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2016.03.15

日本農業は世界に勝つ

「地方議会人」 (2016年2月号掲載)

はじめに

 地方創生のためにも少子高齢化対策が叫ばれている。しかし、いくら対策を講じても効果が上がるとは思えない。ところが、日本の人口は減少するが、世界の人口は増加する。世界の市場に通用するような財やサービスを提供できれば、国内の人口減少を問題にしなくてもよい。最善の人口減少対策はグローバル化である。

 農業はその典型例である。いくら関税で国内市場を守っても、高齢化と人口減少で、胃袋は縮小する。籠城したくないなら、海外に打って出るしかない。


日本農業のポテンシャル

 日本農業は規模が小さくアメリカやオーストラリアと競争できないので、高い関税が必要だという主張がある。農家一戸当たりの農地面積は、日本を1とすると、EU6、アメリカ75、オーストラリア1309である。

 規模が大きい方がコストは低下する。しかし、規模だけが重要ではない。この主張が正しいのであれば、世界最大の農産物輸出国アメリカもオーストラリアの18分の1なので、競争できないことになるはずである。

 この主張は、土地の肥沃度や気候・風土の違いを、無視している。オーストラリアの農地面積は我が国の90倍もの4億ヘクタールだが、穀物や野菜などの作物を生産できるのは、わずか5千万ヘクタールに過ぎない。それ以外は草しか生えない肥沃度の低いやせた土地で、牛が放牧され、脂肪身の少ない牛肉がハンバーガー用にアメリカに輸出される。これに対して、アメリカ中西部の肥沃なコーン・ベルト地帯では、トウモロコシや大豆が作られ、これを飼料として作られた脂肪身の多い牛肉は、日本などに輸出されている。

 米についても、ジャポニカ米(短粒種)、インディカ米(長粒種)の種類があるほか、同じ米でも品質に差がある。アメリカは350万トンの輸出を行いながら、高級長粒種ジャスミン米を中心にタイなどから80万トンの米を輸入している。日本米の評価は高い。香港では、同じコシヒカリでも日本産はカリフォルニア産の1.6倍、中国産の2.5倍の価格となっている。

 昨年度国産米価はカリフォルニア米を下回った。主食用の無税の輸入枠10万トンは1万2千トンしか輸入されなかった。日本の商社は日本米をカリフォルニアに輸出しようとした。米の関税は撤廃しても競争できると主張する生産者も出てきた。(図1)


図1. 米の価格の比較

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"農政新時代"?

 TPP対策には、"農政新時代"というキャッチフレーズが付けられている。「輸出のため競争力をつけるのだ、農業生産資材の価格を見直すのだ、担い手を育成するのだ」という。しかし、減反・高米価政策、農協政策、農地政策という、これまで農業が発展しようとするのを妨害してきた、三本の柱にはなんら言及されない。農政新時代というなら、旧時代のアンシャン・レジームを破壊しなければならない。それなのに、減反のような旧悪を強化しようとしている。

 トヨタでもキヤノンでも、良い製品を作ると同時に、1円でも安く売れるよう、価格競争力向上に日々努力している。輸出力をつけるというのに、なぜ減反を強化して米価を上げるのだろうか。

 肥料、農薬、飼料、機械、全ての資材価格が、アメリカの倍もする。しかし、肥料で8割、農薬や機械で6割のシェアを持つ巨大な事業体である農協は、独占的な力を利用して、組合員に高い資材価格を押し付けてきた。農協を株式会社化して独占禁止法を適用しようとする改革は、頓挫した。高い資材価格が高い農産物価格を生み、農業の競争力を失わせている現状には、メスは入らない。

 担い手も重要だ。しかし、農家出身者でない若者が、親兄弟、友人に出資してもらい、ベンチャー株式会社を作って、農地を取得しようとしても、農地法が認めない。


日本農業の最大の問題は何か?

 それは、農家の7割が米を作っているのに、農業生産の2割しか生産していないことだ。これは、米農業が零細で非効率な農家によって行われていることを示している。

 2011年家計でのパンの支出が米を上回った。輸入主体の小麦の価格を抑えながら、米価を高く維持してきたために、米消費の減少、パン等麦製品の消費増加を招いてきた。TPP交渉の結果、小麦価格は引き下げられる。他方で、米の供給を減少させ、米価を高く維持する減反政策は強化される。94年に1200万トンあった米の生産は年々減少し、2016年度の生産目標数量は前年度より8万トン減少し743万トンになる。農林水産省も農協も必死になって主食用の米の生産を減少させようとしている。国産の米を不利に扱い、輸入麦の消費を振興するという政策は、強化される。遠くない日に、米の生産目標数量は小麦の消費量670万トンを下回るだろう。


減反廃止

 我が国の農政は、食料安全保障や多面的機能を損なってきた。多面的機能のほとんどは、水資源涵養、洪水防止といった水田の機能である。しかし、減反によって、40年以上も水田を水田として利用しないどころか、食料安全保障や多面的機能に必要な水田を潰してきた。

 所得は、価格に生産量をかけた売上額からコストを引いたものであるから、所得を上げようとすれば、価格または生産量を上げるかコストを下げればよい。しかし、農業資材を安く購入するために農家が作ったはずの農協は、高い資材を農家に押し付けてきた。

 1俵(60kg)あたりの農産物のコストは、1ha 当たりの肥料、農薬、機械などのコストを1ha 当たり何俵とれるかという単収で割ったものだ。規模の大きい農家の米生産費(15ha 以上の規模で実際にかかるコストは1俵あたり7,012 円) は零細な農家(0.5ha 未満の規模で15,201 円)の半分以下である(2014年)。また、単収が倍になれば、コストは半分になる。つまり、規模拡大と単収向上を行えば、コストは下り、所得は上がる。

 図2が示す通り、都府県の平均的な農家である1ヘクタール未満の農家が農業から得ている所得は、トントンかマイナスである。ゼロの農業所得に20戸をかけようが40戸をかけようが、ゼロはゼロである。20ヘクタールの農地がある集落なら、1人の農業者に全ての農地を任せて耕作してもらうと、1,300万円の所得を稼いでくれる。これを地代として、農地を提供した農家に配分した方が、集落全体の利益になる。地代を受けた人は、その対価として、農業のインフラ整備にあたる農地や水路の維持管理を行う。農村振興のためにも、農業の構造改革が必要なのだ。


図2. 米の規模別生産費と所得

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 しかし、高米価・減反政策は、非効率でコストの高い零細な兼業農家を米作に滞留させて、農地が主業農家に貸し出されることを、妨げてきた。主たる収入が農業である主業農家の販売シェアは、野菜では80%、酪農では93%にもなるのに、米だけ38%と極端に低い。

 減反は単収向上も阻害した。総消費量が一定の下で単収が増えれば、米生産に必要な水田面積は縮小し、減反面積が拡大するので、減反補助金が増えてしまう。このため、財政当局は、単収向上を農林水産省に厳に禁じた。今では飛行機で種まきしているカリフォルニアの方が6割も多く、50年前は日本の半分に過ぎなかった中国にも追いつかれてしまった。減反廃止でカリフォルニア並みの単収の品種を採用すれば、それだけでコストは1.6分の1に下がる。規模拡大と単収向上で、稲作の平均コストは5~6割低減できる。(図3)


図3. 各国の単収比較

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 減反廃止で価格が下がっても、財政から直接支払いを行えば、農家は影響を受けない。しかし、所得の高い兼業農家の所得を補償する直接支払いは、国民納税者の納得が得られない。減反を廃止して需給が均衡する7.5千円(60kg当たり)まで米価が下がれば、零細な兼業農家は農地を出して来る。主業農家に限って直接支払いをすれば、その地代負担能力が上がって、農地は主業農家に集積し、コストが下がる。単収も向上し、消費者は価格低下の利益を受ける。国際的にも高い評価を受けている日本の米が、減反廃止と直接支払いによる生産性向上で価格競争力を持つようになると、世界市場を開拓できる。

 日本からの輸出価格が1万2千円だとすると、商社が7.5千円で買い付け輸出に回せば、国内の供給量が減少して価格は1万2千円まで上昇する。7.5千円のときの国内生産量が8百万トンだとすると、1万2千円では12百万トン程度に拡大するだろう。輸出が4百万トンになると、2014年の米輸出量4,516トン輸出金額14億円を考慮すると、輸出金額は約1兆2千億円になる。


第三次農地改革

 農地制度は農業への新たな参入を拒み続けてきた。農地法は、農地改革の成果である自作農(所有者=耕作者)を、維持するだけの立法だった。株式会社の場合には、農地の耕作は従業員が行い、農地の所有は株主に帰属するので、この等号が成立しない。したがって、株式会社の農地所有は、認められない。

 農業に参入したり、規模を拡大していくと、資金が必要になる。しかし、農業と関係のない友人や親戚などから出資してもらい、農地所有も可能な株式会社を作って農業に参入することは、農地法上認められない。このため、新規参入者は銀行などから借り入れるしかないので、失敗すれば借金が残る。農地法によって、農業は資金調達の面でも参入リスクが高い産業となっている。

 株式会社なら失敗しても出資金がなくなるだけである。後継者不足と言いながら、農政はベンチャー株式会社によって意欲のある農業者が参入する道を絶っている。結局、農家の後継者しか農業の後継者になれない。農家の後継ぎが農業に関心を持たなければ、農業の後継者も途絶えてしまう。

 食料安全保障の見地から農地資源を確保するためにも、ヨーロッパのようにゾーニングを徹底すべきだ。そのうえで、企業形態の参入を禁止し、農業後継者の出現を妨げている農地法は、廃止すべきである。これが、シンプルな農地改革である。


自由貿易こそ食料安全保障の基礎

 海外からの農産物輸入が途絶えるときは、輸出していた米を消費して飢えをしのぐ。輸出は食料危機時のためのコストのかからない備蓄の役割を果たす。また、水田をフル活用することで、食料安全保障に不可欠な農地資源を確保できる。人口減少時代には、自由貿易は食料安全保障の基礎となる。多面的機能を十分に発揮できるばかりか、主業農家主体の農業は農薬の節約など環境にも優しくなる。真の農政新時代に期待したい。



山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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