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2016.04.28

(書評)ダグラス・ノース 制度原論

日本経済新聞2016年4月10日掲載

 本書は、経済史に関する研究でノーベル経済学賞を受賞したダグラス・ノースの著書(原題の直訳は『経済変化の過程を理解する』)の邦訳である。ノースは、経済史ないし広く経済における制度の役割に光を当て、昨年に亡くなるまで長期にわたって経済史・経済学の制度研究をけん引した。その間、ノース自身の制度に関する考え方も発展してきた。本書は晩年のノースの見解をまとまった形で提示した文献として重要である。

 ノースとロバート・トーマスの共著『西欧世界の勃興』では、制度は事実上、国家による財産権の保護を指していた。そして同書は、西欧で16世紀までに国家による財産権保護が成立した理由を、財と生産要素の相対価格の変化という新古典派経済学的な枠組みで説明した。このような制度と制度変化に関する初期のシンプルな見方に対して、本書の見方は、それを部分的に継承しつつ、格段に複雑で豊かなものとなっている。

 本書では、制度は社会における公式のルールと非公式の規範の全体を指す。かねてノースが述べてきたところであるが、本書ではそれが経済成果に結びつく過程、および制度が変化する過程などで重要な役割を持つ要素として「信念」が強調されている。信念はゲーム理論ではプレーヤーたちが持つ予想を意味し、経済史の制度分析の文脈ではアブナー・グライフがほぼその意味で用いている。本書における信念は、予想を含む、より広い意味だ。ノースは認知科学の知見を導入して、人々を取り巻く環境、特に政治経済システムについて、人々が持つ認識の枠組みと規範的モデルといった意味で信念を用いている。

 この概念によって、本書では様々な興味深い洞察が導かれる。例えば、制度はインセンティブ構造を与えることを通じて経済成果に影響するが、ある制度がどんなインセンティブ構造をもたらすかは各社会の信念の体系に依存する。一方、一つの社会に複数の信念が存在する場合、どのメンバーの信念が重要な意味を持つかを制度が決めるという関係がある。信念の時間的な変化は社会的な学習の蓄積過程であるとされている。

 以上は本書が提示する論点のごく一部にすぎないが、ここからも本書が多くの研究分野の知見の統合の上に、新しい制度研究を構築することを意図した野心的な書物であることがわかるだろう。この分野をリードしてきたノースによる問題提起の書であり、制度研究の新たな出発点となっている。




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  著者:ダグラス・C・ノース
  出版社:東洋経済新報社

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