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2013.09.20

2020年東京五輪、アジアの人たちと共に心から楽しめることを願う

JBPressに掲載(2013年9月19日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 2020年東京五輪の開催が決まった。実に久しぶりに日本人全体を明るい気持ちにしてくれた。

 招致決定に大きな影響力を持ったと言われる最終プレゼンテーションは、多くの日本人にとって、自分が日本人であることの誇りをもう一度取り戻させてくれる、ゾクゾクするほど素晴らしい内容だった。

 世界中の人々が注目する大舞台でこれほど堂々と日本の長所を主張できる日本人たちの存在を目の当たりにして、自分自身も勇気を奮い立たせようと思った日本人もたくさんいるはずだ。


■2020年のアジアを想像する

 私自身、東京五輪開催決定を知った瞬間に一つの想いが心を突き抜けた。この五輪を本当に成功させられるかどうかは、中国、韓国、そしてアジアの人たちが心から祝福してくれるかどうかにかかっている。

 そうなった時に初めて、世界中の人たちに気持ちよく明るく楽しい気分で東京に来てもらえるはずだ。そのためにはどうすればいいか。

 2020年のアジアと世界を想像してみてほしい。中国は所得が倍増してますます豊かになり、アセアン諸国やインドも賃金水準が上昇して日本企業にとっての市場が大幅に拡大する。日本のビジネスマンは国内出張のようにアジアと日本を往来しているだろう。

 中国のGDPの規模は日本の2.5倍程度に達し、日中韓台合計の東アジアのGDPは米国を大幅に上回り、東アジアが世界経済のリード役となっている。アジア全体の経済緊密化が一段と進み、アセアン諸国やインドは日本企業にとって生産拠点としてのみならず、販売市場としての魅力が高まっていく。

 日本企業の製品・サービスを購入する人々は、一人当たりGDPが概ね1万ドルに達する時点を境に急増すると言われている。これが日本企業にとっての顧客層である。私の手元の推計であるが、現時点で中国国内に約3億人、アセアン諸国合計では3千万人弱の人々が日本の顧客層に属している。

 2020年になれば、中国国内の顧客層は7~8億人、アセアン諸国でも6~7千万人に達すると考えられる。その人たちの多くが日本に関心を持つようになり、できれば東京五輪にも行ってみたいと思うはずだ。

 これが2020年のアジアの姿である。東京五輪に訪れる外国人の中でアジアの人々が占めるウェイトは、過去の五輪とは桁違いの高さになることは明らかである。


■交通インフラ大改造を五輪モードで推進する

 2020年東京五輪の開催が決定し、多くの若いアスリートたちが、特別な想いで五輪出場、メダル獲得を目指して練習に取り組む気持ちを切り替えている。心を奮い立たせる目標が明確な形で見えたことが心のエンジンのギアーチェンジを促し、これまでとは違った次元の意欲で日々の努力に向かわせている。

 かつて1964年の東京五輪開催が決定した時、多くの日本人が選手たちと同じように心のギアーを切り替えた。

 東京五輪開催に間に合わせるよう首都高速道路の建設が加速され、東海道新幹線はオリンピック開催(10月10日)直前の10月1日に開通した。これらの交通インフラの経済誘発効果がその後の高度成長の強力な推進力となった。

 

 その後の日本経済の発展と世界における日本のステータス向上に東京五輪が果たした役割は計り知れない。それを可能にしたのは、心のギアーを五輪モードに切り替え、力を合わせて日々の努力を重ねた日本人全体である。

 今回も日本経済復活のカギは交通インフラ建設である。2020年は現在よりさらにグローバル化が進展し、アジア諸国の経済発展が世界経済をリードする時代になっている。成長するアジアと日本を結ぶ交通インフラの拡充がもたらす経済効果は極めて大きい。

 アジア諸国と日本を結ぶ主要交通手段は航空網である。アジア域内の移動時間はほぼ数時間以内だ。それにもかかわらず、現在、東京や大阪のオフィスや自宅から空港まで移動して搭乗するまでの時間を合計すれば2~4時間を要する。

 これを1~2時間程度に短縮することができれば、アジアにおける日本の位置づけは大きく変化する。中国の主要都市に行く場合、中国国内の移動とほぼ同じ時間感覚で東京、大阪、名古屋等から行くことができるようになる。

 そのための条件は、東京駅-羽田を10分、東京駅-成田を20分で結ぶような高速鉄道を各空港で開通させる。そして羽田、成田、中部、関空等日本の主要空港と北京、上海、ソウル、香港、シンガポール等のアジアの主要空港の間をシャトル便で結ぶことである。従来型の発想を切り替えさえすれば、日本の技術力により実現は可能である。

 もう一つの重要な点は、東京五輪の経済誘発効果を日本全体で共有するために必要な国内交通網の整備である。

 一つの提案は、2020年までに中央新幹線のリニアモーターカーの開通および東海道新幹線の高速化を実現し、東京、名古屋、大阪の一体化を進めることである。この大動脈が活性化すれば日本全体が勢いづくことは間違いない。

 現在のリニアモーターカーの計画では2027年に東京-名古屋間、2045年に東京-大阪間が開通する。開通後の所要時間はそれぞれ40分、67分である。この計画を大幅に前倒しして2020年に開通させる。

 ここでも発想を五輪モードに切り替え、夢の実現を目指す。東京五輪を見に来る世界中の人々にとってリニアモーターカーに乗ることは大きな楽しみになる。

 そうなれば、東京だけではなく、名古屋、大阪、その周辺を訪問する外国人の数が飛躍的に増加するはずだ。羽田・成田両空港だけでは不足する発着枠を中部と関空でカバーすることも可能になる。

 その頃までには圏央道、外環道、中央環状線という首都圏の基幹高速道路網も開通し(2015年には全線開通予定)、首都圏の一体化も進む。これに市街地中心部の首都高速の拡幅プラス地下化が加われば、首都圏の交通網も大幅に改善する。


■中国、韓国、アジア諸国の人々との心の距離も短縮する

 東京五輪までに短縮するのは物理的な時間距離だけではない。日本人と中国人、韓国人、そしてアジア諸国の人々との間の心の距離を短縮することも大切である。

 それには日中・日韓関係正常化に向けた外交努力に加え、日本人一人ひとりが歴史認識の改善に取り組む必要がある。中国、韓国、アセアン諸国の人たちの気持ちをよく理解するには、日本とアジアの関係に関する歴史を理解しておくことが不可欠だ。

 日本の学校教育において、アジアと日本の関係に関する歴史教育は不十分である。アジアと日本の関係は主に明治維新以降、とくに第2次大戦前後に大きく変化した。しかし、日本の学校教育では通常、明治維新以後の歴史を学ぶ時間は短い。

 今後アジア諸国との関係がますます重要になることを展望し、その時代の歴史を小中高等学校での歴史教育の中心に据えるよう、歴史教育のカリキュラム自体を抜本的に変更すべきである。

 たとえば、第2学期は明治維新から太平洋戦争敗戦までを学ぶことにするのが一案だ。そうした歴史理解の努力を土台として、アジア諸国との相互理解の上にスポーツ交流が加われば、東京五輪が日本とアジアの心の架け橋になる効果が格段に高まる。

 そして最後にもう一つのアイデアを提案したい。中国、韓国、アジア諸国の大学生を中心に東京五輪のボランティアを募り、文字通りアジアの力を結集して成功を目指す。

 東京五輪が日本とアジアの経済緊密化を加速させ、日本人とアジア人の心の絆を強める新時代の祭典となることを期待したい。

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