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2013.01.25

各省庁・日銀の組織利害を超えた横断的な政策の連携と調和を目指せ

JBPressに掲載(2013年1月21日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 円安と株高を背景に日本経済は少し明るさを取り戻している。これをさらに推し進めるために、安倍政権は日銀に対してより高いインフレ目標を設定するよう求めている。
 日銀は11月まで従来の路線を守ろうとする姿勢が強かったが、12月の総選挙後、突然柔軟姿勢に転じたように見える。中央銀行の独立性を重視する立場の人たちは、日銀が政治の圧力に屈した印象を与えるこの変化に失望し、通貨価値の維持機能の低下や国債の暴落リスクの高まりに不安を覚えている。
 政治家、官僚、経済人、学者の中に通貨価値の安定を目指すという目標を否定する人はいない。短期的に円の通貨価値を低下させて円安にすることを期待している人たちも、中長期的には日本経済が活性化し、実力に応じて円高に向かうことには賛成するはずだ。


◆政府と日銀の間に摩擦が生じる理由

 日本が目指すべき目標は、日本経済の活力を回復させ、実質成長率を高め、デフレから脱却し、失業を減らすことであるという点も殆どの人々のコンセンサスである。ではなぜ同じ目標を持つ政府と日銀の間に摩擦が生じるのか。それは経済政策全体についての共通理解と相互信頼関係が十分確立されていないためである。
 政府の各部門と日銀が上記の共通目標の達成のために、日頃から個々の政策メニューの組み合わせ方について各組織の担当分野の壁を越えて十分に議論を重ねて、相互信頼関係の下に互いに協力し合っていれば、今見られているような摩擦はかなり緩和されるはずである。
 各省庁と日銀はどこもみな縦割り的体質が染み付いており、自分の庭先の事ばかりに執着し、横断的政策連携が十分とは言えない。また、自分の組織の予算や権限が縮小するような政策に対しては、たとえそれが国益に資することがわかっていても、組織の利害を優先して反対する体質が改められていない。
 日本経済を活性化するためには金融政策のほかに、財政政策、産業政策、通商政策、税制、社会保障政策など主な政策手段をうまく組み合わせることが必要である。その中で、マクロ経済政策の代表である金融政策と財政政策は経済のスピード調整機能を担う。一方、その他の政策は日本企業の競争力を強化し、政府の効率化を図る体質改善・強化機能を担う。
 少し噛み砕いて主な手段と目標を列挙してみれば、①各種規制緩和による健全な競争の促進とそれを通じた生産性の向上、②企業に対する減税や補助金による企業の収益力の増大と雇用の確保、③政策分野別の適切な財政配分による政府機能の効率化、④所得税・消費税や社会保障給付水準の見直しによる財政赤字の削減、⑤TPP・FTAの推進や外交関係の緊密化等を通じた貿易・投資環境の改善などである。
 これらの体質改善・強化政策によって企業が活力を取り戻し、成長率を押し上げ、財政赤字を減らすことが日本の目標である。
 最終的な政策目標の実現には、マクロ経済政策と体質改善・強化政策の連携が重要である。水を飲む気がない馬を川辺に連れて行っても水は飲まない。馬に水を飲ませるには馬自身が水を飲みたいと思うことが大前提である。馬を水辺に連れて行くのはマクロ経済政策、馬に水を飲みたい気にさせるのは体質改善・強化のための各種政策である。


◆不十分なのは金融緩和なのか

 日本は1995年9月に短期の政策目標金利を0.5%まで引き下げて以来、短期金利はずっと1%未満ないしゼロ近傍に抑えられており、極端な金融緩和状態が17年以上続いている。
 一般的には金融緩和が不十分であるとの見方が多いが、馬(=日本企業)が普通の体力を回復していれば、十分水を飲めるところまで水辺には近づいている。それでも水を飲もうとしない馬が多いのは、水の飲ませ方が上手くないだけではなく、馬自身の体質改善・強化が不十分であると考えるのが自然である。
 日本経済の中長期的な安定成長確保のためには、様々な政策メニューを通じた企業と政府の体質改善・強化とマクロ経済政策によるスピード調整の両方がうまくバランスをとっていくことが重要である。
 金融政策を担当する日銀は金融政策だけを理解しているだけでは不十分である。財政政策、産業政策、通商政策、社会保障政策等を担う各省庁も自分の管轄する分野の政策だけを理解しているだけでは調和のとれた有効な政策パッケージを生み出すことはできない。
 日本に欠けているのは各省庁・日銀相互間でのフランクな政策論議と横断的連携を通じた政策の調和的運営である。政治家が強いリーダーシップをとり、縦割り的発想の染み付いた各省庁と日銀に対して組織の利害を超えて議論させ、政策の連携と調和を実現させることが重要である。
 その横断的連携の土台の上で、デフレ脱却、日本経済再生のためにどんな政策が必要かを国民に対してきちんと示す必要がある。これには経済財政諮問会議が適している。しかし、その場だけではなく、各省庁と日銀の様々なレベルで日常的に政策相互間の連携と調和を図る努力が必要である。政治家はここにも関与すべきである。


◆政策の有効性と政策運営のガバナンス実現に必要なもの

 各省庁・日銀間の横断的な政策の連携と調和を実現する上でもう一つ難題がある。政治家自身が国益より選挙を重視する傾向があるという問題だ。政権与党は次の選挙で勝つことを重視するため、国民に不人気な政策を採用したくない。
 インフレの時代には金融引き締めが不人気だが必要な政策だった。だからこそそれを担う中央銀行には独立性を与え、政府や政治家が嫌がっても国民のために金融引き締めを断行させた。それによって短期的には景気が悪くなっても、中長期的には通貨価値の安定を保ち、経済の健全な成長を確保することができた。
 しかし、今のデフレ時代に不人気な政策を政府から独立して決断・実行する主体はない。不人気な政策の代表例は規制緩和と社会保障の削減である。いずれも既得権益を持つ人々が抵抗するため、次の選挙で支持を得たい政治家は与野党を問わず厳しい選択を回避しがちである。年金・医療費の削減やTPPへの交渉参加に踏み切れていないのもそのためである。
 政府に対して誰かが不人気なことを言わなければ政策運営のガバナンスが働かない。不人気を覚悟で主張するリーダーが必要である。日本でかつてその役割を果たしたのは学者と財界だった。今も一部のエコノミストや経済界のリーダーは不人気を承知の上で政策提言を行っている。そうした勇気ある人物がもっと増えていくことを期待したい。
 日本経済再生のためには、政府・日銀のみならず、経済界、学界も含め、オールジャパンで政策運営のあり方を考える枠組みが大切である。各省庁・日銀が相互連携を欠き、縦割り型の政策運営を続ければ、個々の政策判断が独善に陥り、政策全体としての有効性を損なう。
 国益より組織の利害を優先する考え方を正し、オールジャパンの観点から横断的政策連携を通じた政策運営をリードするのが政治家の役割である。民主党時代は当初、官僚を排除し、政治家だけで政策をリードしようとして失敗した。自民党がその同じ轍を踏まないことを多くの国民が強く期待している。
 自民党の選挙での大勝はかつての自民党の政策運営を評価して自民党を支持したわけではなく、民主党の政策運営に対する批判票が自民党に流れたことによるものであることは、自民党幹部も揃って口にしている共通認識である。その認識は的確である。それを踏まえてこれまでにはなかった各省庁・日銀の連携と調和に基づく政策運営を実現し、今度こそ日本の再生を実現してほしい。


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