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2015.09.04

地方創生に欠けている大きな視点

『土地総合研究』2015年夏号に掲載

はじめに

 地域の再生・活性化が安倍政権の重要なテーマとなった。東京などの都市圏の繁栄に比べ、地方は人口も減少し、活力がなくなっているという認識なのだろう。また、約1,800の市区町村のうち2040年には896が消滅危機に直面するという「日本創生会議」の試算も、"地域創生"が政治のアジェンダで大きく取り上げられることに、大きなインパクトを与えた。

 確かに、このような問題意識は正しいように思われる。しかし、地域の再生・活性化というテーマは、最近になって脚光を集めたものではない。「国民所得倍増計画」が都市と地方の格差の是正を取り上げたのが1960年。最初の過疎法である「過疎地域対策緊急措置法」が10年の時限立法として制定されたのが1970年。農村地域工業導入促進法が制定されたのが1971年。このテーマは、半世紀以上も政治のアジェンダに載り続けている。ということは、数々の施策を講じながら、いまだに解決できていないということである。

 しかし、我々が地域の再生・活性化という課題に失敗したのだろうかというと、そうではない。中国では、都市と農村の一人当たり所得格差が3倍以上に拡がっているという「三農問題」が内政上の最重要課題になっている。都市や工業の発展を図るために、農業に課税したり、農産物価格を抑制して食料品価格を抑え労働費を安くしたりするなど、農業搾取政策をとってきた。中国では、経済成長を優先し、格差の是正に無関心だった。そのつけが今の政権に回ってきている。格差の是正は、中国だけではなくベトナムなど途上国では、大きな問題である。

 これに対して、我が国では、高度成長期、いわゆる"三種の神器"の普及率は都市部と農村部で数ポイントの違いしかなかった。自動車の普及率については、むしろ農村部が都市部を上回った。農村は豊かになった。中国のような大きな格差は、日本には存在しない。2016年1月、私は、中国の国家発展改革委員会で日本が採った都市と地方の格差是正政策について講演したところ、日本の政策を研究したいという発言が出るなど、注目された。ベトナムの政策担当者は、日本の農村振興政策を真剣に勉強している。大分県の一村一品運動はタイなどで普及している。格差の是正や地域振興という点では、日本はある程度成功してきたといえる。

 それなのに、このテーマが依然として政治のアジェンダに残り、さらに政治的なテーマとしてはより大きくなっているということは、過去に華々しい成果を挙げてきたこれまでの手法が通用しない状況に、我々が直面しているからに他ならない。これまでと異なった状況が出現し、我々は、それに対応できる地域の再生・活性化政策をいまだに持っていないのである。では、その新しい状況とは何か?従来の政策が対応できない理由は何か?"地域創生"は可能なのだろうか?我々は、何をなすべきなのだろうか?諸外国で参考になりそうな取り組み例はないだろうか?これが本稿で取り組もうとする課題・テーマである。

 政府の"まち・ひと・しごと創生基本方針"にもこれまでと異なる新しい視点も見られるが、残念ながら各省の政策を束ねた総花的なものとなっており、また、実際に町や村の衰退に歯止めをかけようとする自治体職員や地方住民の目からすれば、何をすればよいのか具体性に乏しいように見られる。時代の大きなうねり、流れの中で、検討すべき大きな視点が欠けているように思われる。

 それ以前に、地域創生は本当に必要なのかという問題についても、我々は議論しておく必要がある。筆者は、農林水産省の地域振興課長として、1998年から2000年まで地域振興に携わってきた。この間、中山間地域等直接支払い制度の設計・創設・実施に当たった。また、農村振興局次長として農林水産省を退官した後も、府県の農村地域振興政策に関与し、地域の現場も歩いた。地方出身者として、郷里に帰れば、友人たちから、郷里のいろいろな話を聞かされる。過去の政策経験や地方の現場から、これまでの地域の再生・活性化政策を振り返るとき、地方の人たちが望んでいない、必要でないことをやってきたのではないかという反省がある。


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