であると言われていた。

 その2つを何とか無難に越えることができた時点で、10月からは日中関係改善が加速するとの期待が高まっていた。8月から9月にかけて両国とも積極的な行動を控えていたことからその反動もあって、日中関係の改善が加速している。

 主な動向を振り返ると、10月14日、楊潔篪国務委員が訪日して安倍晋三首相と会談し、翌15日には公明党の山口那津男代表が北京で習近平主席と会談した。

 11月1日、日中韓3国首脳会談および日中首脳会談が実現(中国側代表は李克強総理)。11月5日には、経団連・日本商工会議所・日中経済協会の3団体共同訪中団(総勢220人)が北京で李克強総理と面談した。

 いずれも中国国内で大きく報道され、中国側が日本との関係改善を重視している姿勢が明確に伝えられた。

 こうした中国側の対日外交姿勢の変化の背景には中国経済の減速に対する不安が地方政府や不況業種などを中心に強まっていることから、日本との経済関係の回復によって日本企業を誘致したいとの強い期待があるとみられている。

 上述の日中交流に加えて、10月下旬に中日企業聯誼会(中国企業経営者22人同行)、11月中旬に曽培炎元副総理を団長とする訪日団(中国トップ企業50社の経営者同行)がそれぞれ日本を訪問するなど、両国経済界の交流も加速している。

 環境、エネルギー、医療、食品安全といった、今後中国国内で大きな成長が期待される分野において、中国企業から中国現地の日本企業に対して提携を期待する声も数多く寄せられている。



2.「爆買い」の急増は中国国内市場の氷山の一角

 これに対して、日本企業の本社経営層では依然中国ビジネス慎重論が支配的であり、日中関係改善の好影響はあまり感じられない。しかし、中国現地の日本企業の業績を見ると、業績の好調が続いている例も多い。

 具体的には、自動車、自動車部品、ロボット・FA(ファクタリー・オートメーション)、スマホ関連、日用品、小売・流通、飲食など幅広い業種に及ぶ。

 中国政府が構造調整を進めている状況下、構造不況業種である重化学工業関連の多くの企業の業績が悪化しているのは当然である。

 一方、自動車、IT関連、省力化関連、Eコマース(電子商取引)を中心とする小売、広くサービス関連など好調業種も多く、そうした業界では巨大なチャンスが待っている。そこを的確にとらえている日本企業もあり、そうした企業では積極的に新工場建設、店舗展開拡大、人員増強などに取り組んでいる。

 広州でホンダの第3工場が9月から稼働したほか、同じく広州で2018年にトヨタの新工場が稼働する。自動車部品メーカーは非日系自動車メーカーが重慶、成都で新工場を建設するのに合わせてその周辺地域に進出し、設備を増強する。

 こうした流れの中で、安川電機が中国の大手家電メーカーの美的集団と提携し、ロボット事業の拡大に乗り出す。

 11月上旬には、今年の1月に中国の中信集団およびタイのCPグループとの大型提携を発表した伊藤忠商事が、2016年3月期の決算で三菱商事を抜いて、初めて大手商社で利益トップの座に就く見通しと報じられた。これも中国事業の重要さを物語る象徴的なニュースである。

 中国現地の話ではないが、日本国内で誰もが注目している中国人旅行客の「爆買い」も根っこは同じ話である。

 豊かになった中国人消費者が海外旅行を手軽に楽しめるようになり、日中関係改善のおかげで日本の良さを素直に認められるようになったことも加わって、日本旅行ブームが加速した。

 中間層の急速な拡大とともに日本での観光旅行とショッピングを楽しむ中国人が急増しているため、日本人の韓流ブームの熱が冷めて韓国旅行が急減したようなことにはならない。

 日本側の旅行客受け入れ能力が順調に拡大し、日中関係の安定が保持されれば、伸び率にある程度ばらつきが見られるにせよ、今後数年間は中国人旅行者が大幅に増加し続ける可能性が高い。

 さらに言えば、「爆買い」の急増は氷山の一角に過ぎない。中国国内には日本企業の製品・サービスに対してとてつもない潜在需要が眠っており、しかもそれが急拡大している。このことに気がついている企業は意外に少ないかもしれない。

 中国経済は緩やかな減速が続いているとは言え、依然6~7%の高い成長率を保持しており、経済は基本的に安定している。2020年頃までは所得水準の高い伸びを背景に日本企業の顧客層である中間層の人口は年々大幅な増加が続く見通しである。

 中国市場、あるいは日本国内において的確なマーケティングを行い、そうした顧客層のニーズに合った製品・サービスを提供すれば、企業業績の急拡大が続くのは当然の結果である。上述の好調企業はみなその成功例だ。



3.鈍い本社の反応

 以上のような中国現地での日本企業のビジネスの実態を素直に受け止めれば、より多くの日本企業が中国事業展開を積極化させるはずである。ところが、意外にも上記の成功例のような企業は少なく、多くの企業は依然消極姿勢のままである。

 そこには次のような様々な要因が影響している。

 第1に、メディア報道の誤解に基づく中国悲観論を信じている経営者が多いことである。詳しくは前月寄稿文の中でも述べたので省略するが、中国漁船と海上保安庁巡視艇との衝突事件、尖閣諸島領有権問題、反日デモなどで日中関係が悪化しため、ここ数年、中国に出張する経営者が激減した。

 このため、自分の目で中国経済の実態を確認する機会が少なくなり、メディア報道の悲観論を鵜呑みにする経営者が増えている。

 そうした経営者の多くは、自社の現地法人などの責任者からの直接の報告の内容を信じずに、本社で得ているメディア情報や中国にあまり足を運んでいない国際経済問題専門家の意見などを正しいものと思い込む傾向が強い。

 それらの多くは中国経済悲観論である。

 第2に、株価への悪影響に対する配慮である。株式市場参加者の多くはメディア報道を中心とする間接情報を鵜呑みにしているため、中国経済に悲観的な見方をしている。

 このため、中国事業の拡大は中国リスクの増大とみなし、株価にマイナスであると考える傾向が強い。

 こうした判断基準の下では、中国での収益拡大、設備投資の増強および雇用人員の増加といった足許の業績好調を示すプラス材料が、しばしば将来のマイナス材料とみなされ、株価低下の原因となる。

 このため、企業も中国での成功事例をなるべく控えめに発表し、中国ビジネスに対する積極的な取り組み姿勢が外部に漏れないように気を遣っている。これが、中国ビジネスに詳しくない多くの日本企業が、中国ビジネスの巨大なチャンスに気づかない原因となっている。

 第3に、社内ポリティクスの影響である。日本の大企業の多くは日本国内のビジネスあるいは米国とのビジネスに関わる部門が社内の主流であり、発言力も大きい。

 それに比べると、中国ビジネス関係者はいわば社内の亜流であり、社内で中国ビジネスを支持してくれる味方は多くない。

 このため、中国現地の責任者からボードメンバーに対して重要情報を報告しても国内・米国関連の報告ほど重視されないことが多い。また、外部有識者の意見を聴取する場合にも、そうした主流の人々に近い見方をする専門家が選ばれることが多く、外部有識者からの参考意見によって、中国現地からの正しい報告内容が逆に疑問視されることもある。

 以上のような、様々な理由により、中国ビジネスの好機は過小評価されており、多くの日本企業の取り組み姿勢は依然消極的なままである。

 この状況を打破することができるのは社長だけである。社長自身が年数回、自ら中国に足を運び、自分の目で中国市場の実態を見て、自分の頭で判断するしかない。年に1~2回の訪問では、複雑かつ変化の速い中国市場の実態を理解し、的確な判断を下せるはずがない。



4.本社との認識ギャップ拡大に苦しむ中国現地のビジネスパーソン

 以上のような要因を背景に、本社経営層と現地責任者の間の認識のギャップが拡大している。最近の日中関係改善を背景に中国側の日本企業との提携意欲が強まり、新たな大型ビジネスチャンスの話が出てくればくるほど、この認識ギャップは拡大する。

 北京に進出している日本企業の情報交換および親睦のための組織である中国日本商会のある部会で、最近懇親会を開催した。その会合の最後で、幹事の挨拶の締めの言葉は、「(悲観バイアスのかかったニュースばかりを報じる)日本のメディアに負けるな!」の一言だったと聞いた。

 また、複数の現地駐在員が、11月上旬の経団連・日本商工会議所・日中経済協会合同訪中団の成功が、日本の経済界の過度な中国悲観論を修正するきっかけになってほしいと願っていると語っていた。

 中国ビジネス上の最大の障害は、知的財産権の侵害でも資金回収難でもなく、本社経営層の事実誤認に基づく過度な慎重論にあるというのが彼らの本音だ。

 韓国・欧州系企業はこうした日本企業とは対照的である。韓国企業は言うまでもないが、最近は欧州企業も、「一帯一路室」を社内に新設するなど、明らかな中国シフトを敷いている。それを反映して、欧州各国政府は実利狙いの中国外交を展開している。

 10月下旬に安倍首相が中央アジアを歴訪していた頃、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が訪中した。彼女の中国詣で(2010年首相就任以来8回訪中)は有名だ。

 それに対抗して、英国は今年3月にAIIB(アジアインフラ投資銀行)への加入をG7諸国の中で最初に決め、10月下旬の習近平主席訪英時には大歓迎し、中国側も総額7兆円以上の巨額投資契約を用意してそれに答えた。

 それに負けじと、11月初旬にはフランスのフランソワ・オランド大統領が訪中した。欧州諸国は近々定期運航化が予定されているユーラシア横断鉄道(ユーラシア・ランドブリッジ)を経由した中国内陸主要都市と欧州との間の貿易取引の拡大に期待を高めていることもあって、オランド大統領は内陸部の主要都市である重慶を訪問した。

 日中関係が改善しているとはいえ、韓国、欧州諸国に比べると日本の対中交流レベルはまだ低く、両国政府の姿勢は慎重である。

 1日も早く、欧州、韓国に引けを取らない実利を視野に置いた日中外交を展開してほしいというのが、本社との認識ギャップに苦しむ日本企業の現地企業の願いである。



瀬口 清之 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

瀬口 清之 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

海外情報・ネットワーク その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる