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2011.02.17

海外情報の収集

電気新聞「グローバルアイ」2011年2月2日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

目的にかなった正確な海外情報をタイミング良く得られるどうか、またその海外情報を適切に生かすことができるかどうかが一国の繁栄を大きく左右する。これに関し或る本から引用する--「日本が生きる道は、海外との貿易を通じてしかありえないことを、すべての人は観念的には認めている。しかし、それがいかに困難なものであり、いかに大きな努力を必要とするかを、われわれは意識していない」、「商社に入る人々が、見知らぬ土地に出かけて行って市場を開拓するのを嫌い、国内でのデスクワークを好むようになったらどうなるであろうか」。これは最近の本からの引用ではなく、45年前に出版された高坂正堯教授の『海洋国家日本の構想』からだ。同書はハーバードでの研究生活を終えたばかりの高坂教授が綴った論文を纏めたものだ。教授が当時本学国防研究プログラムのディレクターであったヘンリー・キッシンジャー教授らとどんな対話をしたのか興味はつきないが、教授の言葉は平成日本にとっても新鮮で、その先見性と洞察力には舌を巻く。

グローバル時代の海外情報収集には聞き慣れない言葉かも知れないが、①深浅、②遅速、③広狭に対する鋭い感覚が要求される。

①深浅とは専門性の深さに対する感覚だ。いかなる分野であれ名人は名人だけが見抜くことができる。翻って素人は世評が定まるまで名人の凄さは判らない。日本のノーベル賞受賞者が、海外で評価され、受賞するまでは日本国内でまったく注目されず、逆に受賞後は「神格化」される現象が、名人と素人との判別能力の大きな差を物語っている。

②遅速とはスピード感覚だ。情報をタイミング良く得るには、あらかじめ明確な目的意識を持ち「情報の海」の中から必要とされる情報を素早く嗅ぎ分ける能力が要求される。しかも、いかなる分野の名人といえども単独では最先端の情報を常に得ることが不可能だ。前述した高坂教授もキッシンジャー教授やスタンレー・ホフマン教授ら超一流の本学研究者との対話を体験したからこそ、鋭い視点に磨きがかかり、45年後の日本にとっても示唆に富む論点を残せることができたのだ。当時の日本はアジア初のオリンピックを東京で開催する予定で現在の中国同様2桁成長で発展をしていた。その日本からの訪問者である高坂教授に対し本学研究者は鋭い質問を投げかけたに違いない。かくして教授は超一流の人的ネットワークを通じ、優れた情報を素早く得ていたのだ。

③情報の広狭とは世界情勢を俯瞰する能力だ。歴史は遡るが、戦前、近衛文麿首相をはじめナチス・ドイツの破竹の勢いに惑わされた人々に満ちた日本の中で、帝国海軍の米内光政・山本五十六・井上成美の3提督は日独防共協定に猛反対した。ヒトラー総統の『我が闘争』を競って読んだ日本人の多くは邦訳に頼ったが、それは日本を蔑視した部分が意識的に削除されていた。こうしたなか米内は原書のドイツ語版でそして井上は英語版で読んでいたが故にドイツが信用できないことを悟っていたのだ。また米内は訪英で、山本はハーバードへの留学で、また井上はイタリア駐在武官として、独伊両国そして米英両国の長所・短所を知悉していたからこそ、当時の国際情勢を正確に俯瞰できたのだ。

グローバリゼーションが深化するなか日本は平和と繁栄をいかに実現するのか。それは深浅・遅速・広狭の3点に関し卓抜する情報収集能力とそうして得られた情報に基づく果断なる実践能力にかかっている。

【2011年2月2日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】

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