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2015.03.19

日本の「自律」に欠かせない経済政策の司令塔-20年来の懸案、意味のある中央省庁再編で多極化の時代に備えよ-

JBpressに掲載(2015年3月18日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 先月末にある日中関係に関するシンポジウムに出席した際、数人の中国問題の専門家の発言の底流に、パックスアメリカーナの終焉とそれに代わる中国の時代の始まりという時代認識のイメージが共有されているように感じられた。

 私自身はそれとはやや違う見方をしている。世界はグローバル化の中で多極化の時代に向かっており、中国が順調に発展を遂げていくとしても米国が20世紀に実現したような単独の覇権国家になる時代は来ないと考えている。


■パックスアメリカーナの終焉
 一方、私が心配になったのはパックスアメリカーナ終焉のインパクトである。これまで日本は米国との同盟関係によって様々な恩恵を受けてきた。パックスアメリカーナの終焉は米国のステータスの変化と共に日本が受ける恩恵も変質せざるを得ないことを意味している。

 ちょうどそのシンポジウムの直後に米国出張のチャンスがあったため、10人程度の米国の国際政治の専門家にパックスアメリカーナの終焉についてどう見ているかを聞いてみた。すると、ほとんどの専門家がパックスアメリカーナは終焉に向かいつつあるとの共通の認識を持っていると語った。

 この見方は最近になって出てきたものではなく、1970年代に広く認識され始めた。しかし、その後ソ連が崩壊し、経済面での脅威と見られていた日本も長期の経済停滞に陥ったため、1990年代には再びパックスアメリカーナが復活した。ITバブルの形成もその勢いを支えた。

 ところが、2001年9月11日、安全だと信じられていた米国本土がテロリストによって攻撃され、米国の安全神話が崩れて米国民の自信が傷ついた。同時期にITバブルが崩壊し、2008年にはリーマンショックが発生、経済面の自信も大きく動揺した。そこに中国が台頭し始めたため、再度パックスアメリカーナの終焉が強く意識されるようになった。

 それに加えて、最近のウクライナ問題と「イスラム国」問題への対応において米国の外交・安全保障政策の指導力低下が明らかとなり、その意識が一段と強まって現在に至っている。ウクライナ問題と「イスラム国」問題に関してはオバマ政権の判断の誤りとの指摘が多く、次の政権が誕生し、的確な施策を実施すれば、この2つの問題は改善するとの見方もある。

 しかし、たとえそうであるとしても、相対的には米国の影響力の低下と中国等新興国の影響力増大は後戻りすることのない長期的トレンドであると見られている。

 以上のように、今後ゆっくりとした速度ではあるが、確実にパックスアメリカーナは終焉へと向かっていくとの見方は米国でも広く共有されている。そうした世界情勢の長期的な変化の中で、米国の同盟国として日本は今後どうあるべきかを真剣かつ具体的に考える必要に迫られている。


■日本の自律性向上には経済の立て直しが必要
 日本の今後のあるべき姿を考えるには、現在の日本の状況を的確に認識することが必要である。

 上記の時代認識に立てば、今後日本が世界秩序形成におけるステークホールダーとしての貢献度を増していくためには、従来の米国依存から徐々に脱却し、自律性を高めていかなければならないのは明らかである。この点については1月の拙稿『「赤船」中国が迫る第2の開国』でも述べた。

 日本が世界に対して有効かつ積極的に貢献できる可能性が高い分野は経済分野である。外交面での貢献を目指す場合にも強い経済力がなければ日本の存在感を高めることは難しい。

 しかし、その経済分野でも日本の政策運営は決して高い評価を得られる状況ではない。1990年以来25年以上も低成長が続き、GDPの2倍に達する巨額の財政赤字を抱えている現実を見れば明らかである。

 世界への積極的な貢献ができないままでは米国の同盟国としての日本の存在感が低下するのを座して待つのみである。日本が世界に貢献し信頼される国家として存立するには、日本経済の立て直しとそれと並行した世界貢献の実践が必要である。


■日本の経済政策機能不全の要因は縦割り行政
 日本経済が1990年以来の長期経済停滞から依然脱却できずにいる最大の要因は政府の経済政策が十分な機能を発揮していないことにあると考えられる。その原因はいくつもあるが、重要な問題点のひとつが中央省庁の縦割り行政による政策の機能不全であることは20年以上前から指摘されている。

 1980年代以降、日本は先進国の仲間入りを果たし、政策運営の枠組みの大幅な見直しが必要となったにもかかわらず、行政組織は1950年代からほとんど変わっていない。

 交通インフラ整備、地方経済再生、法人税減税、TPP・FTA等の構築、農業政策、環境保護対応など重要な経済政策はグローバルな観点に立ち、省庁横断的な広い視野や高い視点から政策の企画立案が行われるべきである。

 しかし、日本ではグローバル化時代に適応できる総合的な政策運営の仕組みがほとんど機能していない。それが故に1990年から25年間も経済停滞から脱却できていないのである。


■経済政策運営の司令塔構築の提案
 この問題の根本的解決のためには以下のような政府組織および政策運営の枠組みの見直しが必要である。

 第1に、経済政策運営の司令塔の構築である。

 安全保障政策については昨年、国家安全保障委員会(以下NSC)が設立され、司令塔の役割を果たしている。一方、経済政策運営についてはそれに相当する司令塔がない。経済財政諮問会議が一応その機能を担うことが期待されているが、その組織をNSCと比較すれば違いは一目瞭然である。

 実際に政策運営の最前線において、個別政策に関して各省庁の責任者と対等に議論し、自ら政策を企画立案できるような組織にはなっていない。あくまでも政策の大きな方向を示すだけで、個別政策にまで踏み込んだ審議・提案までは困難である。

 しかも、同会議の設置規定上「内閣総理大臣(または関係各大臣)の諮問に応じて」審議するという前提が置かれており、総理大臣が気づかないポイント、あるいは関係大臣が諮問したくない政策の中味などは取り上げられにくい。

 これではグローバルかつ省庁横断的な広い視野や高い視点から政策の企画立案を行うことは期待できない。

 米国のように行政機関の重要ポストにポリティカルアポインティー(政治任用)が就任する仕組みがあれば、シンクタンク、大学等に実務もわかり個別省庁の権益にとらわれない政策立案を行う人材が多く存在する。

 しかし、日本ではそうした仕組みがごく一部に限られており、経済政策の司令塔を務める人材を集めるのは容易ではない。これまでは結局、そうした独立的な外部人材だけでは経済財政諮問会議の事務局の重要ポストを構成できず、各省庁からの出向者に頼らざるを得なかった。

 そうなれば、実際に政策策定作業に当たる各省庁からの出向者が出身母体の権益確保を優先するため、形式的には司令塔が存在しても縦割り行政を打破することができなかった。

 それでも少しずつでもこうした状況を改善するため、経済政策の司令塔となる組織を構築し、そこに大学、シンクタンク等からグローバルかつ省庁横断的な広い視野や高い視点から政策の企画立案を行う人材を粘り強く登用し続け、ポリティカルアポインティーの人材の層を厚くしていく努力を継続することが必要である。

 人材のストックを増やすには時間を要するが、これ以外に近道はないように思われる。

 第2に、経済政策の司令塔が中心となって個別の中央省庁の局・課等の機能の見直し、それらの統廃合を行い、最終的にはそれに基づく中央省庁自体の再編が必要である。

 橋本内閣時代の行政改革により中央省庁再編が実施された(2001年1月施行)が、上記のような司令塔がなく実行されたため、各省庁内部の機能は実質的にほとんど変わらず、表面上の組織統合だけが行われたに過ぎない。意味のある組織の統廃合を行うには、安全保障政策におけるNSCのように実務にも精通した専門家部隊からなる司令塔の存在が不可欠である。

 以上のような改革を実現し、日本の経済政策の機能を向上させるには長期的な時間を要する。幸いパックスアメリカーナの終焉が始まっているとはいえ、米国のステータスが今後10年程度では大きく揺らぐことはほとんど考えられない。

 そうした長期的な展望に立って日本の将来を築く努力を今からスタートすることが重要である。そうすれば1990年以降の長期にわたる経済停滞から抜本的に脱却できる希望も持てるようになる。安倍政権の英断に期待したい。

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