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2009.09.01

中国経済の成長率に関する2つの視点

  • 瀬口 清之
  • 研究主幹
    瀬口 清之
  • [研究分野]
    中国経済・日米中関係

 7月16日に中国の主要経済指標が公表されたが、その翌週に北京と上海に出張し、親しい友人のエコノミストなどと意見交換をした。その中で中国経済の回復軌道の力強さを感じる以下の2つの視点が印象的であった。

1.短期的な視点

 中国の本年第2四半期のGDP成長率は7.9%だった。これは大方の予想を上回る数字だった。4〜5月頃には昨年の第4四半期(GDP成長率6.8%)、本年第1四半期(6.1%)に続いて、第2四半期も3期連続で6%台の成長率に留まるのではないかと見るエコノミストも多かった。また、鉄鋼の在庫増加等を眺め、一旦回復しかけた景気が失速して二番底を打つのではないかといった見方まであった。そんな中、6月下旬の人民日報に、国家統計局のエコノミストの予測では第2四半期の成長率が8%に近づく見通しであるとの記事が掲載され、成長率予想が上方修正された。このため、公式統計公表直前の段階での市場予想と比べれば、今回の7.9%という数字はそれほど大きな乖離はなかった。しかし、人民日報の記事が掲載される以前の予想に比べると予想を大きく上回る数字だった。

 中国政府のマクロ経済政策関係者もこの7.9%という数字が発表されるまでは、今年の成長率は7%台と予測していたが、この数字を見て8%台に乗ることはほぼ間違いないと見通しを上方修正したそうである。同時に日頃は冷静かつ慎重な言い方をするエコノミストが、「先行き2〜3年は中国が高度成長を維持することについて微塵も疑いを持っていない」と強気の見通しを述べていたのが印象的だった。

 昨年9月のリーマンショック以降の世界金融危機の下、中国政府はいわゆる「4兆元」の景気刺激策に加え、極端に貸出しを伸ばす金融緩和政策により景気の下支えを行ってきた。中国にとっては1978年の改革開放後、初めて経験する甚大なマイナスのインパクトだっただけに、それらの景気刺激策がどの程度有効であるのか不安が大きかったはずである。その不安から抜け出す出口がやっと見え始めて一安心しているというのが現在のマクロ経済政策担当者の心境であるように感じられた。

2.長期的な視点

 中国政府関係者に「中国が社会の安定を保つためには最低限何%以上の成長率が必要だと思うか」と質問すると、昨年までは7%という答えが返ってきた。今回の出張時に同じ質問をしたところ、「5%以下になると危ない」との答えが返ってきた。昨年に比べて最終防衛ラインが2%下がったことになる。

 中国経済はこれまで長期にわたり猛烈な勢いで拡大を続けてきていたため、企業は生産効率や経営効率を考えるよりもまずは生産・販売能力の拡大や新しく伸びる市場の発見に力点を置いてきていた。ところが、昨年の世界金融危機以降、中国経済も強い逆風を受け、とくに輸出加工型企業は軒並み厳しい業績に追い込まれ、多くの企業が倒産した。その厳しい情勢下で企業は生き残りをかけて大胆なリストラによる生産合理化・経営効率の向上に注力した。その結果として企業の収益力が向上し、以前より低い成長率の下でもある程度の収益を確保し雇用を維持できる企業が増加した。それが中国経済の安定を保つために必要な最低成長率の低下につながったと考えられる。これは中国が無理をせずに安定的に成長できる余地が広がったことを意味する。これまでの中国経済は安定的な雇用の維持に必要と考えられていた8%成長を確保するために景気刺激策を実施し、それが景気過熱やバブルの形成をもたらすという副作用を生みやすい構造であった。今後はそこまで無理をして景気を刺激しなくても雇用の安定を確保できる体質に変化してきているということである。これは長期的に中国経済の安定性が向上しつつあることを意味する。

 以上のように、中国経済は現時点において、短期的には世界金融危機がもたらす景気停滞をほぼ克服したと同時に、長期的には安定的な成長基盤を確保しつつある。中国経済は中長期的には他にもいくつかの大きなリスクを内包しているが、とりあえず足許の課題はほぼ克服できたと見ていいと思う。

 以上に関して、もう少し詳しい内容は、「中国経済は本年の逆風下でも8%成長の確保がほぼ確実」〜上海・北京現地取材報告〜をご覧ください。

「中国経済は本年の逆風下でも8%成長の確保がほぼ確実」〜上海・北京現地取材報告〜PDF:241.9 KB

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