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2012.11.22

習近平新政権 多難の船出 ~中国~

電気新聞に掲載(2012年11月21日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 中国の第3四半期(7~9月)のGDP成長率は7.4%と、7四半期連続の低下となり、中国経済の先行きを心配する声も多い。しかし、月次データを見ると、8月をボトムに9月、10月と回復傾向を辿っており、今後も緩やかな景気回復が続くと考えられる。習近平時代の幕開けに合わせたかのように、足許の経済は安定しており、当面大きな問題は生じない見通しである。

 確かに短期的には心配ない。しかし、中長期的には難題が山積みである。それは胡錦涛政権が直面していた難しい課題を未解決のまま殆ど先送りしてしまったためである。したがって、習近平政権の主要な政策課題は全て前政権からの継続案件である。しかも、国民は胡錦涛に期待をして裏切られたとの印象を持っているため、習近平に対する期待とプレッシャーは前政権に比べて格段に強い。習近平が直面する課題は以下の4つに整理することができる。

 第一に、経済社会の公平性確保である。これは主に、所得格差の是正、および都市と農村の格差の是正である。これを実現するには、税制改革によって所得再分配を強化し、富裕層から貧困層への所得移転の増大を実現することが必要である。具体的には、所得税の最高税率の引上げ、中国には存在していない相続税・贈与税の導入、現在上海と重慶だけでしか課税されていない不動産保有税(日本の固定資産税に相当)の全国への拡張、農民や都市貧困層など社会的弱者をカバーする社会保障給付の拡充などである。いずれも富裕層の強い抵抗があり、政治的には実現が極めて難しい。

 第二に、経済効率の改善のための市場競争の導入である。国有企業の民営化、金融自由化、公共料金の市場実勢化などが主な政策課題である。中でも国有企業の問題は深刻である。現状を放置すれば市場競争が歪められ、将来中国経済の効率低下は不可避である。日本でも役所を含めた既得権者の抵抗が激しく、国鉄・郵政・電電の民営化問題の解決には大変苦労した。中国の国有企業のウェイトは日本よりはるかに大きく、多くの産業分野にわたっている。しかも、日本は財界リーダーが改革を主導したが、中国にはその役割を担う人々が見当たらない。この問題の解決は至難の業である。

 第三に、持続可能な経済社会の構築である。経済成長と安心できる生活環境の両立を長期的に実現するには、環境保護と省エネの努力が不可欠である。とくに環境保護は政府の強力なリーダーシップによる環境規制の強化が必要であるが、これによってコストが上昇し、減益を強いられる国有企業等の抵抗は強い。

 第四に、政治的安定確保のためのガバナンス強化である。中国の一般庶民が政府の行政運営に対して不満を持つ最大の原因は、地方政府の末端組織における汚職・腐敗、権力の乱用である。それに反発して生じる反政府暴動件数は年間20万件とも言われる。その暴発を抑制するには、情報統制の緩和や党内人事の民主化等の推進により、政府の行政運営に対する監視とガバナンスを強化することが必要である。

 以上の4つの課題はいずれも富裕層、既得権益層が猛烈に抵抗する難題ばかりである。しかし、これらの問題をある程度解決できなければ、中国の経済社会の持続的発展基盤が不安定化し、一旦成長率が低下し始めると歯止めがかからなくなるリスクが高まる。それを防ぐには習近平政権がこれらの難題に対して決然と立ち向かうしかない。国家の浮沈をかけた大勝負に挑む多難の船出である。


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