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2013.02.25

政治リスクも日中経済は健在~中国~

電気新聞に掲載(2013年2月20日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 1月下旬、公明党山口代表と習近平総書記との会談が節目となり、日中関係はわずかながら改善に向かって動き出した。中国国内メディアの対日強硬論のトーンが微妙に変化し、その空気を読んだかのようにメディアやインターネット上を賑わしていた対日開戦論も徐々に沈静化してきていると聞く。しかし、尖閣諸島の領有権問題について国民世論が安易な妥協を許さない状況は依然として続いている。結論は棚上げしかないというのが識者のほぼ一致した見方であるが、そこに落ち着かせるまでの経路はまだ見えていない。事実上の棚上げを実現するには慎重かつ巧妙に両国の国民感情を沈静化させていくことが必要である。これには一定の時間を要する。

 一方、日中両国とも経済関係の重要性は十分理解している。自動車、ギフト、政府調達、観光旅行関連ではまだ悪影響が残っているが、その他の分野については昨年12月頃に影響がほぼ消えた。それ以外の産業分野でも一部の企業は業績不振を尖閣問題のせいにしているが、実は尖閣問題を口実に使っているだけで、本当の理由は他にあるケースが多いと見られている。上海、広州、深圳など所得水準の高い沿海部を中心に、中国人の日本製品に対する評価は高く、購入意欲は強い。反日ムードが支配的で店頭販売が伸び悩んだ時期に、人目につかないネット販売の売れ行きが伸びた日本企業もある。最近は上海以南の地域では、人目も気にせず堂々と日本製品を買うようになった。中国人の消費者はしたたかである。

 中国の地方政府が日本企業を誘致する姿勢も積極的だ。薄熙来問題の影響が懸念される重慶や反日デモの暴徒化により日本企業から敬遠される青島では、悪評を吹き飛ばすため、とくに日本企業に対する優遇政策が手厚いと言われる。中国人の経済専門家によれば、中国で新たな拠点を探している日本企業にとって、重慶と青島は今が進出のチャンスである。蘇州、無錫、深圳、天津など、従来から日本企業が地元経済の雇用と税収を支えている地域の政府も日本企業の引き留め、誘致に熱心である。中国の国民感情の反発を買わないように、水面下で目立たない形で日本企業に熱いラブコールを送っている。地方政府もしたたかである。

 日本企業も従来から意欲的に中国ビジネスに取り組んでいる企業は引き続き積極的だ。チャイナプラスワンと言っても、少なくとも10年以内に中国の巨大市場に代わる市場は出てこない。サプライチェーンの充実、熟練工の技術力、効率的な行政手続きなどのメリットを考慮すると生産コストも実は中国の方が安いケースも多く、チャイナプラスワンに移せる生産拠点は限られているのが現実だ。信頼できる金融筋によれば、すでに中国に進出している日本企業の大半は今年も中期計画通りに対中投資を拡大するため、日本の対中投資総額は今年も増え続ける可能性が高いと聞く。日本企業もしたたかである。

 ただし、中国をよく知らない企業は尖閣問題を機に殆どが足踏みまたは後退している。これまでは表面化していなかった大きな政治リスクが常に目の前に見えている状態になったからだ。中国市場の魅力を知らなければしたたかになれないのは無理もない。

 日中両国間にこれほど激しい逆風が吹き荒れているにもかかわらず、両国経済関係は揺るぎない土台の上にしっかりと立っている。日中関係がここまで悪化しなければ見えなかったはずのしたたかな関係がはっきり見えたのは大きな収穫である。


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