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2009.10.01

日本が世界に対して発信する価値について

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

1.日本が重んじる価値を世界に発信することの意味

 9月16日、民主党・鳩山政権が誕生した。民主党は官僚依存体質から脱却し政治家主導の政策運営を目指すことを強調している。これは本来あるべき国家運営の姿である。政策運営の大きな方向性は政治家が判断し決定する。それを粛々と執行するのが行政官の機能である。

 政策運営の大方針を決める場合には、まず日本をどういう国にすることを目指すのかという、国のかたちに関するビジョンが示されるべきである。日本は長らくそうした国家ビジョンや日本として世界に発信する価値を明確な形で示していない。これでは外国人にとって日本がどういう国であるのかがわかりにくい。わかりにくい相手とは相互理解を深めることも難しい。

 米国であれば「自由・平等・繁栄」、中国であれば「以人為本、和諧社会、科学的発展観」といったように国家として重んじる価値が世界中の多くの人により認知されている。それは両国がその価値を世界に向けて発信し続けている努力の成果である。最近日本がこのような形でわかりやすく世界に発信している価値はない。今後日本がより主体的かつ積極的に外交を展開するには、日本はどんな国を目指し、世界で何を実現しようとしているのかをわかりやすく伝える努力が必要である。それが明らかな形で示されれば、国際社会において日本に対する理解を得やすくなる。

 それと同時に、日米関係や日中関係においても相手国から日本に対する信頼を高める基礎となる。米国はブッシュ政権の下で日本との協力関係をさらに強化するための具体的な中身を模索しようとしたが、日本が何を目指そうとしていることがはっきりしなかったため、その努力が実を結ばなかったと見られている。日本が何をしたいのかをより明確に示せば、日米両国の間で具体的な協力が行いやすくなると考えられる。

2.日本としての価値発信に関する1つのアイデア=「和」の概念

 そこで、日本が世界に対して発信する価値について考えてみたい。

 昨年9月のリーマンショックを機に、世界各国はほぼ同時に急速な景気後退に陥った。その深刻さは 1929年の世界大恐慌以来と言われている。しかし、その後の各国の政策対応をみると、当時と現在とでは大きな違いがある。それは国際的な政策協調が迅速かつ緊密に行われるようになり、より深刻な経済危機のリスクを防ぐことができるようになったことである。仮に今回、1929年当時と同じ程度の政策協力しか行われていなければ、その悪影響ははるかに大きなものとなっていたはずである。そのほかの分野でも、地球環境問題への対応、自由貿易を促進するWTOの枠組み、地震・津波等の自然災害発生時の国際救援協力など様々な国際協力の枠組みが機能している。

 こうした国際協力が可能となった背景には、交通・通信技術の発達に伴うコミュニケーションの緊密化が国際的な情報共有と相互理解を促進したことが大きく寄与している。これはグローバリゼーションがもたらした不可逆的変化である。グローバリゼーションにはプラスマイナス両面があるが、国際協力の成果はプラス面の代表例である。

 グローバリゼーションをどう活かすかは国際社会のプレーヤーである各国の姿勢次第である。プラス面をより多く引き出すための前提として必要な条件は各国の相互理解に基づく相互信頼、すなわち「和」の存在である。日本は古来、7世紀初頭に聖徳太子が起草した十七条憲法の第一条として「和をもって貴しとなす」が重視されて以来現在に至るまで、この価値を大切にしてきている。オバマ大統領が生まれ育ったハワイの「アロハスピリット」も、胡錦濤政権が掲げる「和諧社会」も、そして鳩山総理が唱える「友愛」も、ある意味ではみな「和」に通じる。

 日本人が古来重んじ続けてきた価値であり、国際的な政策協力実現の前提条件である「和」の概念を日本が世界に発信する意味は大きい。日本が「和」を重んじる姿勢を世界に発信することを通じて、グローバリゼーションのプラス面を引き出し、日本らしい形でわかりやすく世界に貢献することを期待したい。

 以上に関連して、日本が世界に対して明確な形で価値を発信していないことが日米間の協力のあり方に与えた影響等については、「米国出張報告」の「1.オバマ政権のアジア外交」をご覧ください。本出張報告は、そのほかに米国の有識者から見た中国の現状および将来リスクに対する評価等の内容を含んでいます。

米国出張報告PDF:241.1 KB

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