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2015.02.02

成長戦略の試金石となった農協改編の行方-佐賀県知事選で敗れても強気を崩さぬ安倍首相の本気度-

WEBRONZA に掲載(2015年1月19日付)

 農協改革が、安倍政権第三の矢の試金石となってきた。安倍首相が、本当に岩盤規制にドリルで穴を開けることができるかどうか、内外の注目が集まっている。


■骨抜きにされた株式会社化
 政府の規制改革会議は2014年5月、次のような農協改革案を実現しようとした。

 第一に、農協の政治活動の中心だったJA全中(全国農業協同組合中央会)に関する規定を農協法から削除する。政治力を削ぐとともに、末端の農協への指導・監査権限を弱める。

 第二に、全農やホクレンなど連合会の株式会社化である。協同組合の連合会という理由で、独占禁止法が適用されないことを利用して、全農等は高い資材価格を農家に押し付け、日本農業の高コスト体質を作り上げ、最終的には高い食料品価格を消費者に強いている。株式会社になれば、独占禁止法を適用できる。

 これは、農協の意向を忖度せざるをえない自民党によって、完全に骨抜きされた。全中は新たな制度に移行するが、「農協系統組織での検討を踏まえ」る。全農の株式会社化も、単なる選択肢の一つとなったうえ、「独占禁止法が適用される場合の問題点を精査して問題がなければ」株式会社化を促すとされた。判断するのは、JA農協だということになった。

 2014年11月、JA全中が公表した自己改革案では、地域農協に対する全中の監査という大きな権限は維持するとともに、全中などの中央会を農協法に措置することが重要だとした(全農やホクレンなどの株式会社化については、検討を先送りした)。予想された通りである。


■強気を崩さぬ安倍首相
 しかし、安倍首相は同年6月、「中央会は再出発し農協法に基づく現行の中央会制度は存続しない。改革が単なる看板の掛け替えに終わることは決してない」と発言している。

 さらに、佐賀県知事選で農協がバックアップした候補に自民党候補が敗北した直後の、2015年1月16日にも、「地域の農協を主役として、農業を成長産業に変えていくために、全力投球できるようにしていきたい。その中において、中央会(農業協同組合中央会)には脇役に徹していただきたい」と発言し、強気の姿勢を崩さない。

 政府は、JA全中が地域の農協を監査・指導する権限を廃止する方針で、今月下旬からはじまる通常国会に関連法案を提出したい考えだが、全中や自民党の農林族議員たちは、強く反発している。農協の機関紙である「日本農業新聞」は、安倍政権との全面対決姿勢を鮮明にしている。


■強制的な監査権限を農協法で規定するのか
 特に、焦点となっているのは、全中が地域農協に対して行う強制的な監査権限を、引き続き農協法で規定するかどうかである。論点を整理しよう。

 第一に、JA全中会長が強調するように、農協は自主自立の組織である。そうであれば、地域農協が自主的な判断で必要と感じた場合には、一般社団法人となった全中に、自主的に監査を依頼すればよいだけであって、農協法に規定する必要はない。

 また、公認会計士と全中のどちらに監査を依頼するかは、自主自立の組織である農協が判断すべきことである。全中は、会計監査だけでなく業務監査もできるとか、農業に詳しい監査士を備えているとか、その監査が優れていることを強調する。それならば、地域農協は、全中の監査を自主的に選ぶのではないか。自主自立の組織なのに、農協法に措置しなければ、全中の監査を受けられないというのは、奇妙である。


■想定しにくい地域農協の破たん
 第二に、全中は、組合員らはJAが潰れたからといって、地域を簡単には離れられないので、破たんを防ぐ必要があるという。しかし、全中自体が農協法に規定されたきっかけは、戦後農協を作って間もなく、農協が破たんする事態が相次いだことである。これはインフレを収束しようとしたドッジ・プランによって農産物価格が低迷し、戦後乱立した小規模の農協がこれを処理できなかったことに加え、農協の前身である戦前の統制団体から、多くの不良資産を引き継いでいたからである。

 今はどうか?戦後設立された地域農協は1万3千だった。しかし、現在では708に大幅に減少し、地域農協といえども一県一農協となるなど、大規模化している。また、農協はドッジ・プランで起こったようなデフレも、今回難なく乗り切っている。破たんすることは、想定しにくい。

 地域の農協が破たんしても、農家は農業資材をホームセンターで購入できるし、農産物を販売する道も、今ではJAだけに限られてはいない。全てJAに丸抱えされていた戦後の事態とは、大きく異なる。また、これまでは、農家が農協を作ろうとすると、都道府県JA中央会と協議しなければならなかったが、2013年にこの規定が廃止され、普通の協同組合と同じく、農家は自由に、自主的に農協を作ることができるようになった。JA農協に固執する必要はなくなっている。


■協同組合性を欠く組織
 第三に、最も重要で本質的なことは、強制監査が、JA農協の協同組合性をなくし、国民に高い食料品価格を強いていることにつながっていることである。JA農協の本質は何か?それは協同組合性を欠く組織だということである。

 生協は消費者が作る。生協とその連合会は対等の存在であり、上下関係はない。協同組合とは、下からの"ボトムアップ"の組織なのである。ところが、JA農協は、戦前の統制団体を衣替えして作った組織である。統制団体なので、その組織原理は、上意下達の"トップダウン"である。中央の連合会が地域の農協をコントロールする、ピラミッド型の組織である。強制監査は、その手段として機能した。

 ボトムアップ組織の生協には、全国連合会による強制監査などない。また、農協は、株式会社の場合の公認会計士又は監査法人による外部監査は、投資家保護のためであり、組合員を抱える農協では十分ではないというが、生協の外部監査も、公認会計士又は監査法人によるものである。


■国民にとって必要な農協改革
 戦後の農協の経営破たん問題をきっかけとして、JAグループは単協―県連―全国連の農協系統を、全て利用することを促進することとなった。地域農協や県の連合会が、全農を通さないで、独自に、肥料や農薬を買ったり、農産物を販売したりすることを禁じたのである。これは「整促事業方式」と呼ばれ、JA農協グループの基本原則となった。

 法律的には、地域農協は全農を通じなくても、農業資材を購入できるし、農産物を販売できる。JA越前たけふが、全農を通じないで、肥料を購入したら、3割も安くなったという。しかし、上位のJA 組織から、相当な締め付けを受けたと、組合長は述べている。JA越前たけふを視察した、地域農協の人たちは、「私達には、とてもこんなことはできません」という。強制監査を受ける地域農協は、ピラミッド型の組織の一員である。JAグループ内で、締め付けられ、孤立するのが、怖いのだろう。

 結局、地域農協は、高くても、全農から資材を買うしかない。農家の生産コストは高くなる。農産物価格が高くならなければ、農家の経営は圧迫される。農産物価格を高くすれば、消費者は高い食料品価格を払うことになる。国際価格よりも高いので、関税が必要になる。したがって、JA農協は、TPP交渉に反対する。

 JA全中の強制監査をなくし、全農やホクレンなど連合会を株式会社化すれば、コストが低下するので、農家の所得は向上する。価格が安くなれば、消費者は利益を受ける。農協改革は、農家だけではなく、国民にとっても必要なのである。

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