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2011.06.17

福島事故通して感じる内外格差

電気新聞「グローバルアイ」2011年6月15日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 原子力事故で明らかになったことの一つに、一国のイメージは国の内外で大きく異なるという点が挙げられる。どの国の人間も、自国に関するイメージが国の内外で概ね同じだと思っている。が、国境を超えたコミュニケーションが容易になったグローバル時代でも、それは必ずしも正しくない。特に原子力事故は内外イメージ格差が顕著に表れた。なぜなら、国際政治レベルから地域社会レベルに至るまで、また専門家の純粋理論から作業員の現場感覚に至るまで多様な次元で論じられているからだ。かくして筆者は国内の論点とは乖離した質問を時折受け、日本の内外イメージ格差を体感している。

 ハーバードには21世紀のアジアを語り合う「アジア・ヴィジョン21(AV21)」という会合がある。様々な分野の専門家・実務家が集い、胸襟を開いた対話を通じてアジア太平洋諸国の内外イメージ格差を解消し、アジアの将来を冷静にかつ多元的に論じる民間レベルの努力の一つだ。AV21の特徴は、議題や発言者に関する解説の時間は一切省略され、最初から突っ込んだ議論だけに時間が割かれて、オフレコで対話が進行する点だ。 4月末のAV21では、予想通り原子力事故に関して様々な視点から討議された。今回の日本人出席者は、青木保元文化庁長官、アジア開発銀行研究所の河合正弘所長、日本エネルギー経済研究所の十市勉専務理事、香田洋二元海将、筆者の5人。鋭い発言で存在感のある堀井昭成元日銀理事や政策研究大学院大学の黒川清教授、そして急に欠席を余儀なくされた林芳正参議院議員が不参加だったのが残念であった。が、本学のジョセフ・ナイ教授やエズラ・ヴォーゲル教授、ビジネス・スクールのニティン・ノーリア校長、さらには国際通貨基金(IMF)のアルヴィン・ヴィルマニ理事等と行う多元的な議論は、日米中等各国の内外イメージ格差を認識・克服する重要な手掛りを与えてくれた。
 当然のことだが、外国の研究者・実務家が福島の事故に関する基礎的知識を持っているとは限らない。AV21でも、諸兄姉が聞けば当惑するような質問が、参加者の間に漂う親近感と信頼故に数多く飛び出していた。ある参加者が筆者に「フクシマとヒロシマは、ボストンとニューヨークと同程度の位置関係なのか、ジュン?」と聞いた時、その人が日本の近況に疎く、フクシマという地名を今回初めて聞いたことを知った。確かに、中国・インド間に存在する安全保障問題や暗雲漂う国際金融動向に関して毎日精神を集中している専門家・実務家に対しては、フクシマを初めて知ることが許されるであろう。が、ここで留意すべき点は、原子力事故の持つ政治経済的な多元性故に、彼らにできるだけ正確な情報を短時間に伝達する我々日本人の責任である。特にAV21で、放射性汚染水の海洋投棄に関し事前通告がなかったことを中韓両国の専門家が厳しく非難している時、日本側の正確かつ正当な理由説明の必要性を感じた次第である。

 現在、日本は震災復興を実現し、科学技術の分野でグローバル・リーダーシップを一段と発揮する機会に直面している。このため対外発信に関し、真摯な姿勢と明瞭な言葉で臨むことが枢要であると考える。が、これは対外発信に止まる訳ではない。国内の良識ある一般市民に対しても信頼を醸成すべき言葉と行動が求められている。かくして正確な情報公開と多元的な対話を内外で行うことこそ、日本の内外イメージ格差解消の第一歩となることは間違いない。

【2011年6月15日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】

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