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2018.08.02

社会保障給付費に関する厚労省の将来推計は過大だ

CLINIC BAMBOO 2018年8月号掲載

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

 6月に自民党本部で意見陳述する機会をいただいた。厚生労働省と財務省も同席しており、まず厚労省が骨太の方針の前提である2040年度までの社会保障給付費の将来推計を説明した。しかし、40年度時点で社会保障給付費が190兆円(うち医療・介護給付費約94兆円)という数字は、財政再建を議論する際のベースとするには不適切である。

 厚労省も弁明しているように、将来推計は一定の前提条件を置いて積算するものであるから前提条件の置き方で変化する。しかし、今回の推計が前提にした諸条件の間には全体としての整合性がなく、仮に名目GDP成長率が政府の期待どおり高くなったとしても190兆円は過大と思われる。

 医療と介護は人件費率が高いため、その給付費の将来推計は物価上昇率だけでなく賃金上昇率に大きな影響を受ける。は、190兆円の前提条件となった経済指標である。特徴は、名目経済成長率が過去の実績より高く設定されていることに加えて、賃金上昇率を27年までは名目経済成長率と同じ、28年から40年までは名目経済成長率を0.9%~1.2%上回ると設定していることにある。一方、06年~16年の10年間の年平均実績値は、名目経済成長率0.19%、消費者物価上昇率0.29%、賃金上昇率0.07%である。08年のリーマンショックによるマイナス成長の影響を取り除いた09年~16年でみても、それぞれ1.32%、0.45%、0.45%である。

 私は、議員の方々に対して、医療提供体制の効率化が急務であり、そのためには厚労省が所轄している国立病院、労災病院、地域医療機能推進機構病院の地域統合も必須であると説明した。すると議員から厚労省に対して「地域医療連携推進法人を推進している厚労省が直轄する3グループ病院の地域統合を進めていないのはなぜか」との質問が飛んだ。厚労省の回答は「わかりません。日本の場合、地域医療連携が進まないのは民間医療法人が多いのが理由・・・」であった。また私は、安倍政権の未来投資戦略の目玉の一つであるPHR(患者が電子診療録を携帯する仕組み)構想は実現できないと解説した。情報共有プラットホーム事業体として医療機関ではなくITベンダーなどの株式会社を想定しているからである。改革の方向が正しくても具体策が的を外せば画餅に終わると言わざるを得ない。


表 社会保障の将来見通しの前提条件
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出所:内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」平成30年5月21日

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