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2011.04.13

試される日本の制度設計能力

電気新聞「グローバルアイ」2011年4月6日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 今回の大地震で自然は我々に豊かな恵みのみならず壊滅的な破壊をもたらすことを痛感し、人間は謙虚な姿勢で自然に接すべきことを思い知らされた。そして今、再建シナリオを詳細に検討する前に、筆者は日本人の美徳と日本の将来について思いを巡らしている。

 今回の大地震は、日本国民の美徳-冷静さや思いやり、また自己犠牲や勇気-を顕現させ、世界中の人々の心を熱くさせた。また福島原発や被災地での献身的な日本人の姿勢を知った世界の人々は賞賛を惜しまない。日本の姿がインターネット等を通じて瞬時に世界中に伝えられた結果、日本人の美徳に対する尊敬の念が日毎に高まったことをここハーバードでも実感できる。
 核科学を専門とするマサチューセッツ工科大学(MIT)のリチャード・レスター教授は、「日本の核危機」と題する会合の冒頭で、多くの聴衆に向かいMITと日本との長くまた深い関係を熱い言葉で語り、義捐金への協力を促して下さった。危機管理を専門とするハーバード大学のダッチ・レナード教授は、「危機にある日本」と題する会合の冒頭、「今我々は皆日本人だ」と危機感を共有する精神の大切さを聴衆に語られた。そして「未曾有の大地震に対し、悲劇的ではあるが日本だからこそ被害をあの程度に止めたのであり、我々は日本から多くのことを学ぶべきだ」と語られた。ハーバードでの会合では筆者もパネリストとして参加したが、会合が終った後に米国と中国の人が援助の仕方を教えてもらいたいと筆者を尋ねて来た時には目頭が熱くなった。まことに狭い筆者の経験からではあるが、米国東海岸の人々が見せた日本に対するこの想いは、危機の際に日本人が示した美徳を源としていることに間違いはない。
 しかし、日本人の美徳だけに頼っていては日本再建は望めないのも事実だ。一部の人々に負担が偏った形で、すなわち特定の人々の自己犠牲だけでは日本再建への道は険しいものとなる。したがって我々の課題は、今回の大地震を「禍転じて福と為」し、「後世の日本人に豊かで安全な国土を残すような仕組みを考え直す」ことなのだ。この意味で日本のエネルギー政策も安全性の観点から再考する時を迎えている。そして今まさに日本の制度設計能力が試されている。しかもこの再考という作業を特定の組織や個人に対する責任追及に終らせると不毛なものになってしまう。したがって我々は①政府・組織・企業がいかなる権限や能力そしてインセンティブを持つのかを再考し、②特定の組織に権限・利権・負担が集中しないためのチェック・アンド・バランスを再設計し、③危機管理におけるリーダーシップのあり方、そして混乱を最小限に止めるコミュニケーションに関し、冷静に議論する必要がある。

 放射能は目に見えない。見えないがゆえに外国人に離日を促すと共に訪日を躊躇させ、さらにはドイツのメルケル首相に選挙での敗北をもたらした。放射線に関し専門家はシーベルト、グレイ、ベクレルという単位で語る。が、筆者を含む素人にはそれらが何を意味するのか、全くと言ってよいほど実感が湧かない。見えないがゆえに、また理解出来ないがゆえに恐怖心や不信感が増大する。この外国人の恐怖心を再び安心感に戻すことができるかどうか。桜咲く春や紅葉舞う秋の日本にビジネスや観光に来てもらえるかどうか。それは日本のエネルギー政策の信頼性回復如何にかかっている。世界が注目する中、今まさに日本の制度設計に関する創造力が試されようとしている。

【2011年4月6日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】

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