本文へスキップ

2015.08.03

アメリカが求める"コメ輸入の政府保証"とは何か-日本のコメ輸入が国家貿易企業による輸入だという事実-

WEBRONZA に掲載(2015年7月18日付)

 7月16日、ある全国紙が、アメリカが日本のコメ輸入枠に政府保証を求め、日本は買い取りは義務ではないと主張していると報道した。

 分かりやすく説明すると、コメの内外価格差が解消、逆転したので、昨年度10万トンの主食用輸入枠のうち、1.2万トンしか輸入されなかった。消化率12%である。アメリカがコメ輸入枠に政府保証を求めるということは、この場合でも必ず10万トン輸入するよう求めているということである。

 どんな商品でも、国内の価格が100円の時に150円のものは輸入されない。しかし、アメリカは150円でも、つまり高くても、輸入枠の全量を輸入するよう求めているのである。

 輸入枠というのは、関税を払わなくてよいというだけで、それが全量輸入されるという保証付きのものではない。輸入機会の提供であって、確実な輸入の保証ではない。WTOで約束されている各国の輸入枠についても、全量消化されているというのは、稀である。

 しかし、なぜ、このような理不尽な要求をアメリカが行い、それを日本が拒否できなくて、日米交渉の議論の対象となってしまうのだろうか?これが、このスクープ的な報道では、言及されていないところである。

 それは、日本のコメ輸入が国家貿易企業による輸入だからである。コメについては、主食用、あられ・せんべいなどの米菓用、エサ用などに、77万トンの輸入枠(ミニマム・アクセスと呼ばれている)が設定されている(うち主食用が10万トンである)。これはWTOで約束されている輸入枠である。この輸入枠は、農林水産省が国家貿易企業として輸入している。つまり国が77万トンの輸入枠を約束し、国が輸入するのだから、全量国が輸入するのが当然だという理解である。

 93年に妥結したウルグァイ・ラウンド交渉では、関税化の例外措置をコメについて認めさせることが至上命令だった。この際、我々は、国家貿易企業による輸入を「買い取り約束」"purchase commitment"と呼んだ。コメだけではなく、国家貿易企業が輸入する小麦も乳製品も同様であり、輸入枠の全量消化が求められるという理解である。

 これを日本政府は、忠実に守ってきた。昨年度77万トンの輸入枠のうち10万トンの主食用輸入枠は未消化だったが、未消化分は米菓用、エサ用などの輸入を増やし、77万トンの輸入枠は全量消化した。なお、77万トンの輸入枠の半分はアメリカから輸入するという密約があるのではないかと問題視されているが、これはウルグァイ・ラウンド交渉の際に行われた約束ではない。

 アメリカは、同様の約束をTPP交渉で新たに設定する輸入枠についても、求めているのである。もし私が交渉担当者であれば、三つの選択肢のうちいずれかを主張するだろう。

 第一は、国家貿易企業による「買い取り約束」を否定することである。これは文書化された約束ではない。WTOの下での中国の輸入枠の状況を引用すればよい。中国はWTO加入交渉で、輸入枠の半分を国家貿易企業(国有企業)、半分を民間企業が輸入すると、WTOに提出した文書で約束している。しかし、この約束は実施されていない。全量国家貿易企業が輸入することとなっている。

 さらに、国家貿易企業の輸入なのに、買い取り約束どころか、未消化である。アメリカが「買い取り約束」を求めるのなら、「中国に約束の履行をさせてから、日本に要求してこい」と主張すればよい。アメリカの力は落ちている。WTOで約束させたことすら、10年以上も中国に履行させられなかった。

 第二は、国家貿易企業による輸入を廃止することである。これがなくなれば、「買い取り約束」の前提がなくなる。77万トンの輸入枠による輸入も減少するだろう。食管制度等の下で、国家貿易企業による輸入は、輸入数量制限(輸入割当)と一体となって、実施されてきた。

 本来ウルグァイ・ラウンド交渉(コメは遅れて1999年)で輸入数量制限を廃止し、関税化に移行した段階で、国家貿易企業による輸入も廃止すべきだった。これを残したのは、農林水産省の権限や組織の維持のためである。

 第三は、関税を撤廃し、輸入枠自体も廃止することである。輸入枠がない以上、国家貿易企業による輸入もない。コメの関税を撤廃するのだから、アメリカに自動車やその部品の関税も即座に撤廃するよう求めることができる。

 第三が上策、第二が中策、第一が下策である。しかし、政府に、下策すら実現できる交渉力があるのだろうか。心配なところである。

同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる