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2011.08.25

急速な動きに後れをとる日本企業

電気新聞「グローバルアイ」 2011年8月24日掲載

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 最近の中国国内市場の変化は急速かつ大幅であり、リーマンショック以前に中国ビジネスの第一線で得た知識や経験の多くがすでに役に立たなくなっている。日本を代表する大企業においてすら、経営トップや中国担当以外の幹部役員がその認識不足を理解していないため、中国市場の変化に即応した全社的意思決定が遅れ、大きなビジネスチャンスを逃しているケースが多い。
 たとえば、数年前の上海や北京でブランド品を持っている中国人がいれば、その多くは偽物だった。しかし今や8割が本物であると言われている。また、以前の中国では店頭で価格交渉をして値切って買うのが常識だった。しかし、最近の10代から20代の若年層は一般的に値切る行為はみっともないと思うようになってきている。
 日本企業の経営に直接かかわる部分でもかつての常識が通じなくなっている。以前は中国人の給与水準は日本人駐在員に比べてはるかに低かった。しかし、今やホワイトカラーの平均的な給与水準は日本人駐在員の半分程度まで追い付いてきている。今後5年間で中国人の賃金は約2倍になると見られることから、5年後には平均的なホワイトカラーの給与水準が日本国内と同レベルとなる。中堅幹部優秀層ではすでに給与の逆転が現実のものとなっており、日本人の一部には日本企業から給与水準の高い中資系や外資系への転職の動きが見られ始めている。今後5年以内に、日本企業でも日本人駐在員の引き抜きを防ぐため、中国語が堪能で優秀な日本人駐在員には給与を上乗せする時代が来ると考えられる。
 以上のように、中国では以前では考えられなかったことが次々と起きている。この速い変化の中で的確にビジネスを展開していくには逐一本部の指示を仰いで意思決定をしていては間に合わない。本部から権限移譲を受けて迅速に意思決定を行い、急速に変化する市場ニーズをタイムリーに捉えて大胆に行動することが必要となる。
 そのために求められる人材は、現場に足を運んで自分の頭で深く考え、困難に直面してもぶれない軸を持ち、リスクを冒してチャレンジする勇気を備え、簡単にはあきらめない人物である。これは人事部のモノサシで優秀とみなされる優等生タイプの人材ではないため、人事部がそうした適材を適所に配することは期待できない。そうした適材を選べたとしても、それだけでは十分ではない。その上司には、前途有為な部下に大きなビジネスチャンスを与え、自らの判断で自由に動く裁量を許し、失敗した場合には上司自らが責任を取る覚悟で背中を押すといった親分肌の真のリーダーが必要である。リスク回避を重んじる傾向が強い大企業ではこうした親分肌のリーダーもまた少ないのが実情である。
 そう考えると、むしろ中国市場で成功するチャンスは立派な経営者が率いて前途有為な中堅幹部にチャレンジさせる、中堅・中小企業の方が大きいように思われる。日本の歴史を振り返れば、かつてパナソニックやソニーが中堅・中小企業から大企業へと発展した時代に最も日本経済の活力がみなぎっていた。これからの中国市場で日本の中堅・中小企業が大胆にチャレンジを重ね、大企業へと発展を遂げれば、それが日本経済にとって最大の牽引車となる。そうした活力あふれる中堅・中小企業の出現を期待したい。大企業でも30代後半から40代前半の適材に子会社の経営を任せ、彼らが中国ビジネスに大胆にチャレンジするようになれば新たな突破口となろう。


【2011年8月24日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】

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