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2017.05.25

AIと農業

日本政策金融公庫 AFCフォーラム2017年5月号に掲載

 暗い話が多かった農業に明るい未来が語られるようになった。ITやAIの技術を使って農業を大きな成長産業に変えられるのだというのだ。しかし、過去にはバイオテクノロジーや植物工場に熱狂したものの、農林水産省や大学などの研究者の仕事をつくっただけで、それほどは農業の振興に役立たなかった経験がある。農業のごく一部にしか適用できなかったり、経済性を考慮しないで、技術の可能性だけを追い求めたりしたからである。

 AI農業とは、熟練農家本人すら自覚していない「暗黙知」を「見える化」し、「匠の技」の継承をITで支援するのだという。しかし、技術体系が変化してしまえば、過去の匠の技は無意味となる。現在の機械化された農業では若い農業者の方が匠であったりする。園芸農業でもセンサーやロボットが活躍する時代に昭和の匠の技の有効性があるのだろうか。 もちろん、これまでの生産技術の開発と異なり、情報の流れや分析を取り扱うITやAI技術は農業のシステム全体の改善をもたらす可能性がある。市場価格などの情報や、気象、土壌、病害虫の発生などの生産関連情報を基に、当該農家の収益を極大化できるような適切な農産物の選択と、その生産方法を、これら相互の関連を考慮しながら同時に決定できるようになるかもしれない。このような複雑な意思決定にこそAIは有効であり、それには質量共に多くの情報が必要となる。

 一年一作の米では、匠と言われる人でも一生に40回程度しか米作の経験はできない。しかし、40人の農家を集めると、一年で40回分の米作を経験できる。一人のデータよりも100人、1,000人のデータの方が役に立つ。ビッグデータである。ただし、各企業がまちまちにデータを取っても、大きなものとはならない。

 企業にデータを独占させないで誰もがアクセスできるオープンなビッグデータをどうやって構築するのか。データ収集・分析などIT技術を使いこなす能力や労力を持たない農家や法人をいかにしてサポートしていくのか。課題も多いがこれらを解決することによって、ITやAI技術は、日本農業の発展に貢献できるのではないだろうか。



山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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