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2016.04.15

企業はなぜ農地を取得できないのか? 食料安保のための第3次農地改革を

「金融財政ビジネス」 (2016年3月28日号掲載)

 特区による企業の農地所有の要件緩和は、自民党農林族と農林水産省によって逆に厳しい要件が課され、骨抜きにされた。企業の農地所有を認めないという農業界の主張には、自らが農地を転用したいという本音が見え隠れする。しかし、企業による耕作放棄や転用を認めないという理由から、農業界が新たに課した要件を利用して、逆の提案をすることも考えられる。


企業の農地所有めぐる混乱

 一般紙には大きくは報道されなかったが、企業の農地所有をめぐって農業界は大きく揺れ、政府・与党間で激しい攻防が行われた。発端は、現在特区の対象となっている兵庫県養父市が、企業の農地所有の要件緩和を求めたことだった。具体的には、農業生産法人(農地所有できる株式会社)について、現在50%までしか認めていない企業の株式保有制限を撤廃してほしいというものだった。過疎地である養父市では、農業後継者がいないため耕作放棄が後を絶たず、企業に参入してもらうしか農地の保全ができないと主張した。

 これに対し、自民党農林族や農水省は、25%しか認めてこなかったものを昨年度、50%に引き上げたばかりであり、さらなる規制緩和は2019年に行うこととしているとして、猛反対した。過去にも、特区に限定して始まった一般企業に対する農地のリース(貸し付け)が09年、リース形態での企業参入の全面展開につながったという苦い経験がある。農業界は、特区での企業の農地所有が、再びアリの一穴となることを恐れたのだ。

 しかし、国家戦略特区諮問会議の事務局を担当する内閣府は、自民党や農水省などと事前の擦り合わせもなく、これを諮問会議の検討課題としてしまった。これを知った自民党農林族幹部は、1時間にわたり内閣府幹部を怒鳴りまくったという。しかし、このとき既にゼロ回答では済まなくなっていた。安倍晋三首相が、同諮問会議で企業の農地所有を求める養父市を評価し「規制緩和措置とセットで、懸念を払拭するための工夫をすれば、また一歩、改革は進む。まずは特区内で効果を検証していく」と発言したからである。

 これで養父市の提案を認めざるを得なくなった農水省や自民党農林族は、「懸念を払拭するための工夫」という首相発言を足掛かりとして、骨抜きにかかった。まず、対象を養父市だけに限定し、拡大しないようにした。具体的には、特区のうち、農業の担い手が著しく不足し、従来の措置だけでは耕作放棄地が著しく増加するおそれがある自治体を、政令で指定することにしたのだ。また、5年間の時限措置とした。

 それに加えて、養父市での企業の農地所有にも厳しい要件を付けた。企業が農地を取得するときには、まず自治体が農地を買い取った上で、企業に売り渡す。50アール以上の農地を自治体が買い入れる際には、議会の議決が必要となる。都府県の零細な農家規模でさえ50アールを超える規模なので、市長が推進派でも議会が反対すれば、企業の農地所有は不可能となる。また、企業にはなぜリースではなくて農地所有が必要なのかを公表することを義務付ける。

 さらに、企業が農地を荒廃させたと農業委員会が認めれば、企業は自治体に農地の所有権を移転しなければならない。

 つまり、養父市に封じ込めた上で、企業参入の入り口と出口で厳しい要件を課したのである。自民党農林族幹部は「岩盤にドリルで穴を開けたら、また岩盤にぶち当たったようなもの」だと自画自賛したという。安倍首相の顔を立てた上で、骨抜きに成功したのだというのだろう。・・・


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企業はなぜ農地を取得できないのか? 食料安保のための第3次農地改革をPDF:343.9 KB

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