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2012.10.23

若者が担う日本経済再生

JBPressに掲載(2012年9月24日付)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 東日本大震災の発生から1年半が経過した。今も日本人の多くが日本経済の再生は震災復興から始まるという思いを共有している。
 日本人として、大震災直後に日本人が見せた底力、思いやり、モラルの高さなどを誇りに感じなかった人はいないはずだ。だからこそ大震災の悲劇の克服が起爆剤となって、バブル崩壊以来20年以上続く日本の停滞に終止符が打てるのではないかと期待した。あるいは、終止符を打たなければならないと決意したはずだった。


◆大震災からの復興の力になっている若者たち

 しかし、あれから1年半が経過した現在、当時の期待や決意と現実の間には大きなギャップが生じている。震災・津波等自然災害への対応力の向上、農業・漁業・製造業・サービス業等の再興と活性化、全国各地にバラバラになっている被災地住民のコミュニティーの再結集などを早期に実現する必要がある。
 そのためには、東北の被災地を単純に元の姿に戻すのではなく、より安全で生産性や経済効率の高い地域社会を新たに構築することを目指すべきである。そしてそれを日本再生のモデルにしていこう。この1年半、こうした掛け声が何度も繰り返されてきた。
 しかし、現実には様々な障害もあって期待通りには進んでいない。それどころかがれき処理の問題にすら他の自治体から十分な協力が得られないという状況である。大震災直後に日本人が世界から称賛された思いやりと助け合いの心、高いモラルはどこへ行ってしまったのだろうか。そんな悔しい思いを感じている人は多いはずだ。
 その一方で、今も毎日復興を目指して歯を食いしばって努力を続けている人たちもたくさんいる。そうした震災復興を目指す人々の思いを支えているのは心の絆である。その絆の支えには多くの若者が貢献している。今も続いている地元や全国からの多くの若者たちを含むボランティアの方々による被災地に対する心のこもった支援はその典型である。
 そうした支援を続ける人々の力を借りて、東北の地元の人々は心に深い傷を負いながらも一日も早く復興することを目指して努力を続けている。それでも時々心が折れそうになる時もあると思う。そんな時に心を奮い立たせてもう一度前に向かわせたのも若者たちである。
 今春の高校野球の選手宣誓、東北出身のオリンピックのメダリストたちの凱旋報告など、地元出身の若者たちが東北地方全体、そして日本全体に感動を与え、心を励ましてきていることも復興を目指す心の絆の大きな支えとなっている。
 東日本大震災からの復興への取り組みの中で、そうした若者たちの力強さが日本を国難の克服に向かって奮い立たせるエネルギー源になっていることに改めて気付かされた。


◆若者が内向き、無気力と批判する前に自らを省みよ

 企業経営者、大学教授といった方々が、最近の若い世代を内向き、無気力と批判しているのをよく耳にする。しかし、そういう意見を聞くたびに私は反論している。
 前段で紹介したように、大震災後の様々な復興への取り組みを見ても、実際に震災後の日本を支えている若者が多いという事実に目を向けるべきである。内向き、無気力でこんなパワーが出てくるはずがない。むしろ、中央・地方の政府関係機関において責任ある立場に立ち、権限も発揮できる中堅幹部以上のやってきたことこそ内向き、無気力という批判を浴びてしかるべきではないのだろうか。
 住民からの批判を恐れてがれき処理に協力しない自治体が多い。東北の被災地の自治体自身も中央省庁からの指示待ち体質が染み付いていて自らの構想で中央省庁を動かそうと主体的に動くケースは少ないと聞く。これでは復興が期待通りに進まないのも無理はない。
 ボランティアに携わり、地元で復興のためのプロジェクトを立ち上げている若者たちは、人から言われてではなく自分の頭で考え、自らの意志で動いている。これこそが日本を動かす原動力であり、日本再生のエネルギー源である。
 未曽有の事態に直面している以上、待っていてもどこからもいいアイデアは出てこない。現場の自治体が中心となって自分の頭で考え、自分の意志で主体的積極的に行動する以外に突破口は見つからないのである。
 自治体内の人材が不足であれば、ボランティアで支援してくれる地元や全国のやる気のある若者たち、有識者等を積極的に活用すれば活路は見いだせる。そうした柔軟な発想で解決策を考え、震災復興を担う若者の力をフルに活用して復興事業を推進し、日本再生を実現する以外に国難を克服する道はない。
 これまでも自らの意志で積極的に復興に貢献し、今後も貢献し続けようとしている若者たちは最初からそういう思いに駆られていた人ばかりではないと思う。震災復興の現場を支えるボランティアや様々なプロジェクトに参加する機会に志を共有する仲間と出会う中で自分の心に火がつくことに気づいた若者が多いと思う。これと同じことが今後の日本経済再生に向かうプロセスにおいても必要である。


◆中国や世界での競争力を高めるために必要なこと

 日本企業はいま、グローバル市場における競争への抜本的な対応を迫られている。企業の競争力の根源はグローバル化を支える人材である。しかし、大企業といえども最初からグローバル化への対応力を備えた人材はほとんど存在しない。企業がグローバル競争にチャレンジし、全社一丸となって世界市場での成功に向かって努力する中で人材も育ってくる。
 これは震災復興のボランティアの中で志を共有する仲間たちから気づきを得られた若者たちが主体性・積極性を身につけていくのと同じプロセスである。
 したがって、企業自身が全社一丸となって本気でグローバル化対応を目指せば、その中で気づきのチャンスが与えられ、若いグローバル人材が育ってくる。しかし、今のところ日本には本当のグローバル化企業が少ないのが実情である。
 最近の若者は内向きだ、無気力だと語る世界的大企業の経営幹部の多くは今も内向きである。日本を代表する巨大企業の中ですら、海外生活が10年以上で、グローバルな視点から迅速かつ大胆に経営判断を下すグローバル人材が役員の半分以上を占めている企業は少ないのが実情である。
 それを若者が見て、自分の将来の出世を考えて、現在の役員の真似をして内向きになっているというのが今の日本企業の構図のように見える。
 それが学生にも伝わって、大学生も内向き、無気力になっている面がある。しかし、若者たちは一旦心に火がつくと、その停滞した状況から脱却できることは、震災復興への取り組みの中で若者たち自身が証明している。地方自治体も大企業も本気で探せば人材は見つかるのである。ただし、トップリーダー自身が先頭に立って経営をリードし、組織が主体的・積極的に直面する問題解決に取り組むことが人材育成の大前提である。
 いま世界中の企業が最も注目し、力を注いで競争を展開している場が中国国内市場である。中国で勝てない企業は世界で勝てないと言われている。その中国市場における競争で、内向き、無気力の幹部が多い企業は通用しない。
 現在は尖閣諸島問題を巡って日中関係が悪化しているが、今後も中長期的には日中両国の協調発展が日本経済再生のエンジンとなることは変わらない。日本の若者が中国市場でも自分の頭で考え、自ら主体的・積極的に実践に取り組み、成果を上げて、日本経済再生をリードしていくことを強く期待している。


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