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2010.05.12

第4次対中投資ブームの到来と中国ビジネスの新たな課題(2)

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 2005年以降中国の経済発展方式が輸出投資主導から内需主導へと転換が進む中、経済成長をリー ドする主役は沿海部から内陸部へと移ってきている。沿海部では人民元切上げ、賃金上昇、輸出優遇税制削減等の影響を受けて、加工貿易型企業の業績が低迷 し、それに世界金融危機が追い打ちをかけた。一方、内陸部では国際的な資源価格の高騰を背景に、鉄鉱石、石炭等の資源に恵まれた地域の所得が増大し、高い 経済成長を達成した。

 この間、中国政府は交通物流関連を中心にインフラ建設を進めており、沿海部の珠江デル タ、長江デルタ、環渤海経済圏の3大産業集積地は主に内陸方向への広域化と域内緊密化が進んでいる。それに加えて2009年から2010年初にかけて国務 院から新たに批准された2桁に達する産業集積地のうち約半分が内陸部に位置している。こうした内陸部での産業集積の形成拡大を背景に、内陸部で雇用機会が 増大しつつあるほか、都市人口の増大に伴う農産物需要の増大が農業収入を増加させている。こうしたインフラ建設により促進される産業集積形成が内陸部の市 場を拡大させる傾向は今後長期にわたって持続すると考えられている。

 このような内陸部における雇用機会の増大や農業収入の増大に加え、沿海部の住宅価格、 生活費が内陸部に比べてはるかに高いこともあって、農民工(出稼ぎ農民)が沿海部に出稼ぎに行くインセンティブが低下してきている。その結果、沿海部にお ける農民工が減少し沿海部の労働需給が逼迫し、沿海部の賃金や労働力確保のための福利厚生コストが上昇している。併せて本年入り後、沿海部で最低賃金の上 昇が相次いだことから、沿海部の投資環境が一段と悪化した。

 以上のような状況変化により、低賃金労働力を必要とする中資系および香港・台湾系の加工組立て型企業は沿海部で採算が悪化したため、比較的低賃金の労働力が確保しやすい内陸部へとシフトする動きが広がってきている。

 もっとも日本企業については現時点において生産拠点を内陸部に移転するケースは殆ど見られていない。沿海部における賃金上昇は合理化・省力化投資により生 産効率を引上げることにより吸収しているケースが一般的である。しかし、先行きを展望すれば今後も引続き長期にわたり、内陸部が内需拡大の牽引役となり中 国の経済成長をリードする図式は変わらないと考えられる。このため、日本企業も内陸部における販路拡大のために販売網の拡充を検討せざるを得なくなりつつ ある。一部にはすでに内陸部において販路を保有している香港・台湾企業の買収を検討している例も見られ始めている。

 そうした展開の中で日本企業は新たな課題に直面している (1)。 自動車、家電、金融等中国の地場企業との競合が厳しい産業において内陸部の市場を獲得するには従来の日本企業の製品・サービスではスペック(品質)と価格 が高過ぎる。そこで過剰スペックを内陸の市場ニーズに合わせて削ぎ落とし、コストダウンによる大幅な値下げを実現することが求められる。これは高級品を開 発し続けてきた日本企業にとって、以下の新たな課題に対する大きなチャレンジとなる。

 第1は、世界の一流企業として最低限の品質を維持しながら中国企業と競争できる価格を実現するための新たな技術開発である。現在の日本企業には下請け企業を含めて中品質低価格の製品を製造する技術は殆どないと見られており、そのハードルは高い。

 第2は、世界の一流品という日本企業の製品・サービスのブランド価値を落とさずに低価 格品を拡販する販売戦略の構築である。これについては、本体企業による低価格品の直接販売を避けるため、中国企業の買収等によるサブブランドの構築が検討 されている。これは日本企業にとって未知の分野への挑戦であり、この戦略に失敗すると親ブランドのイメージにも大きな悪影響が及ぶため、各社にとって悩み のタネとなっている。

 以上のように日本企業が新たに直面している課題は難題である。しかし、この問題を克服しなければ、内陸部を中心とする中国の市場拡大の波に乗って販売を拡大することができない。中国市場で一定のシェアを確保するには、避けて通ることのできない重い課題である。

(1)この点については前回の中国出張報告「今年の中国経済は9%成長を達成する 見通し 〜 投資とともに消費が内需拡大の主役に 〜」(当研究所ホームページ、2010年2月24日掲載分)の「4.日本の対中直接投資の積極化と内陸市場での拡販努力」(p.9)最後のパラグラフでも ごく簡単に述べた。

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