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2015.06.22

財政が迫る新政治思想

日本経済新聞 「経済教室」2015年6月12日掲載

 6月末に財政健全化計画がいよいよ政府から示される。財政健全化の具体論を評価するに際しての頭の整理のために、財政問題の政治思想的な意義について考えてみたい。

 政治が解決すべき問題は経済学が対象とするものとは性質を異にする場合が多い。政治が対象とする利害対立は、典型的には「救命ボートのジレンマ」の問題である。これは次のような状況を指す。

 何人かの集団が救命ボートに乗って漂流している。ボートは沈み始めており、乗船者のうち1人が退船すれば(すなわち1人が犠牲になれば)ボートは沈没を免れて残りの乗船者は全員が助かる、しかし、もしだれも退船しなければ、沈没して全員が死ぬ。

 一般化していえば、ある集団(ある町、企業、国など)が危機にひんしていて、その中の少数の者が不利益を自発的に甘受する自己犠牲的な行動をとれば、残りの全員が利益を受ける、という状況である。「ある集団の存続のために、一部の人々が犠牲になる必要がある」という事態は政治では頻繁に起きることであるにもかかわらず、経済政策ではうまく解決できない。

 たとえば経済政策が対象とする「囚人のジレンマ」であれば、全員が得をする均衡が存在するので、長期的な取引を導入するなどの工夫次第で全員が最善の行動をとるように経済的利益で誘導できる。しかし「救命ボートのジレンマ」では人々に自己犠牲的な行動をとらせるように経済的利益で誘導はできない。そもそも自己犠牲を払った人の損失を補償できない状況であることが「救命ボートのジレンマ」の定義だからである。・・・


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日本経済新聞 「経済教室」2015年6月12日掲載

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