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2012.09.06

危機管理-原子力事故後重要な情報交換

電気新聞「グローバルアイ」2012年8月29日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 今月は、スポーツにおけるグローバル化の象徴―オリンピック競技をテレビ報道を通じ満喫したが、グローバルに競い合うことがいかに素晴らしく、かつまた難しいかを教えてくれた。また"ギープニーマルスアウフ(あきらめない)"と、卓球やサッカーで奮闘した日本選手に感激したドイツの友人がメールをくれた。筆者自身は何もしていないのに一日本人として誇りに思った次第だ。

 このように今月も海外から多数のメールを頂いたが、筆者が国会の事故調査委員会・協力調査員を務めたが故に、その中に原子力関連のメールも交じっていた。"日本国民が原子力を信用しない理由は、その技術的先進性や経済的効率性ではなく、 安全対策に向けた疑念だろ、ジュン?"と。確かに、世界原子力協会(WNA)の統計を見るまでもなく原子力に対する世界の期待は薄らいでいない。また原子力依存度がいかなる水準になっても、現存の発電所を勘案すれば技術と政策は今後とも向上・強化する必要がある。


 原子力事故に関し筆者の関心事項は情報交換だ。筆者が驚愕したのは、スリーマイル島(TMI)事故後の「ケメニー報告」、更には国際原子力機関(IAEA)発行の「ブルテン」や「放射線緊急事態への初期対応者の手引き」を読了した時だ。こうした資料の中に「フクシマ」に関する教訓が既に数多く記されていたのだ。例えば、①注意すべきは設備ではなく原子力を管理する作業員と事業者、それに規制監督官庁の"マインドセット(思い込み)"であること②過去の教訓が活かされず、現場作業員が訓練不足だったこと③防災計画・訓練の良否が減災の成否を決めること④情報提供における当局の拙劣さこそがパニック・不信感を惹起する原因であること⑤原子力事故はマスコミの眼から逃れることが不可能で、対応としてはマスコミの長所・短所を理解した上で、逆にマスコミをいかに利用するかを考えること―以上5点だ。

 情報交換は「情報が必要なのは誰か?」という視点から3つに大別される。①災害時に専門的助言を求める指導者を対象とするナレッジ・コミュニケーション②被災地に居て避難情報・災害情報を求める人を対象としたリスク・コミュニケーション③原子力事故が恐ろしいが故に情報を求め続ける内外世論と、世論に左右される政治的地位の高い人を対象としたマスコミ―だ。留意事項として、③は政治的・社会的影響力が大きい一方、調査報道を除き正確性や先見性に関して期待できず、②は確実性・適時性・明瞭性が一義的に求められ、そして①は適時性・専門性が要求されるが、そこには大きな障害―指導者が専門的知識を効率良く活用できない問題--が存在する点が挙げられる。


 今後はこの3種類の情報交換の特質を理解した上で、危機管理における情報の流れを洗練する必要がある。特に①のトップ・レベルの情報処理は重要だ。これに関しハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のロヒット・デシュパンデ教授は、指導者が専門知識を理解したと錯覚する事や、知的敏捷性を欠く指導者に対し専門家が進言するのを忌避する事から生じる「知識の拒絶」問題を指摘している。

 原子力事故に関し世界の人々、特に若い世代と後世の日本人に対する責任を負う我々は、多様な専門知識を学際的に斟酌し、安全対策を不断の努力で高度化しなければならない。筆者は何通ものメールを交換した後、ドイツの友人に返事を送った。"日本はあきらめないよ!"と。

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