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2017.02.21

農業労働問題の抜本的解決策

『週刊農林』第2306号(2月5日)掲載

 前号で、現在議論されている農業労働問題の本質は、低い農業収益にあると論じた。秋田県の大潟村では、後継者がいなくて農業が崩壊するなどという問題は生じないからである。むしろ農業収益が高すぎて、後継者だけでは労働力が不足し、より多くの雇用を求めているのが実態である。


二つの農業

 さらに詳しく論じよう。農家戸数のうち主として農業で生計を立てている主業農家は28万戸で、農家戸数(216万戸)のわずか13%(販売農家の22%)に過ぎない。(2016年、農林水産省「農林業センサス」)。


主副業農家の割合

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 (出所) 農林水産省「農業構造動態調査」
 (注) ・主業農家とは、農業所得が主で、調査期日前1年間に自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいる農家。
     ・準主業農家とは、農外所得が主で、調査期日前1年間に自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいる農家。
     ・副業的農家とは、調査期日前1年間に自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいない農家。

 売上高に相当する農業総産出額は、2015年には8.8兆円とピーク時1984年の11兆7千億円から約4分の1減少している。農業労働が作りだした所得は2015年には1.6兆円で、これを農業就業人口で割ると、一人あたりの年間所得は83万円に過ぎない。(農林水産省「生産農業所得統計」)

 減少が著しいのが米である。農業総産出額に占める米の割合は、1960年ころはまだ5割もあったのに、2010年には、とうとう20%を切ってしまった。米の構造改革は進まなかった。日本農業の最大の問題は、販売農家のうち79%が販売目的で米を作付しているにもかかわらず、米の販売金額は農産物全体の販売金額のうち17%しかない(2015年)ことだ。これは米農業が多数の零細農家によって営まれている非効率な産業であることを示している。

 農業の類型別に、農業所得を低い方から順に並べてみると、日本農業の特徴がさらによくわかる。水田作(米)28万円、果樹189万円、野菜257万円、肉牛354万円、花き563万円、ブロイラー826万円、酪農833万円、養豚1,416万円の順である。もちろん、年間28万円の水田作所得で水田農家の生計が成り立つはずがない。農外所得(兼業収入)164万円と年金収入220万円があるので、水田農家の所得は412万円である。米を作っているのは、サラリーマン(兼業農家)や年金生活者である。これに対して、野菜農家から養豚農家までは、農業所得が農家所得の半分以上を占めており、平均的な農家は主業農家である。

 農業には二つの種類があると言ってよい。米などの土地を多く利用する産業と野菜や畜産など土地をそれほど使わない産業である。日本の農業についてみると、前者の農業の衰退が著しく、後者の農業が比較的健闘していることである。米作農家の農業所得はほとんどないのに対して、それ以外の農業では農業所得は大きい。一人あたりの年間農業所得が83万円に過ぎないのは、米に大量の農業従事者がいて、これが農業の平均所得を押し下げているからである。


異なる農業労働問題

 この二つの種類の農業ごとに、農業労働問題は異なる。平均的な水田作では、自家労働に対しても日本人としての通常の労働報酬は払えない。農を生業としているとはいえない趣味的・片手間的な耕作に過ぎないので、農業で生計を立てようとする若い世代の参入は行われない。60歳以上のサラリーマンを定年退職した人が実家の農業を継いでいるのが実態である。農業への新規参入者の半分が60歳以上であることは、このような形態での水田農業への参入が多いことを示している。つまり、平均的な水田作では、高齢者しか新規参入できない。そのような新規参入者もいない農家では、水田作を廃業するしかない。

 また、現在耕作している農家も、1ヘクタール規模の水田作では、必要な年間労働日数は30日程度なので、外国人労働者も含め、追加的に雇用したいという需要はない。水田作では労働は過剰なのである。

 水田作については、農家戸数を減少させることである。図が示す通り、都府県の平均的な農家である1ヘクタール未満の農家が農業から得ている所得は、トントンかマイナスである。秋田県大潟村の平均農家規模は20ヘクタール以上である。米価が大きく低下した2014年においても、夏場の稲作だけで1,000万円以上の所得があるので、農家の子弟は東京の大学で勉強しても卒業後は大潟村に帰って農業を継ぐ。農業収益が高ければ後継者はできるし高齢化はしない。もちろん耕作放棄も起こらない。これが大潟村が消滅しない理由である。


米の規模別生産費と所得(2014年)

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 (出所) 農林水産省「農業経営統計調査 平成26年 個別経営の営農類型別経営統計」

 1961年農業基本法を作った、経済学者シュンペーターの高弟、東畑精一は、40年前に「営農に依存して生計をたてる人々の数を相対的に減少して日本の農村問題の経済的解決法がある。政治家の心の中に執拗に存在する農本主義の存在こそが農業をして経済的に国の本となしえない理由である」と述べている。この状況は今も変わらない。


水田作の問題解決

 水田作では、農家戸数を減少させて、農家規模を拡大しなければならないのである。都府県の平均的な水田作農家のゼロの農業所得に20戸をかけようが40戸をかけようが、ゼロはゼロである。20ヘクタールの農地がある集落なら、1人の農業者に全ての農地を任せて耕作してもらうと、米価が低下した2014年でも1,100万円の所得を稼いでくれる。この一部を地代として、農地を提供した農家に配分した方が、集落全体の利益になる。地代を受けた人は、その対価として、農業のインフラ整備にあたる農地や水路の維持管理を行う。農村振興のためにも、農業の構造改革が必要なのだ。

 そのために必要な政策は、高米価・減反政策の廃止である。この政策は、零細な農家を滞留させ主業農家の規模拡大を困難にしたばかりか、単収向上も阻害した。総消費量が一定の下で単収が増えれば、米生産に必要な水田面積は縮小し、減反面積が拡大するので、減反補助金が増えてしまう。このため、財政当局は、単収向上を農林水産省に厳に禁じた。1970年の減反開始後、政府の研究機関にとって単収向上のための品種改良はタブーとなった。今では、日本の米単収はカリフォルニア米より、4割も低い。50年前は日本の半分に過ぎなかった中国にも追いつかれてしまった。日本でも、ある民間企業がカリフォルニア米を上回る収量の品種を開発し、一部の主業農家はこれを栽培している。しかし、多数の兼業農家に苗を供給する農協は、生産が増えて米価が低下することを恐れ、この品種を採用しようとはしない。減反廃止でカリフォルニア並みの単収の品種を採用すれば、コストは4割削減できる。規模拡大と単収向上で、稲作の平均コストは5~6割低減でき、所得の大幅な向上が期待できる。


山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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