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2015.03.06

中国市場で日本企業が勝ち残るための必要条件

IIST e-Magazine  に掲載(2015年2月27日付)(「中国市場の変化をどうみるか」シリーズ最終回)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 前2回の論稿では、日本企業等が誤解に基づいて中国経済に関する悲観論を信じている理由、および中国市場が先進国の常識を超えるスピードで急拡大しており、日本企業にとってチャンスが到来している状況について述べた。

 今回は3回シリーズの最終回として急拡大する中国市場において、多くの日本企業がまだチャンスをつかむことができていない理由について述べたい。


 第1の理由は、多くの企業経営者が中国経済に対して誤解に基づく悲観バイアスを持っているため、投資判断が遅れて外国企業にチャンスをさらわれていることである。新規受注案件のみならず、既存事業でも投資規模に関する判断が慎重になり過ぎて適切な規模・速度の増産投資や店舗展開を行わなかったため、製品・サービスの供給量が需要に追い付かず、本来であれば確保できた市場シェアを外国企業に奪われることもこれに含まれる。

 こうした問題を抱える企業の経営者は、自社の業績が伸びていない本当の理由を理解していないことが多い。本当の理由は、本社における投資判断の遅れや過小な投資規模の決定にあるにもかかわらず、中国市場の需要の伸びが停滞していることによるものであると誤解している。このため、業績不振に直面しながら適切な対策を採ろうとしない。

 もちろん現地の責任者らの中にはその事実に気づいている人もいる。しかし、本社経営トップ層に対して本当の理由を伝えれば、本社サイドの経営判断に対する批判と受け止められ、自分自身のその後の人事評価に悪影響を及ぼすリスクがある。このため、あえて本当の理由を本社には伝えず、本社経営層の誤解に基づく中国経済悲観論にも強く反論せず、与えられた範囲内で無難に業績を上げながら帰国命令の人事異動を待つケースが多い。

 現地側責任者らのそうした消極的な姿勢の背景には、中国経済悲観論が支配的な日本国内の一般的論調を信じている本社経営層が現地から伝える情報に耳を傾けようとしないため、現地側から説得することが極めて難しいことを痛いほど思い知らされているという過去の経験がある。

 この問題を克服する唯一の方法は、社長が自ら少なくとも年5~6回は中国現地に足を運び、中国市場の実態を自分の目で見て十分理解し、自分自身で投資に関する最終判断を下せるようになることである。これまで日本企業が進出してきた各国の市場に比べると、現在の中国市場は、市場規模の大きさ、変化の速さ、市場ニーズの多様性などすべてが規格外である。このため、中国経験のない経営企画・人事・財務・法務等の優秀な幹部層の判断力が役に立たないことが多い。社長自身が判断し決断しなければ、経営層は慎重論に傾き、上記のような誤った投資判断を下すことになるのである。

 商社、金融、エアコン、自動車、建設機械、エレベーター、生活雑貨、衣料等の分野で中国ビジネスで成功している日本のトップ企業は、重大な投資判断局面において社長自身の判断と決断によって業績拡大の突破口を開いてきている。


 第2の理由は、市場ニーズの理解不足、言い換えればマーケティング力の不足である。多くの欧米企業では販売戦略をトップダウンで決定することから、戦略を企画するマーケティング部門の判断が重視される。

 マーケティングと日本流のいわゆる「営業」は大きく異なる。マーケティングは市場全体の動向を様々な観点から分析し、市場ニーズを的確に把握し、それに合致した製品開発戦略および販売戦略を打ち出す。各事業部門を横断的に指揮する権限を有する、いわば統合参謀本部による戦略企画である。一方、「営業」は顧客企業あるいはディーラーとの個別交渉等を通じて、販売網の構築・拡充、適切な価格の設定等に注力する歩兵部隊の肉弾戦である。いくら歩兵が強くても戦略が間違っていれば勝利の確率は低い。

 多くの日本企業はマーケティングを軽視し、日本流の「営業」の延長線上で中国ビジネスに取り組んでいる。このため先進国の常識では規格外の中国国内市場のニーズを的確に捉えた製品・サービスの提供ができていない。日本国内であれば、ものづくりを担当する製品開発部門や「営業」部門の人材が、ある程度は自分で市場ニーズを理解できることが多いが、中国市場ではそうはいかない。そもそも自分たちが中国市場のニーズを的確に把握できていないという事実自体を認識していないため、製品・サービスの販売が伸びない原因は自分たちの製品開発や販売戦略の問題ではなく、中国市場の需要の伸び悩みにあると信じている。

 日本の国内市場に外資系企業が参入する場合を考えれば、問題点は明らかである。食品であれば日本人が好きな味付け・ボリューム、自動車であれば日本人好みの性能・外観・内装、衣料品であれば日本人好みのデザイン・品質などを把握する必要がある。それを外国人に頼っている外資系企業は殆どない。この単純な事実を考えれば、日本企業が中国市場で求められる経営は自ずと明らかである。

 すなわち、中国市場を十分理解している中国人の優秀な人材にマーケティングを任せ、それに基づいて現地経営トップが総合的な経営戦略を構築する。その判断を本社経営陣が尊重し、的確な製品開発戦略、販売戦略、広報宣伝戦略、人事配置等を行うことが必要である。

 重要な経営判断を現地に委ねるためには、現地の経営トップに優秀な中国人リーダーと社長が信頼する優秀な日本人リーダーを配置しなければならない。日本人リーダーは中国人リーダーが主導する経営戦略を的確にサポートしつつ、現地と本社との緊密な連携を確保する機能を担うことが極めて重要な責務である。


 第3の理由は、現地への権限移譲の不十分さである。それをブレークダウンすると、権限を委譲できる優秀な中国人リーダーの欠如、経営陣の権限移譲の重要性に関する理解不足、中国事業の収益責任を負っている各事業部の抵抗、急激な組織変更に対する内部管理部門の抵抗等がある。これらの問題は関係役員の権限配分にも大きく影響するため、役員間の話し合いでは結論は出ない。現地への権限移譲は社長が自ら判断し、決然と実行するしかない。

 現地への権限移譲、すなわち現地化は、グローバル化経営の根幹をなす。中国市場のニーズを的確に把握できるのは中国人である。それに合わせた製品開発、販売戦略、広報宣伝、人事配置等を判断できるのも中国人である。中国を十分理解している台湾人や香港人であればある程度代替可能であるが、日本人がこれに代わることは極めて難しい。

 実際に経営のグローバル化推進に必要な体制を構築するのは経営組織の大転換を意味する。多くの日本企業はすでにグローバル化への対応ができていると信じているが、真のグローバル化経営の大前提は現地化=現地への権限移譲であり、それが十分できている日本企業は少ない。

 これは中国事業の収益責任の所在を見れば明らかである。多くの企業では本社側の担当役員が統括する各事業部が中国事業の収益責任を負っているケースが多く、中国現地においてすべての事業を横断的に統括する中国総代表にその責任を負わせている企業は少ない。収益責任を負わないポストには権限も与えられないため、現地化が進まないのである。

 今後中国市場での販路拡大を目指す日本企業に求められるのは、現地化の推進である。これは本社経営組織のグローバル化と表裏一体である。現在の激変する中国市場は、日本企業に対してグローバル化企業への転換を迫っている。

 この機会に現地化を大胆に進め、中国市場で成功を収める企業は、中国以外の市場においてもグローバル化を実現し、さらに競争力を高める可能性が高い。

 多くの日本企業は世界トップクラスの技術開発力、生産管理能力を有する。しかし、マーケティング能力、経営の現地化については欧米の一流企業に比べて見劣りする企業が多い。中国市場へのチャレンジは、日本企業が経営の国際競争力を強化し、グローバル市場での存在感を高める大きなチャンスである。


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