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2015.08.18

TPP交渉は漂流しない、8月に合意する-二つに絞られた課題と米国のアジア・太平洋戦略-

WEBRONZA に掲載(2015年8月4日付)

 今回の閣僚会合でTPP交渉は実質的な妥結に至らなかった。8月に会合が予定されているが、ここまで会合を重ねて合意できなかったことが、短期間のうちに合意できるとは考えられないという予想が大半のようだ。

 また、アメリカ議会が連邦政府に通商交渉の権限を与えたTPA(貿易促進権限)法が定めたスケジュールからすれば、8月に合意したとしても、アメリカ議会によるTPP協定の承認は、大統領選挙が予定されている来年にずれ込むことになる。その場合、民主、共和両党の選挙がらみの思惑によって、承認を得ることは困難になる。

 TPAに賛成した共和党の議員も、TPPは民主党のオバマ政権の成果になるとして、反対する可能性があるからだ。TPP交渉に参加している各国とも、このような状況は認識しているので、8月にまとめようとはしない。その場合、TPP交渉は、オバマ政権の次のアメリカの政権が通商交渉の方針を確立するまで、再スタートしなくなる。つまり、TPP交渉は漂流することになる。

 確かに、TPP閣僚会合に参加した人たちを取材していると、そのような結論になりそうである。

 しかし、今回の閣僚会合で、残された課題は二つに絞られた。

 一つは、バイオ医薬品の開発データの保護期間を12年と主張するアメリカと5年程度を主張する他の国との対立である。バイオ医薬品に高い技術力を持つアメリカは、自国の製薬業界の利益のために、長い期間を主張する。他方、その他の国は、安いジェネリック製剤を開発して、できる限り医療費を安く抑えたい。データの保護期間が長くなると、その期間中はジェネリック製剤を開発できなくなるので、できる限り短い期間を主張する。日本の製薬業界もバイオ医薬品については、競争力はない。

 もう一つは、ニュージーランドが要求している、乳製品の関税撤廃、または大量の無税の輸入枠の設定である。無理難題を要求していると甘利大臣から批判されているが、本来TPPは例外なき関税撤廃など高いレベルの協定を目指していたはずである。それがレベルの低いものとなってしまったのは、日本が農産物について関税撤廃に応じなかったためである。また、日米の農産物と自動車の協議の進展を各国とも待っていたので、最後の段階になって無理な要求をするなという日米の批判は当たらない。

 問題は、これらは超えられないハードルなのだろうかという点である。乳製品については、確かに理はニュージーランドにあるが、多国間協議で、大勢がついた後、大国ではない国が最後まで自己の主張を貫き通すことは難しい。ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉で、乳製品や鶏肉の関税化(輸入制限を関税に置き換えること)に最後まで抵抗していたカナダも、最後の会合で大使が受け入れを表明した。結局、アメリカがバイオ医薬品の開発データの保護期間について譲歩できるかにかかっていると言ってよい。

 確かに、アメリカの製薬業界の政治力は強力である。強力なロビー活動を行っており、データの保護期間が十分確保できなければTPPに反対すると主張する議員もいる。議会の承認を得たいフロマン通商代表は、この点について譲歩できなかった。TPP閣僚会合を見ていると、アメリカに譲歩の余地はなさそうである。そうなれば、8月会合は意味のないものとなる。

 しかし、TPP閣僚会合に集まった閣僚は、通商担当の閣僚だったということである。かれらの政治的な判断は通商交渉の範囲内のものに過ぎない。アメリカには、より高いレベルの政治判断をする組織が存在する。ホワイト・ハウスである。

 7年ほどの間、思ったほどの業績をあげられなかったオバマ政権は、後世に残る政権のレガシー(遺産)作りに必死である。その大きなものがTPPだった。そのためにオバマ政権は、TPA法案が議会で通過できるよう、大統領自らが反対の民主党議員に説得工作をするなど、必死で活動してきた。

 しかし、TPP交渉が8月に合意できなければ、オバマ政権でのTPP成立は不可能となる。なんとしても、8月に合意しなければならないとすれば、バイオ医薬品の開発データの保護期間で譲歩しなければならない。

 もちろん、これには一部の共和党議員が反対して、議会の承認が得られなくなるおそれがある。しかし、TPP交渉が合意できなければ、議会に提出すらできない。議会に提出さえできれば、後は根回しによって、賛成票を多数獲得できるかもしれない。共和党議員の中でも、農業州出身の議員はバイオ医薬品で譲歩してもTPPには賛成する。「ダメ元」作戦である。そもそも、医療支出を抑えたいオバマ政権は、長いデータの保護期間に反対していた。

 もう一つホワイト・ハウスが考慮するイッシューがある。オバマ政権はアジア・太平洋地域の重視政策(大西洋からの政策重点の移動、リバランシング)を打ち出した。また、オバマ大統領自身、TPA法案の議会審議の際、「TPPができなければ、中国がアジア・太平洋地域でルールを作ってしまう。それでよいのか」と主張してきた。

 これは、単なるレトリックではないだろう。アメリカには中国が主導するAIIBにイギリスなど多数の同盟国が参加してしまったという、屈辱的な経験があり、TPPが成立しなければ、アジア・太平洋地域でアメリカの影響が格段に低下してしまうというおそれがある。

 議会承認が来年に少しくらいずれ込んだとしても、11月の大統領選挙までかなり時間はある。今年の12月ならよくて、来年の1月ならだめだというものではない。

 7月のTPP閣僚会合を受けて、アメリカ政府内部では、フロマン通商代表を超える政治的な判断がなされる可能性がある。その場合、TPP交渉は一気に妥結に向かうだろう。日本にとっても、アメリカの自動車関税は、韓国車は来年撤廃されるのに、日本車は20年後にしか撤廃されないという、レベルの低いTPPとなってしまったが、一部の国での政府調達の開放などのメリットもあるので、ないよりはましだろう。

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