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2014.07.29

羽田-東京を18分で結ぶ新線建設の経済効果と残された課題

JBpressに掲載(2014年7月18日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 日本経済復活の決定打となる重要施策は日本とアジアを結ぶ航空インフラの整備である。と言っても飛行機の運航速度を上げるのではない。主要ターミナルから飛行機搭乗までの時間を短縮することによって空港利用の利便性を大幅に向上させることが主眼である。

 筆者はかねてこの主張を繰り返してきたが、ついにその第一歩が動き出そうとしている。7月15日付日本経済新聞の1面トップで「羽田-東京18分に短縮」と報じられたのである。

 このコラムでも2012年12月、2013年5月、2014年2月の3回にわたり、羽田、成田、中部、関空等日本国内の主要空港と東京、名古屋、大阪等主要ターミナルを結ぶ高速鉄道建設の意義を述べた。筆者自身の講演でも、しばしばこの空港関連インフラ建設の重要性を訴え続けてきただけに、このニュースは本当に嬉しい知らせである。

 そこで今回は改めてこの新線建設の巨大な経済効果と残された今後の課題について整理してみたい。


日本の航空インフラの大幅改善が必要となった時代背景

 経済のグローバル化が始まるはるか以前、日本の1960年代から70年代にかけての高度成長期に最大の経済誘発効果を持った投資は東海道新幹線と東名高速だった。当時、海外との経済交流は主に貿易であり、相手国は欧米先進国が中心だった。

 1990年代以降、経済のグローバル化の進展とともに、国境を越える投資が急速に拡大し、多国間経済関係の緊密化が進展した。それと並行して中国を中心にアジア諸国の経済が順調な発展を遂げ、円高の効果も加わり、日本企業のアジアビジネスも目覚ましい勢いで増加した。

 このような経済環境の変化は必要とされるインフラも変えた。高速鉄道、高速道路に加え、国境を越える航空網が重要な交通手段となっている。

 それにもかかわらず、日本の航空インフラは2つの点でそうした時代環境の変化に対応できていなかった。

 第1に、発着枠の不足、そして24時間発着体制の未整備である。グローバル化時代の航空網活用ニーズは大幅に高まっていたにもかかわらず、日本の主要空港はそれに対応できていなかったため、韓国の仁川空港等にハブ機能を奪われた。

 第2に、アジアの主要都市との間の効率的な移動ニーズへの対応の遅れである。日本から欧米先進国に行く飛行時間は10~13時間程度であるのに対し、羽田-ソウルは2時間半、羽田-上海は3時間、羽田-北京は4時間、羽田-シンガポールでも7時間半とアジアの主要都市への所要飛行時間は格段に短い。日本からアジア諸国への飛行時間はアメリカや中国での国内線の飛行時間とほぼ同じである。

 飛行時間が10~13時間も要する場合には、搭乗までの所要時間の長さはさほど気にならない。しかし、飛行時間が3~4時間しかないのに、空港までの移動に1~2時間かかり、空港でも1~2時間待たされると、飛行機に乗っている時間より搭乗するまでの移動時間と待ち時間の合計の方が長いケースも珍しくない。これは明らかに非効率である。

 経済のグローバル化が進展する中で、日本企業にとってアジアがビジネスの中心となった現在、過去の航空インフラに関する考え方を抜本的に改め、搭乗までの時間を大幅に短縮し、国内線とほぼ同レベルまで移動効率を高めるニーズが強まっている。


新線建設の具体的な中味

 航空インフラ改善のために必要な2大施策は、空港での待ち時間の短縮と空港までの移動時間の短縮である。

 空港での待ち時間短縮のためには、日本とアジアの主要ターミナル間のフライトをシャトル便化して、30分に1本程度の頻度で様々な航空会社の飛行機に自由に乗られるようにすることが有効である。

 一方、空港までの移動時間短縮のために必要な施策が、今回報じられた新線建設による主要ターミナルと空港の間の移動時間の大幅短縮である。

 理想的には東京駅-羽田間を10分、東京駅-成田間を20分で結ぶことに加え、名古屋駅-中部国際空港、大阪駅-関空も20分以内で結ぶことである。

 今回の報道によれば、新線建設によって、東京-羽田が28~33分から18分に、新宿-羽田が41~46分から23分にそれぞれ短縮される計画である。東京-羽田間がもう少し短縮されると申し分ないが、新宿まで23分で直通となるのは画期的である。

 これらに加えて、東京駅近くの地下に「新東京駅」を建設し、羽田・成田両空港を結ぶ「都心直結線」の整備も検討されている由。これが建設されれば、東京-羽田10分、東京-成田20分という理想形が実現するはずだ。こちらについても今後の進展を大いに期待したい。


想像を超える巨大な経済効果

 今回報道された羽田空港関連の新線建設に加えて、成田、中部、関空等についても同様のインフラ整備が行われ、併せてシャトル便化が実現すれば、日本と中国、韓国、ASEAN諸国は国内便とほぼ同等の利便性を持つ航空網で結ばれる。その経済効果は次の3点である。

 第1に、移動時間の短縮がビジネスの効率を高め、日本企業のアジアにおけるビジネス展開にとって極めて強力な支えとなる。

 第2に、欧米企業にとっても日本の利便性が格段に向上し、日本を拠点としてアジア地域でのビジネス展開を考えるケースが増えることが期待できる。この点は見落とされることが多いと思うが、実はその経済効果は大きい。特に中国の高度成長が続く2020年頃までに日本の利便性が高まれば、効果は絶大である。

 加えて、最近はPM2.5による健康問題等を恐れて欧米人の中国への赴任拒否の動きが広がっている。そうしたビジネスマンにとって東京、大阪等日本の主要都市にアジア中核拠点を設け、そこから中国ビジネスを展開するニーズは強いはずである。

 第3に、今後のアジア諸国の経済発展とともに、アジア企業にとって日本をビジネス拠点として活用するニーズも高まる。

 以上のように、欧米企業、アジア企業が日本とアジアを結ぶ航空インフラを活用してビジネス展開を拡大すれば、アジアビジネスの統括拠点を日本の主要都市に置く動きが促進される。これは新たな雇用機会創出、不動産需要拡大、国際会議の増加、観光客増加といった広範な副次的経済効果を生み、日本経済の活性化に寄与すると考えられる。


経済効果を高めるために不可欠な法人税25%の実現

 このインフラ整備を進める以上、日本政府が実現すべきもう1つの重要課題がある。それは法人税を25%まで引き下げ、中国、韓国と比較して企業経営にとって不利な税制を改めることである。

 航空インフラの整備が進められて、日本の利便性が高まれば、上述の通り、日本をアジアビジネスの拠点とする外国企業が増えるはずである。それは東京、大阪、名古屋、福岡といった日本の主要都市の経済を活性化する巨大な力となることは間違いない。

 しかし、それらの外国企業が日本にアジアビジネスの中核拠点を置こうとすると、日本の高い法人税率が大きな障害となる。これを中国・韓国と同水準にまで引き下げなければ、欧米企業が日本を拠点に選ぶことは難しい。

 逆に航空インフラ整備が中国や韓国に拠点を置いて日本でのビジネスを展開する利便性を高めてしまう。したがって、航空インフラ整備と法人税の25%への引き下げは一体として進められることが重要である。


残された今後の課題

 航空インフラ整備を日本経済復活に直結させるためには、さらにいくつかの重要課題の克服が必要である。

 第1に、航空インフラ整備は2020年の東京オリンピック開催までに完成させることが極めて重要である。東京オリンピックの経済効果は現時点での一般的予想をはるかに上回ると予想されるからである。

 中国において1人当たりGDPが1万ドルを上回る都市の合計人口は、現在の3億人から2020年には7億~8億人にまで増加し、彼らの多くが日本旅行を楽しめるようになる。しかも、ASEAN諸国と同様に、中国でも日本短期滞在ビザ免除措置が実施されれば、昨年131万人だった中国人の訪日観光客が、2020年には1000万人を超える可能性は十分ある。

 政府が掲げる2020年2000万人の観光者数の実現には東京オリンピックの好機を利用しない手は考えられない。是非とも2020年の東京オリンピック開催までに航空インフラ整備と法人税の25%への引下げを実現すべきである。

 第2に、新線の発着頻度の増加が重要である。現在、成田空港に向かう成田エクスプレスは所要時間が長いのみならず、出発頻度も少なく、東京駅、新宿駅でも30分から1時間に1本程度しかない。これではタイムリーに利用できないため、非効率である。車両編成は短くてもいいので10~15分に1本程度の頻度でいつでも便利に乗られる利便性を確保することが重要である。

 第3に、できれば東京-名古屋-大阪を結ぶリニアモーターカーの完成も東京オリンピックに間に合わせ、首都圏から関西までの一体化を図ることにより、航空インフラ建設の経済効果に拍車をかけ、日本経済の活性化を加速すべきである。

 第4に、以上のインフラ建設に必要な財源は、社会保障の削減によって確保すべきである。社会保障関係費の予算規模は30兆円に達しており、他の予算に比べてはるかに大きい。しかもその給付水準は1990年前後の日本が安定成長を維持できていた時代に算定されたもので、現在の低成長と高齢化を前提とする日本経済にとって持続可能なレベルではない。

 これを現在の日本経済の実力に合わせた適正な給付水準とするだけで必要な予算の捻出は十分可能である。将来、上記のようなインフラ整備と税制改革によって日本経済が以前の活力を取り戻すことができれば、その時点で再び社会保障の給付水準を引き上げるのが現実的である。

 東京オリンピックという日本に与えられた貴重なチャンスを十分に活用してインフラ整備と税制改革を進め、一気に日本経済の活性化を図ることを目指すことが今の日本の最重要課題である。新線建設の嬉しいニュースに触れた機会に、この点を改めて強調し、日本経済の復活を期待したい。

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