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2015.07.21

平和維持へのソフト・パワー

電気新聞「グローバルアイ」2015年7月15日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 6月初旬に香港でアジアの将来を語り合う会合、アジア・ヴィジョン21(AV21)に出席した。オフレコで、また殆どが旧知の間柄で語り合うこの機会は、難解な諸問題に関し、有益で新たな視点を参加者に提供してくれた。エズラ・ヴォーゲルやマイケル・マッケロイといったハーバード大学の教授をはじめノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンス教授等が集い、胸襟を開き語り合えたことが嬉しい。国家間の難しい政治問題を解決出来ないとは言え、こうした会合は、学術交流を通じ、人的レベルで信頼関係を地域全体に保つ一つの重要な存在だ。
 会合の合間に、ヴォーゲル教授の鄧小平に関する近著がミリオンセラーとなったと嬉しい知らせを聞いた。またマッケロイ教授からは、環境問題が米国の安全保障の点からも重要な課題として討議されている現況を教えて頂いた。
 その一方で、南シナ海を巡り、中国が築く"砂の長城(沙長城)"に対する米国の警戒姿勢と、"米国とは争うものの、破局に至らないようにする(闘而不破)"という中国の態度が、果たしてこの地域の平和を維持出来るのか、と不安に思った次第だ。米中両国が互いに冷静な姿勢を継続的に保つためには、両国の友好国たる日本が平和国家の一員として、経済、技術、そして文化面でのソフト・パワーを発揮する必要がある。その意味で、アベノミクスの第3の矢である成長戦略は、イノベーションを通じ相互補完的な"ウィン・ウィン"の関係を創出する点で重要である。これに関連し、6月30日に日本政府は「日本再興戦略」を改訂し、7月1日には、経済産業省がロボット政策室を設置している。
 第3の矢には、政策的バックアップが不可欠とはいえ、主役は積極的な姿勢を持つ民間部門だ。こうした理由から、筆者は民間部門における研究体制のグローバル化に注目している。何故なら、経済協力開発機構(OECD)によって昨年から今年にかけて発表された複数の資料が、日本の企業と研究機関の学術交流は、国の内外に関係無くクローズドで、しかもグローバルなネットワークが希薄な状態である事を指摘しているからだ。
 オープンでグローバルな研究活動が全世界的に拡大するなか、日本の研究体制は相対的には孤立した状況にある。他方、グローバリゼーションの中心的存在である米国は、国籍にかかわらず優れた研究者を世界中から受け入れると同時に世界中に送り出している。例えば米国は、近年、中華圏(香港・台湾を含む)から約1万3千の研究者を招き、約1万人を送り出した。翻って日本は中華圏から約3千人を招き、約千人を送り込んでいる。当然のことながら日米両国は規模も政策も異なる。このことを勘案し、日本は数ではなく質・分野の面で戦略的な拡大が図られるべきだ。
 香港でヴォーゲル教授の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を執筆された当時(1979年)の日本について筆者は次のように語った--「先生、ご著書の中で日本のシンクタンクの活動に関し、"アメリカの水準からみると、多くは基礎研究をあまり行なわず、その研究には創造性、深い分析、完璧さの点で欠ける"と手厳しいですね」、と。その一方で同書は、海外の情報収集に熱心な当時の日本の姿を描いている。今こそ、かつての躍動的な日本の如く謙虚に学ぶ姿勢で、しかも民間のシンクタンクを含む研究機関が第3の矢に呼応する形で、濃密で創造的な研究ネットワークをグローバルに展開する時が到来したと考えている。

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