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2014.07.10

技術がもたらす様々な危険

電気新聞「グローバルアイ」2014年7月9日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 米国の友人から興味深いメールが届いた―「日本の最先端技術動向を探るため、同僚が日本語のオンライン翻訳ソフトで日本語情報をフォローしていたので叱ったんだよ。便利であっても、とても危険だから」、と。ビッグデータ時代を迎え、「誰が」「何を」探し求めているのか、本人が意識しないうちに他人に知られてしまう危険性が高まった。かくして技術は、人間に対し幸福だけでなく様々な危険をもたらすようにも思える。

 筆者もオンライン翻訳を利用するが、それは選択的だ―翻訳ソフトも人間の翻訳と同様に不完全であるが、哲学や芸術関係を中心に邦訳・英訳が怪しい場合だけ活用している。また西欧の言語では英・露翻訳ソフトが群を抜いて優れており、これは冷戦時代の予期せぬ遺産だと素人ながら感心している。

 英・露翻訳ソフトを通じて、最近感銘を受けたのが、チェルノブイリでの事故を記した専門書だ。2011年秋に出版された同書の2人の著者は、それぞれソ連共産党中央委員会事故対策班とチェルノブイリの現場で働いた経験を持ち、奇しくも福島での事故発生時に同書を脱稿している。筆者は、知人を通じて原書を入手し、原子力の安全性に関心を持つ人々に読んでもらいたいという著者の了解を得て簡単ながら触れてみる。

 同書を読むと、チェルノブイリと福島との類似性に驚く―「事故の全ての側面に関し、事前に何らかの策が採用され、調査が実施され、そして方法上の指針、装置、行動計画等が作成されていたのだ。しかし、それらは全て、いわば机上の空論」であったことが判明したと著者は深く自省している。また彼等は、「人間の生命と環境に対して脅威とならない原子力のみが、社会に受容される」と結論づけている。

 旺盛なエネルギー需要と深刻な地球環境劣化を背景として、中国を筆頭にアジア諸国は新たな原子力発電所の建設に忙しい。この分野の先進国である日本は、安全性に関し、彼等のためだけでなく、我々のために福島での教訓をグローバルに共有する必要がある。

 こうした理由からハーバード行政大学院(HKS)の危機管理の専門家が筆者の研究所を訪れた際、震災当時に福島第二の所長を務めていた増田尚宏氏から現場での教訓を教示して頂いた。現在、増田氏が廃炉・汚染水対策の最高責任者として、英国のセラフィールド社と情報交換を通じ、互いに経験を共有し教訓を学ぼうとされていることは注目に値する。またハーバード・ビジネス・レヴュー(HBR)の最新号は、増田氏が発揮した福島第二でのリーダーシップを詳細に取り上げている。

 増田氏や福島第一で事故対応に当たった吉田昌郎氏、そして彼等のもとで懸命に対応した現場の作業員の人々は、日本が誇る優れた人財だ。こうした優れた「ヒト」のみが、21世紀の技術を人類の幸福へと導く資質を具えている。我々は彼等の原子力技術に対する姿勢と彼等が得た辛い教訓を、中国をはじめ世界の人々と共有する努力を続けてゆかなければならない。

 技術に詳しいドイツの哲学者、マルティン・ハイデガーは、著書『技術への問い』の中で、「危険なのは技術ではない。技術には悪魔的な力はない。だが、技術の本質には秘密があり、そこに危険が潜んでいる」と述べた。グローバル時代を迎え、情報通信や原子力等の先端分野に関して、我々は技術が持つ秘密を少しずつ解明し、その秘密の中に潜む危険を最小限に止めるため、国境を超えて経験と智慧を結集する時を迎えている。


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