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2015.02.03

合意が近いTPP交渉

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2015年2月3日放送原稿)

1.TPP交渉で新たな展開が見られたようです。

 二つの重要な動きがあります。

 一つは、昨年11月に行われたアメリカの中間選挙の結果、自由貿易推進に前向きな共和党が、上院、下院とも議会の多数を占めるようになったということです。アメリカでは、憲法上、通商交渉を行う権限を、政府ではなく議会が持っています。そのため、アメリカ政府が交渉を妥結しようとするときには、政府にその権限を譲ってもらう、貿易促進権限法、TPA法というものを、議会で可決してもらう必要があります。民主党のオバマ政権は、共和党と激しく対立しています。しかし、自由貿易を推進するTPA法については、共和党もオバマ政権に協力してもよいという態度を採っています。共和党としては、来年の大統領選挙や議会選挙を考えると、自由貿易に反対しているという印象を国民に与えることは、よくないと判断しているようです。

 2月には、TPA法案が議会に提出され、3月には可決されるという予想があります。今年の後半になると、来年の大統領選挙に向けた活動が始まりますから、アメリカ政府としては今年の前半までにTPP交渉をまとめたいと考えているのではないかと思います。交渉は加速していくと思います。


2.もう一つは、何でしょうか?

 日本とアメリカの農産物をめぐる協議が、合意に近づいているということです。日本は、牛肉について、38.5%の現在の関税を10数年かけて9%にまで引き下げると提案していると報道されています。豚肉については、これまで、アメリカの豚肉生産者団体は、日本の交渉姿勢を強く批判し、日本が関税を撤廃しないなら、日本抜きでTPP交渉を行うべきだという主張も行ってきました。その団体が、1月26日に議会に書簡を送り、日本の市場開放の提案で「重要な進展があった」という認識を示したうえで、TPA法案を速やかに成立させるよう、アメリカ議会に要請したことが明らかになりました。豚肉の関税は撤廃ではないにしても、大きく引き下げることで交渉が行われているようです。

 米については、日本は、関税を維持する代わりに、今のミニマム・アクセスといわれる、77万トンの低関税の輸入枠に加えて、5万トンの米国産の輸入特別枠を検討していると報道されています。

 アメリカの通商代表も合意が近いという発言をしています。2月2日からは、農業分野の関税を巡る日米2国間の協議が開始されています。


3.これらの動きをどのように評価しますか?

 2012年から為替レートは50%ほど円安になっています。牛肉について言うと、2012年に100円で輸入された牛肉は、38.5%の関税がかけられると138.5円で輸入されたことになります。しかし、今の為替レートでは、関税がなくても150円で輸入されます。関税削減の影響は少ないと思います。

 アメリカでは、農業地域選出の議員は、共和党の議員が多く、アメリカで最も力を持っている農業団体も、共和党を支持しています。もっとも強硬に関税撤廃を叫んでいた豚肉業界が満足する交渉状況だというのですから、共和党が多数を占める議会でのTPA法案の可決、さらにはTPP交渉の妥結に向けて、大きく前進したと言えるのではないかと思います。

 米については、日本は、あいかわらず高い関税を維持するために、低関税の輸入枠を増やすという交渉をしています。これまで、ミニマム・アクセスで輸入した米と同じ量を、海外の援助や家畜のエサに処分して、減反面積を増やさないようにしてきました。高く買って安く売るのですから、政府は大変な財政負担をしてきました。それをしなければ、輸入米が増えた分、国内生産が減るので、食料自給率は低下します。今回の特別輸入枠で、さらに財政負担が増えることになります。

 しかし、米の内外価格差は縮小しています。同じ財政負担をするのであれば、関税を撤廃して、米の価格を下げ、消費者に安く米を提供するとともに、影響を受ける主業農家の人に財政から直接支払いを行えば、国内生産は減少しません。

 日本の農政は、消費者に高い価格を払わせて、農業を保護するという政策を採ってきました。農業にとっても不幸なことでした。価格を維持することで、コストの高い零細な農家の人たちが、米農業を続けました。農業で生計を立てている主業農家が、農地を集めて規模を拡大し、収益を上げることは難しくなりました。その結果、日本の農家の7割が米農家なのに、その人たちが日本農業の2割しか生産しないという、非効率な米農業が出来上がってしまいました。


4.今後の交渉はどうなるでしょうか?

 これまでTPP交渉の進展を妨げてきた日米の協議が進展したことで、今後は、国有企業や医薬品などに交渉の重点が移っていくと思います。国有企業については、国有企業と外国企業との競争条件の格差をいかに是正するかという問題ばかり報道されています。しかし、国有企業が貿易を阻害するという問題も重要です。日本は中国に1%の関税を払うだけで、米を輸出できます。しかし、中国の国有企業が独占的に流通を支配しているために、日本で、キログラム300円で売られている米が、北京や上海では1,300円で売られています。国有企業が事実上の関税をとっているので、自由に輸出できません。将来中国がTPPに加入した場合に、中国に国有企業の規律を適用することを考えて、この点についてもしっかりと交渉してもらいたいと思います。


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