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2018.03.08

日本農業を壊すのは自由貿易ではない

農業と経済(2018年4月号掲載)

1.TPPを悪用した農業界

 TPP交渉に参加するかどうかを巡って国論は二分された。反対論の本質は"アメリカ怖い病"だった。投資企業が進出先の国を訴えることができるというISDS条項によって国家の主権が侵されるなどの根拠もない主張が、通商政策や国際経済法の基本的知識も持たない経済評論家といわれる人たちによって唱えられ、アメリカに恐怖感を持つ人たちにアピールした。関税撤廃による価格低下を恐れた農業界はこれを利用し、千百万人以上のTPP反対署名を集めた。

 3年も不毛な議論を続け2013年にようやくTPP交渉に参加したが、国会の農林水産委員会は、米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の農産物5項目を関税撤廃の例外とし、できない場合は脱退も辞さないと決議し、政府を拘束した。一部を除きこれら品目の関税は削減もされなかった。削減される38.5%の牛肉関税も16年かけて9%にするだけである。しかも38.5%の関税を撤廃してもおつりがくるほどの円安が進行している。円安等による輸入牛肉の価格上昇を受けて、国産の牛肉価格も、2008年から2012年にかけての倍近い価格に上昇している。関税がなくても何の心配もない。

 6兆百億円のガット・ウルグァイ・ラウンド農業対策と同様、影響もないのに高額のTPP対策が講じられる。極めつけは畜産対策である。

 牛肉自由化対策として開始された子牛農家に対する不足払いは、「枝肉価格が下がると、肉牛の肥育農家は子牛の価格を下げる。子牛農家の経営が厳しくなるので、保証価格と市場価格との差を子牛農家に不足払いしよう」という趣旨だった。この対策があれば肉牛の肥育農家への対策は必要ないはずなのに、農畜産業振興機構の助成事業を活用して肥育農家にも補てん金を出すマルキンがこっそり行われてきた。今回農林水産省と農林族議員は、このやってはいけない対策を拡充したうえで法制化した。高い子牛価格で子牛農家が受ける不当な高利潤はそのままにして、子牛価格による肥育農家のコスト上昇を理由にマルキンが講じられる。

 バター、脱脂粉乳の輸入枠拡大を理由に、自由化とは関係ない生クリーム等向け生乳も加工原料乳不足払いの対象に加える。バター等から生クリーム等への液状乳製品に転換するなら、バター等は対象から外すべきだ。

 日EU自由貿易協定でもチーズ対策を講じる。輸入が増えて国産チーズ価格を引き下げざるを得ないのであれば、チーズの原料となる生乳の価格を下げなければならないのに、昨年末ホクレンは逆にチーズ向け乳価を4~5円(一割程度)引き上げた。これは昨年私が指摘したように自由化の影響がないことをホクレンも乳業メーカーも認識しているからだ。TPPでも日EU自由貿易協定でも、焼け太ったのは農林水産省畜産部である。



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