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2014.09.22

中国人訪日客激増で露呈する日本の外国人旅行者受け入れ能力不足-今年8月までの中国人訪日客の年初来累計は前年比84%増-

JBpressに掲載(2014年9月18日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 昨秋以降、中国人訪日客の激増が続いている。8月は25.4万人*と前年比56%増加し、昨年9月以降12カ月連続で各月の過去最高を更新中である。

* 本文中の訪日外国客数に関するデータはすべて日本政府観光局発表の推計値または暫定値。


■中国人訪日客は前年比倍増ペースで激増中

 昨年日本を訪問した中国人旅行者は年間合計で131万人だった。ところが、今年は年初から8月までの累計で154万人(前年比84%増)に達し、すでに昨年の1年分を上回った。このままのペースで増加すれば通年で240万人に達する勢いである。

 今年の1~8月累計の全世界からの訪日外国客数は864万人、前年に比べ26%増加した。その増加への寄与率を国別にみると、中国が40%、台湾が25%を占めており、とくに中国人訪日客増加のもたらすインパクトの大きさは群を抜いている。

 昨年の訪日外国客数は年間合計1,036万人と初めて1,000万人を上回った。国別順位では、1位が韓国の246万人、2位が台湾の221万人、3位が中国で131万人だった。これら上位3国の合計は全訪日外国客数の約6割を占めている。

 今年は8月までの年初来累計では韓国が微減、台湾が3割増である。この伸び率が続くと、通年では台湾が287万人、韓国が245万人、中国が242万人となり、1988年以降昨年までの26年間、ずっと首位の座を占めてきた韓国が2位に転落しそうである。

 先行きを展望すると、韓国と台湾はすでに国民の平均所得水準が高く、安定成長期に入っていることから所得増大の速度は緩やかであり、日本滞在ビザも免除されている。このため、今後、両国・地域から日本への観光客が、中長期的に大幅な増加を続ける可能性は高くないと見るべきであろう。

 これに対して、中国は少なくとも2020年頃までは経済の高度成長が続くと見られることから、今後数年間は所得水準の急速な上昇が持続すると見込まれる。しかも、日本への観光旅行を楽しむことができるようになる所得水準の階層が急増する。

 加えて現時点では中国人旅行者に対して日本滞在ビザが免除されていないため、今後ビザが免除されると、増勢に一段と拍車がかかる可能性が高い。ちなみに昨年7月以降、日本滞在ビザが免除されたタイとマレーシアについては、本年1~8月累計の訪日客数がいずれも50%を上回る高い伸びを示している。

 以上の点を考慮すれば、中国人訪日客急増は一過性のものではなく、今後中長期的に大幅な増加が続く可能性が十分あると見るべきであろう。

 日本政府は2020年に訪日外国人旅行者数2,000万人の達成を目標としている。その目標を達成するためには、現在の中国人訪日客急増の勢いを持続させ、日本の観光関連ビジネスの急速な発展につなげていけるよう的確な政策をタイムリーに実施することが最重要課題である。

【図表】訪日外国客数の推移
fig_1.jpg
(注)2014年のデータは1~8月累計の前年比を基に年率換算により算出。(出典:日本政府観光局)


■日本の訪日外国客受け入れ能力不足が露呈

 2年前の2012年9月、尖閣諸島の領有権問題を巡って日中関係は最悪の状況に陥り、以後昨年の6月まで中国人の日本旅行はずっと低調だった。それが昨年の7月以降徐々に回復し始め、現在に至る中国人訪日客の急増は昨秋から始まったばかりである。

 今後は上述のとおり、中長期的に大幅な伸びが続く可能性が高い。これは日本が以前からずっと追い求め続けてきた念願のビジネスチャンスの到来である。

 しかし、そのビジネスチャンスにいま、黄信号が灯っている。訪日外国客が予想を上回るスピードで急増しているため、日本側の受け入れ能力が追い付かないという問題が生じているのである。

 問題は3分野にわたっている。第1に、観光バスおよびバスの運転手の不足である。
バスの運転手は元々勤務条件が厳しく、とくに外国人客を扱う旅行会社からのコスト削減要求が強いこともあって、待遇は恵まれたものではなかった。

 それに加えて、2012年4月の関越自動車道高速バス居眠り運転事故の発生を機に予備の運転手の配備など安全対策が強化されたため、運転手の確保が一段と難しくなったと言われている。

 第2は、宿泊先ホテルの不足であり、第3は、中国語通訳ガイドの不足である。基本的には、いずれも訪日外国客が急増したことから露呈した問題である。

 ただし、中国および台湾からの旅行客の増加が今年の訪日外国客増加幅の3分の2を占めていること、中長期的には中国人旅行者の伸びが大きいことなどを考慮すれば、中国語圏の旅行客急増への対応が求められていると言える。

 今のところ、上記の3つの問題による悪影響の範囲は限定的である。しかし、中国での日本旅行ブームは急速な広がりを見せており、中国人訪日客は激増し続けているため、上記の問題が短期間のうちに深刻化するリスクが大きいことは肝に銘じておくべきである。

 これらの3つの問題が深刻化すると、ネットを通じて日本旅行の悪い評判が中国全土で一気に拡散し、中国人の日本旅行に対する熱が冷め、現在の激増に急ブレーキがかかるリスクがある。

 中国人が日本旅行に来たい理由の中で、サービスの良さ、交通の便の良さという長所は中国人が日本に魅力を感じる重要な要素である。

 もし、バス不足、ホテル不足、通訳ガイド不足といった問題が深刻化すれば、サービス水準や交通の利便性の面で日本旅行の魅力は大幅に低下する。バスやホテルが確保できずに、ツアー自体がキャンセルされることも懸念される。

 そうした問題点が頻繁に指摘されるようになれば、日本旅行の魅力が薄れ、昨秋からの日本旅行ブームが急速に萎んでしまうことが懸念される。

 それは、2020年までに訪日外国人旅行客2,000万人の達成という政府目標の実現を極めて難しくすると同時に、日本の観光関連産業が大きなビジネスチャンスを失うことを意味する。

 そうした事態を招かぬよう、上記の3つの問題を早期に解決し、中国人旅行客受け入れのボトルネックを解消することが日本にとっての喫緊の課題である。政府、民間企業とも意思決定の遅い日本の組織の体質を考えれば、どんなに対応を急いでも急ぎ過ぎることはない。


■受け入れ能力不足の改善策

 上記の3つの問題のうち、第1と第2の問題については、すでに国土交通省でも問題を認識しており、一部は対策を実施している。

 第1の観光バスおよびバス運転手の不足については、バスの運行範囲を一定地域内に限定していた規制の緩和によって旅客輸送力を高める措置をすでに開始した。同時に、運転手の労働条件改善のため、今年の4月から新運賃制度も導入した。

 しかし、後者については、外国人訪日客向けツアーを催行する旅行会社からのコスト引き下げ要請が厳しく、導入は難航しているようだ。

 第2のホテル不足については、マンションやリゾートマンションをホテルに転用するアイデアがある。ただし、ホテル業としての営業認可を得るには、入り口にフロントがなければならないといった要件等があるため、すぐにホテルへの転用は難しいという問題がある。この点についても国土交通省では規制緩和を検討中と聞く。

 第3の中国語通訳ガイドの不足については、改善策としていくつかのアイデアがある。

 ひとつは、中国を訪問する日本人旅行客が激減しているため、中国国内では日本語通訳の仕事が少なく、通訳ガイドが大幅な余剰となっている。そこで、この中国人の日本語通訳ガイドが日本で働けるように規制緩和を実施すれば、即戦力に近い形で大量の通訳ガイドを確保することができる。

 もうひとつのアイデアとしては、日本に留学中の中国人留学生や中国語を学んでいる日本人大学生等を戦力化する方法である。この場合、学業との両立が図れるよう、通訳ガイドの仕事をこなせば一定の単位取得につながるような仕組みを導入することができれば、学生側のインセンティブは高まる。

 中国人訪日客の大幅増加が中長期的に持続すれば、日本の観光関連ビジネスの活性化にとって非常に強力なエンジンとなる。

 のみならず、大半の中国人は日本を訪問すると、訪日以前に抱いていた反日・嫌日感情を大きく修正し、日本人に対する理解と信頼を深めることが多い。これは今後の日中関係の改善にとって重要な相互理解の土台となる。

 このように大きな意義を持つ中国人訪日客の中長期的な大幅増加持続の実現を目指し、上記の3つの課題、そして今はまだ見えていないが今後新たに生じる様々な課題に迅速かつ柔軟に対処していくことは日中関係の将来にとって極めて重要である。

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