本文へスキップ

2016.03.29

農産物輸出の増加と農業のグローバル化 真の農産物輸出振興策は減反の廃止である

WEBRONZA に掲載(2016年3月9日付)

政府のアプローチは正しい

 各紙が2015年農林水産物・食品の輸出が前年を21%上回る7,452億円となり、3年連続で過去最高を更新したと報じている。

 TPP反対の大運動を展開したように、農業界はグローバル化が嫌いである。しかし、いくら国内市場を高い関税で守ったとしても、国内市場が高齢化と人口減少で縮小する中では、海外市場を開拓しなければ、農業は生き残れない。

 政府が2020年に農林水産物・食品の輸出を1兆円に増やすという目標を掲げているのは、正しいアプローチだ。これは農業に限らない。世界の市場に通用するような財やサービスを提供できれば、国内の人口減少を問題にしなくてもよい。最善の人口減少対策はグローバル化である。

 農業でも、グローバル化を利用して成功した例もある。イギリスに日本では評価の高い大玉を輸出したが評価されず、苦し紛れに日本では評価の低い小玉を送ったところ、やればできるではないかといわれたという、あるリンゴ生産者の話がある。

 これは経営的にも示唆に富む。自然相手の農業では、大玉も小玉もできてしまう。大玉ばかり、小玉ばかり、作るわけにはいかない。しかし、大玉は日本で、小玉はイギリスで販売すれば、売上高を多くすることが可能となる。


農産物の輸出増加を手放しで喜べるか

 しかし、農産物の輸出の増加を手放しで喜んでいいのだろうか?

 まず、近年の輸出の増加は、農産物輸出政策が成功したというよりは、円安で価格競争力が向上したことによるところが多い。

 上記の7,452億円のうち農産物の輸出は4,432億円である。実は、そのかなりが、アメリカやオーストラリア等から輸入した小麦、砂糖、大豆、とうもろこしなど輸入農産物原料を使った加工品(例えば、即席めん)だということだ。

 農産物というイメージからかけ離れているものも含め、国産農産物または一部にそれを使用していると思われる加工品を上げると、果物193億円(うちリンゴ134億円)、タネ151億円、清酒140億円、牛肉110億円、緑茶101億円、野菜・その加工品98億円、豚の皮90億円、酪農品77億円、植木等76億円、米22億円、焼酎16億円くらいであり、これらを合わせると1,074億円、漏れているものを入れても1,500億円程度だろう。8.4兆円の国内農業生産額や6.6兆円の農産物輸入額から比べると、微々たる額だ。

 日本の輸出が倍増しても、国産農産物の輸出が大きく増えるかどうか分からない。一生懸命アメリカ産農産物を日本で加工して、輸出を増やすだけになるかもしれない(実は牛肉も豚の皮もアメリカ産とうもろこしを原料(飼料)とする加工品だ)。


輸出可能性のある国産農産物とは

 輸出可能性のある国産農産物は何か?

 野菜や果物も輸出されているが、日持ちの面で難点があり、多くの量は期待できない。保存がきき、大量の輸出が可能な作物。国内の需要を大幅に上回る生産能力を持つため、生産調整(減反)が行われており、それがなければ大量の生産と輸出が可能な作物。日本が何千年も育ててきた作物で、国際市場でも評価の高い作物。つまり、米なのだ。日本が持つ高品質農産物の代表である、米の輸出を本格的に展開していけば、日本は農業立国として雄飛できる。

 米には、大きくジャポニカ米(短粒種)、インディカ米(長粒種)という種類があるほか、同じ米でも品質に差がある。アメリカは350万トンの輸出を行いながら、高級ジャスミン米を中心にタイなどから80万トンの米を輸入している。日本米の評価は高い。香港では、同じコシヒカリでも日本産はカリフォルニア産の1.6倍、中国産の2.5倍の価格となっている。

 2014年度国産米価はカリフォルニア米を下回った。主食用の無税の輸入枠10万トンは1万2千トンしか輸入されなかった。日本の商社は日本米をカリフォルニアに輸出しようとした。米の関税は撤廃しても競争できると主張する生産者も出てきた。しかも、国産米価は、供給量を減少するという減反政策で維持されている価格である。減反を廃止すれば、価格はさらに下がる。

fig01_yamashita.jpg 逆の方向を向く農業界

 減反廃止で価格が下がっても、財政から直接支払いを行えば、農家は影響を受けない。このとき、所得の高い兼業農家の所得を補償する直接支払いは、国民納税者の納得が得られない。

 減反を廃止して需給が均衡する7千円(60kg当たり)まで米価が下がれば、零細な兼業農家は農地を出してくる。主業農家に限って直接支払いをすれば、その地代負担能力が上がって、農地は主業農家に集積し、コストが下がる。減反で抑えられてきた収量も向上し、消費者は価格低下の利益を受ける。

 国際的にも高い評価を受けている日本の米が、減反廃止と直接支払いによる生産性向上で価格競争力を持つようになると、世界市場を開拓できる。必要な直接支払い額は廃止される減反補助金の半分で済む。

 日本からの輸出価格が1万2千円だとすると、商社が7千円で買い付け輸出に回せば、国内の供給量が減少して価格は1万2千円まで上昇する。1万2千円では国内生産は12百万トン程度に拡大するだろう。このうち国内消費量が8百万トン、輸出が4百万トンになると、コメだけで輸出金額は約8千億円になる。

 しかし、農業界は逆の方を向いている。トヨタやキヤノンなどの輸出産業は、良い製品を作ると同時に、1円でも安く売れるよう、価格競争力向上に日々努力している。それなのに、農林水産省や農協は主食用のコメ生産を懸命に減少させて、米価を上げようとしている。

 真の農産物輸出振興策は減反の廃止である。


同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる