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2011.03.03

警戒ラインギリギリの物価上昇

電気新聞「グローバルアイ」 2011年3月2日掲載

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 中国の1月の消費者物価上昇率は前年比4.9%だった。中国政府のマクロ経済政策関係者の消費者物価上昇率に対する見方をわかりやすく言えば、1~3%は良好、3~5%は要注意、5~10%はイエローカード、10%以上はレッドカードと考えられている。1月の4.9%は警戒ラインぎりぎりである。

 足許の物価上昇の主な原因は、干ばつ、冷害といった天候要因である。物価押し上げ要因が天候要因だけであれば、物価が安定を回復するのは時間の問題であり、それほど心配する必要ない。しかし、先行きについては天候要因以外に様々な物価押し上げ要因が予想されている。第一に、大幅な賃上げである。昨年12月以降に発表された主要都市の最低賃金引き上げ幅は、北京市21%、重慶市28%、江蘇省18%、広東省18~19%と、軒並み2割前後に達している。これは貧富の格差縮小のための国家の重要政策であるため、今後他地域でも大幅な引上げが実施されるはずである。第二に、インフラ建設を中心とする投資の拡大である。今年は第12次5カ年計画の初年度に当たるため、大規模プロジェクトの着工が集中する。加えて好景気を映じて民間設備投資も好調だ。第三に、農産物価格の上昇である。農民の減少、肥料・農薬・農業機械等農業関連コストの上昇、物流コストの上昇などが農産物価格を押し上げる。そして第四に、原油、大豆等国際商品市況の上昇も加わる。
 こうしたインフレ圧力との戦いのヤマは今年の前半である。すでに中国人民銀行は1月末以降、銀行貸出の抑制や利上げなどを通じて金融引き締めを強化してきている。これらに加えて、預金準備率の引上げ、人民元レートの切上げ等の施策を総動員して、今年前半のうちにインフレ率を3~4%以下に抑え込むことができるかどうかが安定的な高度成長持続のカギとなる。現在の中国経済をとりまく様々な物価押し上げ要因を考慮すると、その実現は容易ではない。

 さらにここへきて、中東諸国の政治的混乱という予期せぬ不安材料が加わった。インフレが進行すると国民からの不満が急速に高まる。これがその他の社会問題と組み合わさると国民の不満が爆発する。中東諸国ではそれが政治的混乱を引き起こした。これは中国にとって他人事ではない。中東諸国の政治的混乱の背景は、一人の独裁者による長期支配、軍隊の反政府化、経済の長期停滞などであるが、中国にそうした問題はない。中国共産党の指導者は定期的に交代しており、共産党が主導する国家統治システムは中東諸国に比べて強固である。軍隊が反政府政治勢力となる可能性は低いうえ、経済は高度成長を謳歌している。こうした点を見る限り、現在の中国で中東諸国のような混乱が拡大することは考えにくい。ただし、中国国民の多くが貧富の格差、不動産価格の高騰、役人の不正・腐敗、食品価格の高騰等に強い不満を持っている点は中東の状況に類似している。また、エジプトでこうした混乱が急拡大することは直前まで殆ど誰も予想していなかった。急拡大を引起したのはツイッターやインターネットである。中国政府はそうした通信手段に対して統制を強化しているが、これを完全に抑え込むことは不可能である。そうした状況下でインフレ圧力が高まることは大きな不安材料である。以上のような中東情勢の影響を考慮すれば、中国政府にとって今年のインフレとの戦いの緊張感はこれまで以上に高いと思われる。

【2011年3月2日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】

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