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2015.10.06

TPP交渉 あとはオバマの決断しだい

「週刊世界と日本」に掲載(2015年10月5日)

*本稿は、9月のTPP閣僚会合前に執筆されたものです。

 大方の見方によると、アメリカ議会が連邦政府に通商交渉の権限を与えたTPA(貿易促進権限)法が定めたスケジュールでは、TPPが9月に合意すれば、実質的な大統領選挙が始まる来年2月頃、アメリカ議会によるTPP協定の承認が得られる。それ以降にずれ込むと、選挙がらみの思惑によって、承認は難しくなる。TPAに賛成した共和党の議員も、TPPは民主党政権の成果になるとして、反対する可能性があるからだ。その場合、TPP交渉はオバマ政権の次のアメリカの政権まで漂流する。




 TPP交渉の内容における課題は、7月の閣僚会合で3つに絞られた。

 1つ目は、バイオ医薬品の開発データの保護期間を12年と主張するアメリカと、5年程度を主張する他の国との対立である。 アメリカは、自国の製薬業界の利益のために、長い期間を主張する。他方、その他の国は、安いジェネリック製剤を開発して、できる限り医療費を安く抑えたい。データの保護期間が長くなると、その期間中はジェネリック製剤を開発できなくなるので、できる限り短い期間を主張する。

 2つ目は、自動車の原産地規則である。

 TPP域内産と認定されると、低い関税という優遇措置を受けられる。どの場合に自動車を域内産と認定するかについて、域内で生産された部品の割合を40%と低くして、できるだけ多くの車が優遇措置を受けられるようにしたい日本と、60%程度として多くの部品を域内で生産されたものとしたいカナダやメキシコが対立している。

 3つ目は、ニュージーランドが要求している、乳製品についての大量の無税の輸入枠の設定である。

 無理難題を要求していると甘利大臣から批判されているが、本来TPPは例外なき関税撤廃など、高いレベルの協定を目指していたはずである。それがレベルの低いものとなってしまったのは、日本が農産物について関税撤廃に応じなかったためである。

 また、日米の農産物と自動車の協議の進展を各国とも待っていたので、最後の段階になって無理な要求をするなという日米の批判は当たらない。


 問題は、これらは超えられないハードルなのだろうかという点である。

 自動車の原産地規則については、40%と60%との間で妥協することは容易だろう。乳製品については、理はニュージーランドにあるが、多国間協議の大勢がついた後、大国ではない国が最後まで自己の主張を貫き通すことは、難しい。結局、アメリカがバイオ医薬品の開発データの保護期間について譲歩できるかにかかっている。

 確かに、アメリカの製薬業界の政治力は強力である。強力なロビー活動を行っており、データの保護期間が十分確保できなければTPPに反対すると主張する議員もいる。議会の承認を得たいフロマン米国通商代表は、この点について譲歩できなかった。

 しかし、7年ほどの間、思ったほどの業績をあげられなかったオバマ大統領は、後世に残る政権のレガシー(遺産)作りに必死である。その大きなものがTPPだった。そのためにオバマ政権は、TPA法案が議会で通過できるよう、大統領自らが反対の民主党議員に説得工作をするなど、必死で活動してきた。

 TPP交渉が合意できなければ、議会に提出すらできない。オバマ政権でのTPP成立は不可能となる。なんとしても合意しなければならないとすれば、医薬品のデータ保護期間で譲歩してくるのではないか。そもそも、医療支出を抑えたいオバマ政権は、長いデータの保護期間に反対していた。

 地政学的なイッシュー(問題点)もある。オバマ政権はアジア・太平洋地域の重視政策(大西洋からの政策重点の移動、リバランシング)を打ち出した。

 また、オバマ大統領自身、TPA法案の議会審議の際、「TPPができなければ、中国がアジア・太平洋地域でルールを作ってしまう。それでよいのか」と主張してきた。アメリカには中国が主導するAIIB(アジア・インフラ投資銀行)にイギリスなど多数の同盟国が参加してしまったという、屈辱的な経験があり、TPPが成立しなければ、アジア・太平洋地域でアメリカの影響が格段に低下してしまうというおそれがある。

議会承認が来年に少しくらいずれ込んだとしても、11月の大統領選挙までかなり時間はある。9月が無理でも、年内に妥結すればよいという気持ちになるかもしれない。


 日本にとってTPPのメリットは何なのだろうか?

 WTO(世界貿易機関)の下ではTPP加盟国中4カ国しか解放していない政府調達が、TPP12カ国に拡大されるなどのメリットがある。

 WTO協定よりもより深いルールを作ろうとしている分野、また貿易と環境・労働などWTOが取り上げてこなかった分野もある。

 しかし、日本が農産物の関税維持にこだわったため、アメリカの自動車関税について、韓国車は来年撤廃されるのに、日本車は20年後にしか撤廃されないという、レベルの低いTPPとなってしまった。

 TPP交渉では、日本農業にほとんど影響のないようにしようと、日本政府は交渉しており、実際にもそのような形で合意されるようだ。たとえば、牛肉については、38.5%の現行関税を15年かけて9%に引き下げるという。しかし、為替レートは50%も円安になっており、これによる実質的な影響はほとんどない。それなら国内農業はコスト削減による合理化をする必要はない。

 ないよりはましだろう程度のTPPになってしまった。とても第3の矢の筆頭だと胸を張れるような代物ではない。



山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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