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2014.11.26

日中首脳会談後の中国でビジネスチャンスをどうつかむかー深圳の加工組み立て型日本企業の課題と生き残り策ー

JBpressに掲載(2014年11月19日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 APEC会期中の11月10日、北京の人民大会堂で日中首脳会談が実現した。今回の会談は25分と短く、具体的な中味もほとんどなかった。とりあえず首脳会談が実現したというだけであり、これで日中関係が大幅に改善することは期待できない。

 とは言え、日中首脳会談としては2011年12月以来約3年ぶり、安倍総理としては初めての日中首脳会談が実現した意義は大きい。


■日中首脳会談の成果は何か

 日中間の摩擦の火種となっている領土と歴史認識をめぐる問題について、元々両国の多くの有識者の間では、両国が納得できる妥協点を見出すことは不可能であり、唯一の落としどころは鄧小平氏が主張していた「論争棚上げ」しかないと考えられていた。

 しかし、中国政府は日本側に対して、首脳会談実現の条件として、第1に、尖閣諸島の領有権を巡る論争が存在すること、第2に、靖国神社には参拝しないと公の場で発表することを求めていた。これは明らかに日本政府が受け入れられない要求である。

 この要求条件をクリアして首脳会談を実現するためには、上記の2つの内容について、両国が自国に都合のいいようにうまく解釈できるようなレトリックをどう考え出すかにかかっていると見られていた。

 首脳会談直前の11月7日、日中両国政府は4項目の合意文書を発表した。両国とも自国に都合がいいように解釈することが可能な玉虫色のレトリックが示され、一応問題の棚上げが成立した。

 今回の首脳会談実現の最大の成果は、論争棚上げを可能にする合意文書を発表できたことかもしれない。この合意内容を否定するような対立が蒸し返されるようなことがない限り、当面は日中間で領土および歴史認識に関して政府間の交流を断絶させるような事態は起こりにくくなったと考えていいだろう。

 両国を代表するトップ会合が実現した以上、行政部門間の交流を再開できない理由はなくなったはずであり、今後両国政府間交流は徐々に回復に向かうものと期待できる。これによって日中関係は、異常な没交渉の状態から必要な対話のできる正常な摩擦状態へと移行すると考えられる。

 それに伴い、多くの日本企業が強く懸念していた漠たる不安が多少和らぐはずである。中国国内市場の需要増に応えるための工場新設ニーズ等がありながら、チャイナリスクを恐れる本社の意向で意味なくストップさせられていた多くの投資案件が動き出す可能性が出てきた。

 ただし、依然として日本のメディアによる中国経済に関する悲観バイアス報道が蔓延しているため、中国経済のリスクを必要以上に恐れている企業も多く、日中関係が改善方向に動き出したにもかかわらず、上記のような前向きの変化は限定的なものに留まる可能性もある。

 以下では、こうした最近の状況を踏まえ、今後の日本企業の中国市場でのビジネスチャンスについて考えてみたい。筆者は、11月初旬に深圳市を訪問し、生産コスト上昇によって苦戦を強いられている加工組み立て型の日本企業がどのように対応しようとしているかについて情報を収集したのでその点を中心に紹介する。


■チャイナプラスワンの限界が見えてきた

 深圳市は、人民元高や賃金上昇等により生産コストが上昇した現在も、大手OA機器メーカーを中心にその下請け企業を含む加工組み立て型企業の集積が残っている。

 大手から中小まで採算が悪化しつつあることから、生産コストの削減を目指し、すでに多くの日本企業が生産拠点を中国から労賃の安いフィリピン、ベトナム等にシフトしてきた。

 しかし、最近はすべての生産ラインを移管したくてもできない事情が明確化しつつある。それは中国とフィリピン、ベトナム等との技術力格差によるものである。

 技術水準がそれほど高くない基礎的な製品の生産拠点は移管しても問題ないが、ある程度以上の高い技術水準の製品を移管すると生産できない、もしくは不良品率が大幅に上昇し採算が悪化するといった問題が生じている。

 このため、最近では技術水準の高い製品の生産ラインは深圳に残し、基礎的なものに限定して移管を進める企業が増えている。それでも深圳に残す高付加価値製品は生産量が少ないため、深圳の生産拠点の採算は悪化している。


■中国国内市場を開拓できない日本企業の特徴

 人民元切り上げ、賃金上昇などにより生産コストの上昇が続く中、中国国内で従来型の加工組み立て型生産を継続することはますます難しくなっている。その活路は中国国内市場を開拓し、販売量を伸ばすことにある。

 しかし、一部の大手企業を除き、多くの中堅・中小企業は中国国内市場において市場ニーズがあるにもかかわらず、付加価値の高い製品の販売を拡大できないという問題に直面している。

 その主な理由は、中国で生産し海外に輸出していた、加工組み立て型ビジネスモデルのマネジメント体制の修正ができておらず、いまだに本社主導の営業体制を採っていることにある。

 中国国内市場のニーズは、日本や欧米諸国に比べて地域別・所得階層別にはるかに多様である。しかも市場ニーズの変化が極めて早いため、中国国内市場に関する理解が不足している本社の営業部隊がいくら考えても的確な販売戦略を描けるはずがない。

 ところが、本社はそのマネジメント上の重大な欠陥を認識しておらず、中国国内市場で自社製品が売れないのは反日感情、中国経済の失速等のチャイナリスクのせいであると誤解しているケースが大半を占めている。このため的確な対応策を採ろうとしていない中堅・中小企業が多いのが実情である。

 この問題点は、中国現地拠点の責任者もそれをサポートしているコンサルタント企業も十分わかっている。しかし、これを日本の本社に伝えても、本社はリスクを誇張する日本のメディア情報を信じ切っており、現地からの提案を聞く耳を持っていないため、さじを投げてしまっている現地の責任者が多い。


■中国市場攻略の方法は明らかである

 中国での販売力を強化するために最も有効な対策は中国国内市場を熟知した優秀な中国人に販売の責任を委ねることである。

 しかし、それだけでは不十分である。

 優秀な中国人の販売戦略は市場ニーズの急速な変化に合わせて大胆かつ迅速に変化する。このため、販売計画の変動が激しい。1カ月~3カ月先の受注計画が短期間の間に大幅に変動することも珍しくない。

 たとえば、一部の部品を日本からの輸入に頼っていると、日本の港を出た後に不要になるケースがある。逆に日本からの到着予定が1カ月後であるにもかかわらず、どうしても明日欲しいという要求も出てくる。この販売戦略に柔軟かつ迅速に対応できないと大きな商機を逃すことになる。

 こうした中国市場および中国の優秀なリーダーの特性を考慮すれば、それを十分活用するためには、カンバン方式等に代表される従来型の日本流生産・在庫管理体制を抜本的に見直し、生産・出荷計画の柔軟性を確保するとともに、ある程度部品・製品・流通在庫の余裕も確保するといった柔軟な生産・出荷体制の構築がカギとなる。

 日本で生み出され、世界中の企業が導入している緻密な生産・出荷体制の構築は、変化の激しい中国市場には適合しない部分があるという事実を認識しなければならない。

 それに加えて、チャイナプラスワンへの移管を進めた深圳の日本企業のケースでは、フィリピン、ベトナム等の生産拠点、日本の部品供給先、および中国現地の3拠点をうまく連携させ、製品出荷の柔軟性をもたせるようなマネジメントの仕組みが必要になる。

 これを的確にコントロールするのは至難の業であるが、これを克服できないと中国での販売を拡大することは難しい。中国市場への適応と口で言うのは易しいが、実行に移すには極めて高度な経営手腕を必要とするのである。

 このため、人材の豊富な大企業には対応できても、人材不足の中堅・中小企業はわかっていても実行できないケースが多い。これはチャイナリスクではなく、企業の競争力そのものの問題である。


■円安が長期化すれば新たなチャンスも

 最後に、アベノミクスの恩恵として生じている足許の円安の影響について考える。
現状の円安がさらに進行し、たとえば1ドル=120円前後の状態が今後数年間続くことを想定してみよう。

 2020年前後までは中国の高度成長が続く可能性が高く、6~7%の実質成長率、8~9%の名目成長率が続くと考えられる。その間、人民元は対ドルで緩やかに切り上がる可能性を考えると、中国のドルベースの名目GDP成長率は今後数年間、引き続き10%以上を保持する可能性は十分ある。

 しかも、中国の労働市場は都市化に伴うサービス産業の雇用創出効果を背景に需給が逼迫しており、賃金上昇圧力が強い。加えて、従業員の社会保障負担の義務化も進んでいるため、それを含めた足許の企業の実質的な労働力コストは前年比20%増に達する勢いで急上昇しているとも言われている。

 以上を考慮すれば、中国での生産コストは今後数年間、急速な上昇を続ける可能性が高いと見るべきである。

 このように中国国内の急速な生産コストの上昇が続くことを考慮すると、もし現状の円安が持続するとすれば、今後は日本国内での生産が相対的に競争力を回復することが予想される。そうなれば、付加価値の高い製品であれば日本からの輸出でも十分ペイする可能性が高まる。日中韓FTAが成立すればさらにそれがさらに加速する。

 以上の点を考慮すれば、数年後の生産拠点配置はコスト構造の変化に対応して、日本、中国、アセアン諸国の間で最適な配置を図るために柔軟な調整の必要が一段と高まる可能性が高い。

 すでに一部の日本企業では、円安による輸出採算の好転を理由に、中国への生産拠点移管計画を中止した事例も見られている。こうした動きは、日本国内の設備投資の増大および雇用確保にはプラスの影響を及ぼす。

 但し、その前提は中国市場で日本企業が販売力を備えていることである。もし十分な販売力がなければ、いくら中国市場が急速に拡大してもチャンスは回ってこない。

 日中関係が改善の方向に進み始めた状況下、日本企業は中国国内市場での販売力強化、それに必要な生産・出荷体制の柔軟性確保、余裕を持った在庫繰りの導入等を真剣に検討すべき局面を迎えている。

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