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2014.09.25

危機管理:求められるグローバル体制

電気新聞「グローバルアイ」2014年9月24日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 錦織圭選手の今月の奮闘をはじめ、国際舞台での日本選手の活躍は目覚ましく、我々に勇気と感動を与えてくれる。スポーツ分野でのグローバル化の進展と、厳しい競争における彼等の努力と工夫は、一般人である筆者にとっても参考になる点が数多い。
 グローバル化は新しい形の感動を与えてくれると同時に、デング熱や狂牛病といった新しい形の危険をもたらす。今春、米国の友人が笑いながら「国際的なハッキングの"震源地"は日本だ」と話かけてきたのには驚いた。即座に理解出来なかった筆者がポカンとしていると--「ジュン、"スノーデン・ファイルズ"を読んでないの?エドワード・スノーデンがNSA(米国家安全保障局)のハッキングを暴露しようと決心した場所は日本だよ」と教えてくれた。CIA(米中央情報局)の元契約局員であるスノーデン氏が香港でマスコミに暴露した事件の震源地は日本だと、友人は語ったのだ。このように通信・運輸手段に関連する技術の飛躍的な発達を背景に深化するグローバル化は、21世紀型の危機管理体制を我々に要求しているといえよう。
 電子的・生物的ウィルスがまたたく間に世界中に拡散する時代、また風に乗って移動するPM2.5や放射能がもたらす危険が高まる時代には、以前にも増して俊敏かつ柔軟でグローバルな危機管理体制が要求される。
 こうした視点から筆者は、23日から29日まで、隣国の中韓両国を訪れて、国家レベル・民間レベルでの危機管理上の協力に関し、講演及び専門家との面談を行う予定だ。
 福島第一原発の吉田昌郎所長が所員と共に必死に格闘するなか、本社及び監督官庁との情報交換、またそれに伴う混乱は、同一組織内や国内ですら、リスク・コミュニケーションが難しいことを示している。加えて、専門知識及び問題意識が異なるマスコミによる報道は、関係者や社会にとって意図せざる混乱をウィルスのように国境を超えて拡散する危険を内包している。
 また一方で、政治的に緊張した状況にある中韓両国との間で、多元的な交流チャネルの重要性が叫ばれている。そのチャネルの一つとして、この危機管理上の協力は重要だと筆者は考える。
 リスク・コミュニケーションは、国内、また同一言語であっても難しいことは、吉田所長が遭遇した困難を考えると容易に理解出来る。リアルタイムで、異なる政治体制、異なる価値観、そして異なる言語を持つ国の人々との間で、正確なリスク・コミュニケーションを実施するとなれば、それ以上に大変な作業である。こうした理由からグローバル時代の危機管理の重要性を強調している。
 現在、米国は中東をはじめ世界各地の紛争解決と格闘しているが、ウルドゥー語など現地語を理解し、相手の立場から価値判断出来る人の確保に苦しんでいる。こうしたなか、2006年、興味深い資料をNSAが公開した。それは太平洋戦争関連の資料--ポツダム宣言に対する鈴木貫太郎首相の一言、"黙殺"だ。NSAの資料は、「ワン・ワード、トゥー・レッスンズ」として、異なる言語間で適切な言葉を対応させること、しかも差し迫った状態での翻訳は如何に困難であるかを示すため、"黙殺"を取り上げたのだ。この資料は、"黙殺"が適切に訳されていれば、原爆投下を回避出来たかも知れないと語っている。鈴木首相も、戦後、小冊子『終戦の表情』の中で「この一言は後々に至る迄、余の誠に遺憾と思う点」と記している。この古くて新しい教訓を、危機管理上、我々は忘れる訳にはゆかない。

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