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2011.12.01

日本の産業空洞化~中国市場でのシェア拡大で防げ

電気新聞「グローバルアイ」 2011年11月30日掲載

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 円高の進行により生産拠点を海外にシフトさせる動きが増加し、産業空洞化を懸念する声が強まっている。しかし、欧米経済の停滞長期化が予想される状況下、当面円高を防ぐことは難しい。ではこのまま産業空洞化の進行を黙って見ているしかないのだろうか。否。実は有効な対策がある。それは円高を利用した対外直接投資の増大により、海外市場でのシェアを拡大することである。

 一般に海外販売比率が70~80%に達している企業は日本を代表する優良企業であり、そうした企業は日本での生産、雇用、設備投資も着実に増加させている。日本企業の技術力は中小企業を含めて世界最高水準であり、日本でしか生産できない高付加価値製品も多い。こうした高付加価値製品の売上げは日本国内市場に頼っていては高い伸びを期待できない。世界市場で大きなシェアを確保して初めて高い伸びの実現が可能となる。円高でドルベースの価格が上昇しても、海外では生産できない高付加価値製品の需要は衰えない。したがって、最も有効な円高対策はそうした製品を生み出す世界最高水準の技術力を維持・向上させ、それらを必要とする市場でシェアを拡大することである。すなわち、中国への直接投資を拡大し、中国での市場シェアを拡大することである。

 中国のGDP(名目、ドルベース)は2020年までに米国を上回り世界一となる可能性が高い。10年時点で中国のGDPは米国の4割に過ぎなかったことを考えれば、これから10年の間に中国国内で米国の60%に相当する市場が新たに生まれるということである。もしその中国市場での競争において日本企業が欧米、韓国・台湾企業に負ければ、10年後は日本市場が中国に進出した外国企業によって席巻されるのは明らかである。逆に、日本企業が中国市場で大きなシェアを確保して収益が伸びれば、その収益を活用して国内の研究開発投資を拡大し、新技術・新製品を生み出すことができる。新製品の生産に伴い日本国内の設備投資や雇用も増大する。そして日本市場を守ることができる。すなわち、攻撃が最大の防御である。

 日本企業はテレビ、携帯電話等、かつて日本のお家芸だったエレクトロニクス家電の分野でも海外からの輸入品に国内シェアを奪われている。これは韓国、中国等の周辺国が技術力を急速に向上させてきていることによるものである。このままでは日本企業の地位は低下の一途を辿る。それを防ぐには優秀な人材を多数投入し、これまで以上に研究開発に注力し、新製品を生み出す努力を継続するしかない。そのためには優秀な人材を世界中から集める人件費を含めて、膨大な研究開発投資が必要になる。その費用を賄うためにも巨額の利益を生み出す中国市場でシェア拡大を図っていくことが重要である。かつてトヨタ自動車は紡織で中国市場から収益を得て、研究開発を行い自動織機市場に参入した。さらに自動織機を中国市場で拡販して利益を稼ぎ、新たな研究開発投資により自動車市場に参入した。これが中国市場を活用した日本企業の発展サイクルの典型的な成功例である。最近ではコマツ、ダイキン等もこの路線を辿っている。今後も続く円高下の日本企業にとって最大のチャンスは中国市場を活用して、この発展サイクルを回すことである。その動きを促進するためのインフラ整備、税制、規制緩和等を推進することこそ、いま日本政府が取り組むべき最も有効な産業空洞化対策である。

【2011年11月30日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】

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