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2015.05.11

アベノミクス農政改革の総括(最終回)

「週刊農林」2015年4月25日号掲載

農協の組織原理

 本来協同組合は、組合員が自主的に作った組織である。消費者が生協を作り、生協は必要があれば、連合会を作る。ボトム・アップの組織が、協同組合である。しかし、農協は、中央の意向を末端に及ぼすために作った戦時統制団体を、戦後米の集荷のため、衣替えさせたトップ・ダウンの組織である。農協"系統"という言葉に対し、"系統"生協という言葉はない。下(現場)からの運動という協同組合の性格から、このようなヒエラルヒー的な関係がないのは、当然だ。

 協同組合の原則は、利用者である組合員が組合をコントロールするというものだった。この組合とは、地域農協のことである。しかし、地域農協は組合員ではなく、上位の農協連合会によってコントロールされている。農協職員の給料も、末端から、都道府県連合会、全国連合会に行くほど、高くなる。その上、末端の農協の職員は、上位の団体から降ってくるノルマを、一生懸命になってこなしている。

 EUは加盟国が27カ国にものぼり、合意形成は相当困難であると思われるのにもかかわらず、なぜEUでは農政改革が進み、日本では進まないのだろうか。

 それはEUになくて日本にあるものがあるからである。

 農協の政治的・経済的利益が、高い価格維持とリンクしている。このように価格に固執する圧力団体は、EUにもアメリカにも存在しない。どの国にも、農業のために政治活動を行う団体はあるが、その団体が経済活動も行っているのは、日本のJA農協をおいて、他にない。

 農協は農家を守ると主張する。しかし、農協が守ろうとしているのは、組合員である農家の利益というより、農協自体の組織の利益である。

アベノミクスの農協改革

 2014年とうとう、河野一郎も小泉純一郎も果たせなかった、戦後政治における最大の圧力団体である農協の改革が、政治のアジェンダに載った。安倍政権が推進しようとしているTPP交渉の最大の障害である農協の政治力を削ぐ必要があったのだろう。

 2014年5月政府規制改革会議がまとめた農協改革案は、画期的なものだった。

 第一に、農協の政治活動の中心だった全中(全国農業協同組合中央会)や都道府県の中央会に関する規定を農協法から削除する。全中は系統農協などから80億円、都道府県の中央会が徴収するものをいれると300億円超の賦課金を、徴収してきた。 農協法の後ろ盾がなくなれば、全中等は義務的に賦課金を徴収して政治活動を行うことも、強制監査によって傘下の農協を支配することもできなくなる。

 第二に、農産物の販売などを行う全農やホクレンなどの株式会社化である。全農を中心とした農協は、肥料で8割、農薬・農業機械で6割のシェアをもつ巨大な企業体であるのに、協同組合という理由で、全農やホクレンには独占禁止法が適用されてこなかった。さらに、一般の法人が25.5%なのに 19%という安い法人税、固定資産税の免除など、様々な優遇措置が認められてきた。 第三に、准組合員の組合利用を、正組合員の2分の1とする。

 これは、翌月農協の意向を忖度せざるをえない自民党によって、完全に骨抜きされた。しかし、安倍総理はその直後、「中央会は再出発し農協法に基づく現行の中央会制度は存続しない。改革が単なる看板の掛け替えに終わることは決してない」と発言した。

 2014年11月、全中が公表した自己改革案では、地域農協に対する全中の監査権限は維持するとともに、全中などの中央会を農協法に措置することが重要だとした。

 強制監査は、中央の連合会が地域の農協をコントロールする手段として機能した。ボトム・アップ組織の生協には、全国連合会による強制監査などない。また、農協は、株式会社の場合の公認会計士又は監査法人による外部監査は、投資家保護のためであり、組合員を抱える農協では十分ではないというが、生協の外部監査も、公認会計士又は監査法人によるものである。

 安倍総理の意向をていして、自民党農林幹部と全中会長との間で協議が行われた結果、全中に関する規定を農協法から削除し、全中を経団連と同様の一般社団法人とする、地域農協は全中監査と監査法人の監査を選択できるようにする、都道府県の中央会は引き続き農協法で規定する、准組合員の事業規制については見送るという内容で、決着した。

 全中監査を強制監査ではなくしたことで、以前よりも、地域農協の自由度は増すだろう。しかし、全中の政治力は、依然排除されない。全中は一般社団法人に移行するものの、農協法の付則で、JAグループの代表、総合調整機能を担うと位置づけることとした。また、都道府県の中央会は、そのままであり、依然として強制的に賦課金を徴収できる。都道府県の中央会は全中の会員なので、都道府県の中央会が集めた賦課金は従来通り、全中に流れて行く。

 全農等の株式会社化は、全農等の判断に任されることとなった。協同組合であり続けるメリットのほうが大きいので、全農等があえて株式会社化を選ぶとは思えない。

 准組合員の事業規制は、見せ球だった。地域農協や都道府県の組合からすれば、准組合員がいなくなれば、融資先に困ってしまう。准組合員の事業規制を提案したとたん、かれらにとって、准組合員が維持できるのであれば、全中監査などどうでもよいという判断になったのだろう。

 しかし、准組合員の方が多い"農業"協同組合というのは異常である。本来なら、農業協同組合法と地域協同組合法の2法を制定すべきだ。地域組合は、これまでJAが行ってきた信用・共済事業や地域住民への生活資材供給を行う。

 地域協同組合となれば、今のJA農協の正組合員と准組合員の区別はなくなる。准組合員も正組合員になるのである。JA農業部門は、解散するか、新たに作られる農協に移管する。農協は、必要があれば、主業農家が自主的に設立するだろう。それが本来の協同組合である。

 もう一つの道もある。事業者ではないし議決権を持っていない准組合員制度を持っているJA農協は、独占禁止法の適用除外を定めた同法第22条の要件を満たさない。このため、農協法第9条は、農協は独占禁止法第22条の要件を備えるものとみなすと規定して、救済している。農協法第9条を削除さえすれば、准組合員制度を持つ農協や農協連合会に独占禁止法を適用できる。

 農協の正組合員資格は10アール以上である。10アールでの米の販売額は10万円程度で、学生のアルバイト収入より少ない。これで農業を営んでいると言えるのだろうか。農"業"の協同組合である以上、家庭菜園を大きくしたような人たちを組合員として認めることは不適当である。農地規模または販売額のいずれかにおいて、農家平均規模以上または主業農家といえるような農家に組合員資格を限定すべきだろう。

 さらに、海外の農協は、組合員の利用度に応じて組合員に発言権が与えられるという組織に転換しつつある。今のJAでは、主業農家も零細な兼業・高齢農家も、同じく一票の決定権を持つため、少数の主業農家ではなく、農業をやっているとはいえない多数の兼業・高齢農家の意見が、農協の意思決定に反映されてしまう。

 JAが主業農家の規模を拡大するという農業の構造改革に反対してきたのは、このためである。この一人一票制の改革やJAの地域協同組合化など、本質的な部分はまだ提案もされていない。これで、農協改革を終わらせてはならない。

株式会社の農業参入

 農地法の思想はいまでも、所有者=耕作者であるべきだとする自作農主義である。このため、耕作は従業員が行い、所有は株主に帰属するという、株式会社のような農地の所有形態は、法律の原則から認められない。

 新規参入者が友人や親戚などから出資してもらい、農地所有も可能な株式会社を作って農業に参入することは、農地法上認められない。今回半分まで出資が認められることは大きな前進である。抵抗する農協や農業委員会に、その改革を突き付けた農林水産省の作戦勝ちだろう。しかし、依然として、半分は借金などで自分で調達する必要がある。

 後継者不足と言いながら、農政はベンチャー株式会社によって意欲のある農業者が参入する道を絶っている。結局、農家の後継者しか農業の後継者になれない。農家の後継ぎが農業に関心を持たなければ、農業の後継者も途絶えてしまう。

"農政トライアングル"に生じた亀裂

 農林水産省が推進する農協改革に、JA農協は、農林水産省の方針の変節を激しく指摘する等、農林水産省と全面対決の様相を呈している。農林水産省、農協、農林族議員の密接な関係に、大きな亀裂が生じている。今回、農協改革がたとえ期待する成果を上げなかったとしても、農政トライアングルに亀裂を生んだことの意義は大きい。

 我が国の農業は、高米価、農協、農地という制度の鎖につながれてきた。

 そろそろ将来の国民のために、我が国の農業を鎖から解放するときが来たように思われる。


山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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