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2010.02.24

今年の中国経済の注目点は消費と物価

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 中国の昨年の成長率(1月21日発表)は8.7%と、直前の大方の予想(8.5%程度)を上回る伸びに達した。昨年は金融危機を背景に世界経済が急速に減速する猛烈な逆風の中で、中国政府は成長率8%の確保を政策運営の最優先課題とし、それを達成した。

 今年の状況は昨年と大きく異なり、中国のマクロ経済はすでに概ね正常な状態に回復して いる。消費者物価上昇率も昨年2月以降前年比マイナスが続いていたが、11月以降プラスに転じ、今後も緩やかな上昇が続くと見込まれている。しかし、中国 のマクロ政策関係者は年後半の世界経済のダウンサイドリスクを意識して先行きに対する不安を払拭しきれていない。このため今年の政策運営は成長率確保とイ ンフレ期待の抑制の両にらみである。


 今年の中国経済の注目点は消費動向である。今年の経済政策運営の基本方針は昨年12月 5日から7日にかけて開催された中央経済工作会議で決定された。その中で経済構造調整の目標として、労働分配率の向上と低所得層の消費能力の引上げが掲げ られている。その実現を促すファクターとして以下の4つの変化が予想される。

 第1に、農業生産の構造調整と農産物価格の引上げによる農民の所得増大である。中国で は目下中小都市の発展に注力しているが、これが周辺農家にとって相対的に採算のいい肉や野菜の需要増大につながる。さらに今年は穀物類の最低買付け価格の 引上げが上記の基本方針として掲げられていることから、ある程度農産物全体の価格上昇も期待できる。これらが相俟って農民の所得増大をもたらす。昨年来農 民の消費拡大を背景に農村部におけるショッピングセンターの建設が増大しているが、今年もその傾向が続くものと予想される。

 第2に、今年も引続き内陸部におけるインフラ建設が進み、交通・運輸の利便性が向上する。これが様々なレベルの都市を拡大させ、企業誘致・工場建設を促進し、内陸部において新たな雇用機会を創出する。これが周辺地域の農民労働力を吸収するとともに、農村の都市化を促す。

 第3に、上記2つの変化は、内陸部の農民がわざわざ沿海部に出稼ぎに行くインセンティ ブを低下させる。このため沿海部では「農民工」と呼ばれる出稼ぎ農民が減少し、低賃金労働力の需給が逼迫する。その結果、沿海都市部の低所得層の賃金が上 昇する。昨年中から労働需給の逼迫は生じていたが、それが賃金上昇を招く事例は少なかった。しかし、本年入り後沿海部の都市において「農民工」の賃金が上 昇しているという話が増えてきている。

 第4に、政府の労働分配率引上げ方針に従って、1月下旬、江蘇省、上海等で約2年ぶりに最低賃金の引上げが相次いで発表された(注)。今後この動きが各地に広がっていくと予想されている。

(注)江蘇省は蘇州、無錫等の主要都市で2月から約13%引上げ(850元/月→960元/月)<1月23日発表>、上海市は本年4月から約15%引上げ(960元/月→1100元/月)<1月31日発表>。


 以上の消費押上げ要因は一方で、農民や都市部低所得者層を中心とする所得の増大による 需要拡大、農産物価格の上昇、賃金上昇によるコストプッシュなどインフレ促進要因でもある。幸い足許は世界経済減速の影響で原油価格は安定し、豊作続きの ため穀物価格も落ち着いている。したがって、本年前半まではインフレ警戒ラインである消費者物価上昇率4%の範囲内に収まると見られている。しかし、昨年 前半の銀行貸出の極端な伸びによって過剰供給されたマネーはまだ十分に吸収されておらず、市場にはインフレの火種が残っている。これをうまくコントロール し、消費者物価や不動産価格・株価等の上昇を防ぐことが今年の重要な政策課題である。したがって、今年は金融緩和政策による景気刺激は控えめにする一方、 財政政策に力点を置いた政策運営が行われるものと考えられる。

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