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2016.12.16

牛乳の規制緩和でバター不足が解消されるのか?

WEBRONZA に掲載(2016年12月2日付)

今回の規制改革で何が問題となったのか

 今回政府の規制改革で農協と並んで争点となったのが、牛乳の規制緩和である。これについても、多くのマスコミ関係者から、これで生乳の生産は拡大しますか、バター不足は解消しますか、という質問を受けた。

 まず、何が問題となったのだろうか?

 生乳の価格は、飲用向け生乳、バター、脱脂粉乳等に向けられる〝加工原料乳〟、チーズ向け生乳、生クリーム等向け生乳などの用途に応じて異なる価格が付けられている。一物一価ではなく、用途によって異なる価格が付けられる一物多価である。これを用途別乳価という。

 このうち加工原料乳については、ブロック単位(北海道、東北、関東等)で指定される農協の連合会(〝指定団体〟という)を通じて生産者が販売するときに限り、政府から補給金(補助金)が交付される。95%の酪農家が、指定団体を通じて生乳を販売している。

 規制改革会議は、生産者が多様な消費者ニーズに対応できるよう、指定団体を通じないでも生乳の販売ができるようにすべきである。このため、指定団体以外の農協等を通じて販売した場合でも、加工原料乳の補給金が出せるようにすべきであると提案した。

 これに対して、酪農団体や農林水産省は、現在指定団体を通じて行っている生乳の需給調整(〝計画生産〟という)が損なわれると反論した。結局、生産者や農協等は、飲用乳、加工原料乳の年間の販売計画及び販売実績を国に報告することを条件に、規制改革会議の提案は認められることになった。これは本来加工原料乳として流通するべき生乳が飲用向けに流れて、飲用向け乳価が下がらないようにしようというものだろう。



指定団体制度とは?

 まず、加工原料乳の補給金制度、これを実施するための指定団体制度ができたのは1966年で、生乳の計画生産(需給調整)を開始したのは1979年であり、両者の間に制度的な連携はない。

 また、今は生乳が足りない状況で生産制限をするような時ではない。そもそも、なぜ酪農にだけ、特定の農協を通じてしか売れないという指定団体制度ができたのだろうか?

 生乳は一物多価制度となっているが、用途が異なるだけで、生乳自体に違いがあるわけではない。酪農家からすれば、自分が生産した生乳が、飲用牛乳向けに処理されるのか、加工原料乳向けに処理されるのか、あるいは、どのような比率で飲用牛乳向け、加工原料乳向けとなるのか、まったくわからない。たまたま飲用牛乳向けに処理された農家が高い乳代をもらい、加工原料乳向けに処理された農家が低い乳代しかもらえないのでは不公平である。

 このため、指定団体が、飲用牛乳向け、加工原料乳向けに販売して受け取った乳代と、加工原料乳の数量に応じて政府から受け取った補給金を合算して、これを全乳量で割ることで、1キロ当たりの乳価を決定し、これに各酪農家の乳量をかけて、酪農家に支払うこととした。これを〝プール乳価〟という。

 つまり、指定団体制度は一物多価制度の下で、生産者の取り扱いが不平等にならないようプール乳価を実現するために導入されたものである。一物多価制度でなかった1966年以前はプール乳価も指定団体制度もなかった。どの用途でも単一の乳価だったのである。



何が起きるのか?

 今回の規制緩和でどのようなことが起きるのだろうか?

 都府県の生乳はほとんどが飲用向けで加工原料乳は少ない。したがって、効果があるのは加工原料乳向け比率の高い北海道である。北海道ではホクレンという強力な農協連合会が生乳の流通をコントロールしている。ここで第二指定団体ができるとどうなるのだろうか。

 仮に、飲用向けと加工原料乳(他の乳製品向けを含む)向けの比率が、ホクレンで現在と同じ1:6、参入したばかりの第二指定団体が6:1だったとしよう。飲用向け乳価のほうが補給金を含めても加工原料乳価格よりも高いので、プール乳価は第二指定団体の方が高くなる。生産者はホクレンよりも乳価の高い第二指定団体に販売するようになるだろう。

 いずれ第二指定団体の加工原料乳の比重が高まり、プール乳価がホクレンと第二指定団体で均衡するまで、この動きは続くことになる。つまり、ホクレンの独占性が崩れることになる。

 これ自体は画期的な出来事である。しかし、北海道全体で飲用向けと加工原料乳の比率が変わらない(飲用向けが増大しない)限り、最終的なプール乳価は変化しない。プール乳価が上昇すれば、酪農の生乳生産が拡大し、バター不足が解消するかもしれないが、それは第二指定団体がホクレンよりも乳業メーカーに有利に生乳を販売をするという保証がない限り、論理的には期待できない。



抜本的な改革とは?

 では、生乳生産の増大につながるような抜本的な改革とは、どのようなものだろうか?

 今後、人口減少時代を迎え、国内の食用需要が減少する中で、北海道を含め、日本の酪農が目指す道は、世界特にアジアの飲用需要である。用途別乳価は加工原料乳価を安く、飲用乳価を高く設定することで、飲用需要を減少させる。アジアの市場を目指すのであれば、品質面での優位性だけではなく、価格競争力も持たなければならない。

 バターや脱脂粉乳の国際競争力がいつまでたっても向上しない現状では、用途別乳価と補給金制度を廃止して、オーストラリアが2000年に改革したように、単一乳価制に移行すべきである。これによって加工原料乳の生産を縮小し、飲用向け生乳または飲用牛乳をアジア市場に輸出することを目標とすべきではないだろうか。

 飲用乳価が低下すれば、現在緑茶にとられている国内の飲用需要を奪回できると同時に、輸出も可能となる。単一乳価制の下で、どれだけ飲用牛乳や乳製品を作るかは、乳業メーカーに任せればよい。バターの輸入を制限してきた国家貿易企業(農畜産業振興機構)は廃止して、乳製品の関税も段階的に削減・廃止する。バターが足りなくなり、価格が上昇すれば、自動的に輸入が行われ、価格は低下する。

 乳価低下で酪農家が影響を受けるとすれば、農地面積当たりいくらという直接支払いを交付すればよい。北海道を除いて、現在の酪農はほとんどといってよいほどアメリカ産トウモロコシを飼料として使っている。

 つまり、日本の牛乳はアメリカ産トウモロコシの加工品なのだ。農地面積当たりの直接支払いによって、耕作放棄地は減少し、飼料生産が拡大する。食料自給率は増加する。食料安全保障に必要な農地も確保できる。

 今回の規制緩和が、酪農政策の抜本的な改革の一歩となることを期待したい。



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